停戦はあくまで事態打開への一歩でしかない。

 ウクライナの領土保全と主権の尊重を基礎に、しっかりとした合意をつくりあげ、恒久的な安定につなげるべきだ。

 同国東部で戦闘を続けてきた政府軍と親ロシア派武装勢力が停戦で合意した。

 戦火による多数の死者に加え、隣のロシアや国内の別の地へ逃れた避難民も100万を超えた。生活を支える施設の大半を破壊された都市部では、きびしい冬を前に人道危機の恐れが高まっている。

 国際社会はまず、戦乱で傷つき、苦境にあえぐ人びとへの支援と復興の措置を急ぎたい。

 そのうえで長期的な和平づくりへ国際支援を加速させたいところだが、実際は停戦が維持されるかどうかも心もとない。

 ロシア軍の介入で軍事的な苦境に立たされたウクライナ政府は、経済的にも危機が深まる中で、やむなく停戦に応じた。

 だが、紛争地である東部の統治をどうするかをめぐっては、対立の構図は変わっていない。

 ウクライナ政府は、経済活動や言語の選択などで東部の分権化は進めるが、分離・独立は一切認めない方針だ。親ロシア派とは依然、隔たりがある。

 かぎを握るのは、やはりロシアの動向だろう。

 ロシアは軍事的なてこ入れで戦況を変える一方、プーチン大統領が停戦を働きかけた。その背景にあったのは、ロシア国内での風向きの変化だ。

 この夏から科された米欧による制裁は、ロシア経済に打撃を与えている。また、軍事介入で死亡したロシア兵の情報を独立系メディアが盛んに伝え、厭戦(えんせん)気分も増してきた。

 世論調査では、ウクライナとの公然とした軍事紛争への支持が急速に減りつつある。

 ただしプーチン氏は、それでもウクライナ東部をロシアの影響下におこうとする野心は捨てていないようだ。同氏が示した和平案には、東部の分離に道を開く内容もあり、ウクライナ政府は懐疑心を残したままだ。

 プーチン氏がウクライナの領土保全を明言せず、欧州連合(EU)加盟などの親欧米政策を揺さぶり続ける限り、争いはいつでも再燃しかねない。

 欧米が停戦後も警戒をゆるめないのは当然だ。北大西洋条約機構(NATO)は、有事に即応できる部隊の新設などを決め、EUも新たに準備した制裁を発表した。

 ロシアはこれ以上自らを孤立させる行動をやめ、真の紛争解決に動かねばならない。