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これまでの放送

No.3164
2012年2月23日(木)放送
マンションを救えるか ~見直し迫られる地震保険~

東日本大震災で震度6の揺れに襲われた仙台市です。
市の調査では100棟を超えるマンションが全壊と認定されました。
住民たちが頼りにしたのが地震保険。
しかし、思うように保険金が支払われないという不満が相次いでいます。
6000万円の被害が出たこのマンション。

保険会社からは被害の多くが査定の対象外だと言われました。

査定の対象になるのは柱や、はりなどの主要構造部と呼ばれる部分のみ。
そのほかに被害があっても保険金は全く支払われないのです。

「いったい地震保険とは何なんだということですよね」

業界ではこうした声を受け制度の見直しを検討し始めました。

東日本大震災が浮かび上がらせた地震保険の課題。
巨大地震への備えが求められる今、何をどう見直せばいいのか考えます。

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マンション住民 査定への不満

仙台市内のマンションに住む長崎惠美さんです。
家財を対象にした地震保険に入っていました。
震災で洗面台などが壊れ22万円かけて修理しました。
長崎さん夫婦が地震保険に加入したのは2年前。
火災保険の更新の際勧められたことがきっかけでした。
支払われた保険金は15万円です。

「フリーコールに電話したら『一応いきますから』ってことで来てくれて 査定していただいたんです。 だから得した感じ」

「ここと、ここと。」

バルコニーなどの共用部分には、専有部分よりも大きな被害がありました。
全世帯に水を供給していた高架水槽も破損。
中に入っていた水が壁を突き破り1か月以上、水道が使えなくなりました。
外壁の至る所にひびが入り、共用部分の被害は建物全体に及びました。
修理費用は6000万円を超えると見積もられています。
マンションの管理組合では、共用部分を対象にした地震保険に加入していました。

理事長の佐野豊さんは保険会社に査定を依頼。
保険金で修理ができればと考えていました。
ところが提示されたのは1750万円。
修理費用の3分の1にも満たない額でした。
佐野さんは保険会社の査定に不満を感じていました。

マンション管理組合 佐野豊理事長
「コンクリートがむき出しになったところしか見てくれなかった
結局ほとんど見てくれてなかったと
調査の対象外ということだったみたいですね」

地震保険で査定の対象となるのは建物を支える柱と、はり。
主要構造部と呼ばれる部分だけです。

高架水槽やエレベーターなど生活に不可欠なものにどれだけ被害があっても査定の対象外なのです。
今月、保険会社は佐野さんたちの求めに応じて再び査定に訪れました。
結果が変わらなければ住民から新たな資金を集めなければなりません。
佐野さんは自分たちが見つけたひびが査定の対象にならないか確認していきます。

「内階段の中のクラック(ひび)とかはは特に(主要)構造部に入らない?」

「はい こっち側からだけなんですよ。」

調査が始まって1時間たったとき、佐野さんは廊下のある部分に目を留めました。

「査定と関係ないかもしれないけど
あそこ 傾いてるんですけど あそこの廊下なんですけど あれがなんか右に傾いてるんですけど あれは」

廊下全体が前にせり出し、傾いて見えます。

「地震保険の査定の対象になるとこなんですか?」

「ならないです」

「どうもありがとうございました。」

この日査定結果が変わるという回答は得られませんでした。

マンション管理組合 佐野豊理事長
「主要構造部だけを調べるのではなく 生活者の視点から見て
生活者がこれだけ被害を受けたからという そういう新しい判定基準 そいういうのを作ってほしいですね」

大きな被害があっても保険金が全く出なかったマンションもあります。
500世帯以上が暮らす千葉県浦安市のマンションです。

液状化によって地盤が最大で50センチ沈下。
敷地内の水道管やガス管が使えなくなりました。

「これどういう状況ですか?」

「もとの地面がここなんですね これだけ下がっちゃってる」

大きな段差ができ雨が降ると水がたまるようになりました。
修理の総額は、およそ4億円と見積もられています。

「20センチ 30センチ地上げして 向こうの道路にあわさなければ
水を向こうに出さないといけない」

なぜ保険金が出ないのか。
マンションの建物は地中深くまで打ち込まれたくいによって支えられています。

地盤が沈下したことで周辺部に大きな被害があったもののくいに支えられた建物の主要構造部には被害がありませんでした。
そのため保険金の支払い対象にはならなかったのです。
地震保険の査定を受けながら支払いの対象とならなかったマンションは浦安市内で80棟以上に上ると見られています。

佐山實さん
「『これでも出ないのか』と言って見てもらったんだけど この基準によると出ないと
いったい地震保険ていうのは何なんだということですね」

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地震保険 相次ぐ不満の声
ゲスト天間記者(生活情報部)

取材したマンションでは、実は毎年、120万円の地震の保険料を支払っていたんです。
水道管やガス管を埋め直したりするには多額の費用がかかります。
地震保険の査定がゼロでは、これまでの積立金を取り崩さなければならない状況なんです。
また仙台市でも、エレベーターや廊下など、マンションに欠かせないものが壊れて、生活に支障が出る被害が相次いでいました。
こうした生活に関わる被害が査定されずに、主要構造部だけが査定されることに不満を感じるケースが出てきているんです。

納得できないという原因の一つには、地震保険の査定区分があると感じました。
この区分は3つしかなくて、100%保険金が支払われる全損、50%の半損、そしてその次は支払い額が半損の10分の1になってしまう一部損です。
今回の震災で被害を受けたマンションの多くが、この一部損でした。
1つ段階が違うだけで受け取れる保険金は大きく減ってしまうんです。
しかもなぜこうした査定結果になったのか、査定の詳しい根拠が示されずに、納得できないという声が多いんです。
今回の地震では、速やかに査定が行われて、保険金が出て助かったという声も確かに多くあります。
ただ一方で、時間をかけても、もう少し細かく判定してほしい。
そしてその根拠もきちんと開示してほしいという声も多く上がっているんです。

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保険金が10倍に! カギは情報開示

住民自身の努力で納得のいく査定結果を得たマンションがあります。

仙台市内のこのマンションは共用部分に大きな被害を受けました。
修復には1億円以上かかると見られています。
管理組合の理事長 小林稔さんです。
入っていた地震保険は最高で9800万円。
しかし査定結果は、一部損で保険金は490万円でした。

保険会社から渡された資料です。
損害の割合は19%と記されていました。
地震保険は、損害の割合によって3つに区分されます。
19%は一部損ですがもし1%上がれば半損になります。
受け取れる保険金は10倍に跳ね上がります。

マンション管理組合 小林稔理事長
「1%上がれば評価が10倍変わりますので これはすぐあきらめるようなものではなくて これではみなさん やはり納得できないなと」

小林さんがまず求めたのは査定についての情報開示です。
交渉の末1枚の図面が開示されました。

「通路側 バルコニー側ですね」

12本の柱。
マンションの主要構造部です。
柱には査定の対象になった54のひびの場所や大きさが示されていました。
住民たちは見落とされたひびがないかみずから探すことにしました。
12本目の最後の柱を調べていたとき。

「ここのひび割れが認定対象になったと。」

保険会社は柱の正面にあったひびは確認していました。
しかし、側面にあるこのひびは見落としていたのです。
新たなひびを加えて査定した結果、保険金は4900万円になりました。

マンション管理組合 小林稔理事長
「修復工事費の一部になったことに 非常に安どしましたし 保険会社さんの方で必要な説明をしてもらえたことに感謝しています」

今回の震災をきっかけに保険会社でも、開示を積極的に進めようという動きが出てきています。
仙台市でおよそ300棟のマンションを査定した保険会社です。

「これがあの 仙台市内のマンション共用部の損害のですね 認定をしたリストです」

今もマンションの住民から再査定の要望が続いています。

「災害対策室鈴木と申します。
お世話になっております。」

マンションの査定の難しさに向き合っています。

あいおいニッセイ同和損保仙台災害対策室 榊原正敏室長
「『見落としがあったので見てください』というご要望でおうかがいをする
きちっと見てもらってるかどうかが一番大きいんだろうなと」

これはこの会社が再査定を行ったマンションです。
当初は、一部損でしたが半損へと変更しました。
住民が新たなひびを見つけたためでした。
この会社では損傷の見落としがあることは避けられないとして、住民からの要望などがあれば査定の根拠となった写真や図面を開示していく方針です。

あいおいニッセイ同和損保仙台災害対策室
榊原正敏室長
「誰に見せてもですね 納得できる 情報を示すことによって ご了解いただけるということになると思いますので
なんかこう、変に隠してですね 結果だけ伝えると それは当然のことながら説明できないし納得感も得られないということになりますので」

情報の開示や基準の見直しを求める声にどう応えていくのか。
日本損害保険協会では今後、国と合同で検討していくことにしています。

日本損害保険協会 栗山泰史常務理事
「地震保険は確かに保険契約者が不満に思われるってところはあるんだと思うんですね
特にマンションにおいてはその問題が強く出てくるというところも理解できます
苦情や不満をベースにしてしっかりやっていくってのは保険会社としての責任だと思いますね」

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見直し迫られる地震保険
ゲスト黒木松男さん(創価大学法科大学院教授)

●戸建てより多いマンション住民からの不満 その背景

戸建ての場合は、柱とか、はりが傾いたりして、被災に遭った方も理解がしやすいんですね。
それに対してマンションの場合には、主要構造部に損傷があるということが、なかなか分かりづらい部分があって。
査定する側もそうなんですが、また査定される側も、なかなか一致する、査定について納得できるという場面がなかなか難しいところがございます。

それ(査定区分が僅か3つしかないこと)は、期待をされる契約者の方にとっては、地震保険も火災保険と同じように見て、例えば30%の損害があれば、30%の保険金が出ると考えるわけですが、地震保険はそうではなくて、広域的な、非常に広い範囲にわたって地震損害が発生しますので、その判定をなるべく迅速に早く、そして、支払い保険金も早く払っていくということが非常に重要なんですね。
そういう意味で地震保険が出来ました、昭和41年の段階では、見舞い金的な性格が地震保険の性格であって、火災保険のような財産保険ではないというのがその性格なんです。
したがって住民の方の期待とのギャップが、そこに出てきてしまうわけですね。

●なぜ査定対象は主要構造部だけなのか

それは日本がやはり地震大国であると、そういうことに関わってくると思います。
日本がもし大きな地震があった場合、今回の地震も大変大きな地震なんですが、それ以上の地震が起きるかもしれない。
そのような巨大地震に対する備えと考えるとですね、なるべく支払い保険金を抑制しておこうという、そういうことのために、準備のためにとっておこうという、そういう配慮が働きます。
査定を早くしていくということですね。
それと支払い保険金を抑制していくということが必要になってきます。

●地震保険の仕組み

地震保険は、契約者が支払った保険料のほとんどは、そのまま積立金としてプールされます。
そして地震があったとき、保険金はこの積立金から支払われますが、積立金が足りない場合は、総額5.5兆円を上限に、国がバックアップする仕組みになっています。
つまり、民間の保険会社が窓口となって、国が制度を支えるという仕組みになっているということで、こうやって見ますと、この積立金がどれだけあるかが、非常に重要な問題になるわけですね。

今回の地震では、半分近く使ってしまいまして、それが1兆2000億円という数字ですので。
過去最高ですね。
阪神大震災の15倍といわれています。
現在、準備金の額はかなり減少しておりまして、民間と政府合計では1兆1000億円しか残っていないという状況にございます。
したがって、その積立金、準備金を上げるためには、保険料を上げる可能性、地震保険料を上げる可能性が出てきています。

●制度の見直しは必要か

今回の日本マンション学会の調査団として行きましたけれども、そのときに多く聞かれた不満としてはビデオにもございましたように、損害区分を3区分に限定している、もう1つを入れ込んで、4区分にできないのかという議論がですね。
10倍という開きが非常に大きすぎますね。

あと住民の方からのご不満としては、結論だけを言われて、なぜそうなのか、そういう根拠を示してもらえなかったという、多くの方からご不満をお聞きしました。
そういう意味では、損害保険会社のほうが、そのような損害査定の、地震保険の損害査定の透明性というものを高めていく、損害保険会社の説明義務や、あるいは情報提供義務というものについての開示のルール化みたいなものですね、例えば地震査定の報告書みたいなフォーマットを作って、やはり示すべきではないかというふうに感じました。

(この地震保険で求められていることは)やはり先ほど申し上げました準備金の額をいかに充実したものにするか。積立金ですね。
そのために、保険料をどうするのか。
また先ほど言いました損害区分をどうするのかという問題も含めて、抜本的な見直しをする時期に今、来ているような気がいたしまして、国や業界ですね、またわれわれ国民としても、そのことについてよく考える、絶好の機会が、現在かなというふうに思っております。

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