社会

【社説】国連人種差別撤廃委 勧告に真摯に対応を

 日本は先進国にもかかわらず国内の人権課題の解決に後ろ向きな国、と国際的に認識されているようだ。やむを得まい。10年以上にわたり、外部から指摘された諸問題を放置し続けているのだから。

 国連人種差別撤廃委員会が8月、日本国内の人権状況に関する「総括所見」を公表した。マイノリティーである海外からの移住労働者や被差別部落出身者、アイヌ民族、琉球・沖縄問題など、人権課題への政府の対応に必要な措置を勧告している。社会問題や外交問題として注目されている事項にも踏み込んだ要請を突きつけた。

 ヘイトスピーチについては、責任のある民間の個人や団体を捜査し、必要と認められた場合は起訴することを求めた。朝鮮高校に対しては補助金支給の再開や維持を求め、国に無償化制度の対象とすることを奨励した。日本の教育差別禁止条約への加入も勧告している。

 いずれも、政府には耳が痛いのではないか。特に安倍晋三政権が対応に消極的であったり、どちらかといえば逆行する立場をとりがちであったりした問題ばかりである。

 同委が日本を審査した際も、政府は消極的な姿勢に終始した。2010年に出された総括所見への取り組み状況の報告が求められていたにもかかわらず、政府はほとんど触れなかった。

 結果、今回の総括所見には「次回の定期報告書において、すべての勧告に対応するよう強く勧告する」との表現が盛り込まれた。恥ずべきことと思わねばなるまい。人権問題に正面から取り組んでいない、と断言されているに等しい。

 日本が人種差別撤廃条約を1995年に批准して以降、締約国の状況を調べる狙いで実施されている同委による審査は3回目となった。毎回、ほとんどの課題が改善されず、同じ勧告が繰り返されている。

 特に注目すべきは、日本では人種差別の定義がいまだに明確化されていない点だ。「国民的、民族的出身」「皮膚の色」「世系」を対象としていない。すでに100カ国以上で整備されている人種差別を禁ずる法律もない。問題に対処するための基準点にすら達していない状況と言わざるを得ない。

 政府は早急に、真摯に勧告に対応すべきだ。実行しなければ、条約を批准している意味がない。

【神奈川新聞】