夜の街を徘徊する、傷ついた影の獣。

    作者:長野聖夜

     夜の帳に包まれたある日のこと。1人の青年が、人気のない、闇に沈んだ夜の街を徘徊していた。
     漆黒のマントに身を包み、夜闇を切り裂くような銀髪のその青年の片目に宿るのは、蒼炎。
     ――それは、自らの復讐の為に全てを捧げる覚悟を持った、かつては、杉凪・宥氣と呼ばれた灼滅者のなれの果て。
    「何処だ……何処にいる、シャドウ……!」
     内に眠る闇に耳を傾けながら、ひたすら敵を求めて流離うその姿に、かつて、仲間たちとともに、笑い合った光はない。
    「早く出て来い、シャドウ……! 俺が必ず貴様たちを壊す。 ……殺された者たちの報いの為に」
     自らの記憶を辿ることで生み出されたその呟きは、まるでゴーストタウンの様にしんとしているその街の中に空しく木霊した。
    「……その復讐の先にあるのは一体何なのでしょうか」
     憂い気な表情を浮かべたままに、教室に入ってきた灼滅者達を見つめる五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)。
     哀しみにその瞳を揺らしながら、彼女は灼滅者達に告げた。
    「サイキックアブソーバーが一つの未来を予知しました。それは、シャドウを滅するためにそれを探して行動を起こしていた……過日に起きたサイキックアブソーバー強奪事件で闇堕ちした……宥氣さんが姿を現すというものです」
     呟く姫子の言葉に、灼滅者達の中に緊張が走る。あの戦争の記憶は、未だ新しい。
    「ダークネスとなってしまった宥氣さん……彼は、シャドウへの復讐を誓い、この武蔵坂学園に来ました。……彼が闇堕ちしたのは、そのシャドウへの復讐を果たしたいと言う強い心によってです。結果として……自らが最も憎悪していた筈の、シャドウの力に目覚めてしまった。……あまりにも強い復讐心だけをその心に残したまま」
     復讐の為に、力を求め、自ら其の昏い悦びに身を焦がす。
     けれど、その深い闇に従い精神世界に存在する闇を滅ぼすことは、その本来の精神世界の持ち主の心を壊してしまうことになる。
    「彼は、気付いていないのです……。彼が家族を失った悲しみを、自らの復讐という行いに転じてしまえば……其の代償として……罪のない、普通の人々から、大切な家族を奪う、或いは、奪ってしまうという可能性に」
     そしてその先にある、復讐の連鎖……それによって擦り減っていく人の心……其れを糧にするのもまた、シャドウの本質であることに……姫子の悲しげな呟きが、教室の中で虚ろに響いた。
     
     
    「闇堕ちした宥氣さんの一番の問題は、彼の中にいたシャドウが、元々、復讐を志す存在であったことです」
     悲しげにそう呟き、小さく首を横に振る姫子。
    「宥氣さんの場合、シャドウに復讐したいと言うその心と、シャドウ自身が持っていた復讐心……それが一致したがゆえに、今回の様な凶行に出ようとしているのでしょう。だからこそ、非常に危険な状態です」
     仮に宥氣がシャドウと接触することがあれば、シャドウの存在する精神世界の中に潜り込み、かの者を容赦なく滅ぼすだろう。
     ……それによって、自らの自意識を放棄するだけでなく……そのあまりにも残虐で残酷な殺し方故に、シャドウに取りつかれていたソウルボードの持ち主の心が壊れてしまう可能性がある。放置するわけにはいかなかった。
    「けれども、宥氣さんはまだそこに至っていません。ダークネス化してまだ間もない彼ならば、もしかしたら急げば間に合うかもしれません。……その心を、取り戻させることができれば、ですが」
     決意を込めた姫子の言葉に、灼滅者たちは首を縦に振る。
    「ただ、ダークネスとなった宥氣さんは非常に用心深く、基本的にはタイマンでしか戦うことはありません。もし相手が複数いるならば、戦うよりも逃げることに徹します。……もしここで逃げられてしまったら、恐らく彼を助けるチャンスは二度と来ない……そう思ってください」
     それから姫子は少しだけ考えるように目を瞑り、程なくして開いた。
    「宥氣さんを連れ戻すのであれば……その復讐の先にある復讐の連鎖という未来を分からせること、そして……そんなものがなくとも、宥氣さんを待っている人たちがいるということは伝えるべきでしょう。事実、私たちは待っているのですから。……宥氣さんが皆と笑いあって共に学園生活を過ごせるその日が来るのを」
     それから姫子は未来予測によれば、と続けた。
    「彼が使用してくるのは、影喰らい、斬影刃、バニシングフレア、ブラックフォーム、レーヴァテイン、オーラキャノンの様です。……どうか誰1人欠けることなく、宥氣さんを連れ戻してください。けれど、それが駄目だった時は……灼滅してください。……仲間である皆様にその重荷を背負わせるのは酷な話なのは分かりますが……どうかよろしくお願い致します」
     姫子の苦しげな呟きに頷き、灼滅者たちは静かに教室を後にした。


    種類:
    出発:9月11日

    難度:普通
    参加:8人(あと0人)
    長野聖夜より
     いつも大変お世話になっております。長野聖夜です。
     サイキックアブソーバー強奪事件により闇堕ちした杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)を救出ないしは、灼滅してください。
     シナリオは、宥氣に会ったところから始まります。説得の内容によって、彼の能力に大きな変化が起きると考えてください。
     尚、今回の任務に際しては、宥氣に対する感情を持つ方は活性化はしておいた方がいいかも知れません。
     勿論、他の仲間たちとの連携の為の活性化もしておいた方がいいかも知れません。
     判定の結果、宥氣の説得に成功すれば、彼は灼滅者に戻り、また皆さんと一緒に冒険に出ることができます。
     尚、説得に失敗し、灼滅した場合でも、失敗とはみなしません。今回の失敗条件は、宥氣の撤退です。
     よろしくお願い致します。

    ※ 参加者が4人に満たない場合、冒険中止となり、返金されます

    ※ ひとつのシナリオに参加したら、そのシナリオが出発するまで別のシナリオには参加できません。ただし以下の場合は例外です。
    ・サポート参加
    ・学園シナリオ


    参加者
    浦波・仙花(鏡合わせの紅色・d02179)
    ゲイル・ライトウィンド(空虚なる光の行使者・d05576)
    高遠・彼方(無銘葬・d06991)
    皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)
    シャルロッテ・カキザキ(幻夢界の執行者・d16038)
    緑風・玲那(紅き風纏い飛翔する戦乙女・d17507)
    辻・蓮菜(反魂パステルアーミー・d18703)
    神打・イカリ(ワールドリヴァイバー・d21543)

    ■教室の片隅

     ここでは参加者だけが発言できます。自己紹介や相談用としてご活用ください。
     なお、ここで相談することは義務ではありません。


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