ナチス:略奪美術品 返還も寄贈も壁 1400億円分

毎日新聞 2014年09月06日 07時52分(最終更新 09月06日 17時36分)

グルリット氏が遺言で作品の寄贈先に指定したベルン美術館=スイス・ベルンで2014年5月7日、ロイター
グルリット氏が遺言で作品の寄贈先に指定したベルン美術館=スイス・ベルンで2014年5月7日、ロイター

 【ベルリン篠田航一】ナチス・ドイツに略奪されたとみられる美術品1400点あまり(時価総額約1400億円相当)の行方が宙に浮いている。本来の所有者の特定が難しいうえ、美術館での「略奪品」の受け入れにも法的・倫理的な課題が伴うためだ。ナチスの略奪美術品を巡っては、本来の所有者などへの返還を求める「ワシントン原則」に40カ国以上が署名しているが、法的拘束力はなく、返還が進んでいないのが実態だ。

 これらの美術品は、ナチスが1930〜40年代にユダヤ人らから略奪したとみられる絵画や版画。ドイツ南部ミュンヘン在住の美術品収集家コーネリウス・グルリット氏宅で発見されたことが昨年11月、独メディアの報道で発覚した。

 その後、グルリット氏は今年5月に81歳で死去し、遺言で作品をスイスのベルン美術館に寄贈するよう指定した。だが、略奪品と確認された作品は本来の所有者に返還されるため、美術館は受け入れについて「法的、倫理的な課題」があるとの見解を示している。順調に作品が寄贈されるかは不明だ。

 美術品は2012年2月、脱税事件を捜査していたドイツ捜査当局がグルリット氏の自宅アパートを家宅捜索した際に発見し、その後、専門家による鑑定作業が続いている。グルリット氏の父親はナチスで宣伝を担当していた幹部ゲッベルスと親しい画商で、ユダヤ人らから没収した作品を多く扱っていた。

 息子のグルリット氏はこうした作品を戦後も保管し、時折数枚を売却しながら生活していたとみられる。生涯独身を通したグルリット氏は昨年11月、独誌シュピーゲルに「私は人を愛したことがない。生涯で最も愛したのは絵画だ」などと述べていた。

 絵画はシャガールの未発表作品のほか、ピカソ、マチス、ルノワールら著名画家の作品もあり、大半が良好な状態で保管されていた。昨年の報道後、略奪被害者側のユダヤ人団体などから「正当な持ち主に返すべきだ」との声が上がっている。

 当初は返還に難色を示したグルリット氏も今年4月、本来の所有者が特定できた場合はその親族らに返還することに同意したが、その直後に死亡し、遺言ではベルン美術館への寄贈を指定していた。

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