英国のヴァージンアトランティック航空は2014年9月3日、成田-ロンドン線について2015年2月1日をもって廃止すると発表した。成田-ロンドン線は、同社が唯一自社便で運航している路線であり、今回の決定は実質的に日本からの撤退ということになる。
同社が日本から撤退する主な理由は、グローバルな事業構成の再編である。
同社はヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソン氏がオーナーとして過半数の株式を保有しているが、残りはシンガポール航空が保有していた。だが2012年にデルタ航空がシンガポール航空から株式を取得し、同社はデルタ航空との提携関係を強めている。
同社は今後、大西洋路線を強化する方針を明らかにしており、ロンドン-デトロイト線を新設する。デトロイトはデルタ航空の米国内のハブ(拠点空港)のひとつであり、一連の動きはデルタとの提携強化という流れの中に位置付けられる。
同社は、機内にバーカウンターを設置するなど、著名起業家であるブランソン氏の奇抜なアイデアで革新的なサービスを提供してきた会社である。同社には固定ファンも多いといわれており、成田-ロンドン線も、それなりの収益力はあったといわれている。
それでも日本撤退を決断した背景には、日本の相対的な地位の低下によって、グローバルな水準における標準的収益を上げられないという、マクロ的事情があると考えられる。8月には、100年以上の歴史を持つシティバンクが、日本からの撤退を発表したばかりだが、同じような理由と考えられる。
日本にいるとあまり実感しないが、ここ20年の間に世界の航空輸送の市場は驚異的なペースで拡大している。航空便の旅客数は、北米が約2倍、欧州が約3倍、アジアは約4倍に増加した。
これに対して日本の旅客数は、同じ期間で横ばいもしくは微増という状況である。相対的に見れば、日本の航空輸送の規模は3分の1の水準に低下してしまったことになる。
最大の原因は、ここ20年まったく経済成長ができなかったというマクロ的なものだが、大手航空会社を過剰に保護し、LCC(格安航空会社)を育成しない、あるいは、空港を官の運営で独占し高コスト体質を改善できないなど、個別政策の影響も大きい。
今後も様々な業界で、赤字にはなっていないが、日本からは撤退するという動きが続く可能性がある。こうした動きは、単体では大したことはないかもしれないが、長期的には、ボディーブローのように日本経済に悪影響を及ぼすことになる。
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