(2014年9月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
プーチン大統領(上)がすべてのカードを握り、ジレンマを突き付けられるオバマ大統領(下)〔AFPBB News〕
8月末に2人の米国人の首をはねたシリアのイスラム過激派に対処するための「戦略を我々はまだ持ち合わせていない」と認めた後、バラク・オバマ米大統領は9月初めに欧州を訪問した際、より自信に満ちた調子で語った。
オバマ氏は9月3日のエストニア訪問を利用し、「タリンやリガ、ヴィルニアスを守ることは、ベルリンやパリ、ロンドンを守ることと同様に重要である」と明言した。
だが、過去数十年間で最も重要な北大西洋条約機構(NATO)首脳会議と言われてきた会合が始まった時、オバマ氏が欧州の国境で勃発したウクライナ危機のための戦略を立てるのにも四苦八苦しているというのが、気まずい現実だった。
ロシア軍がウクライナ南東部で親ロシア派勢力とウクライナ軍との間で新たな戦線を切り開く助けをしているという証拠が次々と出てくる中、ウラジーミル・プーチン大統領は機内のナプキンの上に停戦計画を走り書きしながらも、紛争の危険性を劇的に高めてきた。
このことが、オバマ氏を受け入れ難い選択に追い込んだ。キエフに武器を送って紛争をエスカレートさせ、NATOの結束を危険にさらすか、それとも米国内の多くの人が屈辱的な譲歩と見なす外交取引を追求するか、という選択だ。
どれも困難なオバマ大統領の選択肢
シリアの場合と同じように、オバマ氏の選択肢はどれも困難だ。これまでオバマ氏は、外交的解決を望んでいると発言する一方で、制裁を通じてロシアへの圧力を徐々に強めることによって、自身の政権内部のタカ派とハト派の相違や同盟国間の相違に何とか折り合いをつけることができた。
だが、プーチン氏の最新のギャンブルは、こうした矛盾するアプローチの違いを際立たせ、オバマ氏を分裂の拡大という状況に陥らせている。
ハト派は、ロシアによる事実上のウクライナ侵略は、親ロシア派の明白な敗北を伴う紛争の軍事的解決が決してあり得ないことを示していると主張する。これはドイツ政府が支持する見方だ。
プーチン氏は隣国に住み、ウクライナを死活的な利益と見なしているため、常に、西側が安心していられる以上のレベルまで紛争をエスカレートさせる用意がある。ウクライナを手中に収めたい気持ちは、断然プーチン氏の方が強いのだ。
冬が近づいてきており、それに伴ってロシアがウクライナと欧州へのガス供給を停止させる可能性が高まっていく。一方、ウクライナ国内で経済的、社会的な圧力が高まっていることは、ウクライナが東部で長期にわたる軍事的対立を続けられる立場にないことを意味している。