契約にかんする民法の規定(債権法)を全面改正する最終案を、法制審議会がまとめた。

 法律ができて120年近く、ほぼ手つかずで、いまの消費社会に対応できていない。改正作業を急ぐべきだ。

 民法は文語体からひらがなの口語体になったのさえこの10年のことで、時代に遅れがちだ。とくに買い物やサービスの提供、お金や不動産の貸し借りの契約は、私たちの日常となじみが深いが、もはや民法でなく裁判例の積み重ねが「事実上のルール」となっている。

 これらの知識は専門家には共有され、「実務に不便はなく、民法大改正など必要ない」という意見もある。しかし、プロにとっては当たり前のことと放置してきたのは、市民の視点からすればあまりに不誠実だった。確立したルールなら、すみやかに法に反映するのが筋だ。

 契約をより使いやすくしようとする最終案の方向性は評価できる。例えば、部屋を借りるとき払う敷金は民法で定めがない。退去時、修繕にかかるなどの理由で全額は返還されなかったという人もいるだろう。

 最終案は、返還すべき時期や範囲とともに、部屋の年月に応じた自然な劣化には、借り手は責任を負わないとする。

 重い認知症の人が交わした契約は無効と明記することも、高齢化社会に必要な規定だろう。

 一方、最終案は消費者を守るしくみに、必ずしもなっていない。お金を貸し、返せなければ生命保険の解約金で払わせるなど、「暴利行為」の契約を無効にする規定は見送られた。

 企業が多数の人たちと一律の取引をする際に用いられる約款の規定についても、経済界が慎重で、結論が持ち越された。

 民法には約款についての定めはないが、電気・ガス、交通、保険などで使われ、最近ではインターネット上の取引で重要さを増している。

 ネットショッピングで、画面上に現れる長い約款をつぶさに読む人は少数派だろう。不満があっても個別交渉の余地がないのも現実だ。しかし、思わぬ条項があったり、あとで企業側が一方的に変更したりしてトラブルになることもある。

 ネット化がさらに進むとき、不当な約款は無効とするルールは、不可欠ではないか。

 消費者が安心して契約をかわせることは満足感や次の消費にもつながり、企業にとってマイナスではないはずだ。

 来年2月の法制審の答申に間に合うよう、さらに議論を深めてほしい。