【BOX】八重樫、ロマゴンと打ち合い!9回TKOで王者陥落
◆プロボクシング トリプルマッチ ▽WBC世界フライ級タイトルマッチ ○ローマン・ゴンサレス(9回2分24秒 TKO)八重樫東●(5日、東京・代々木競技場第二体育館)
WBC世界ライトフライ級王者の井上尚弥(21)=大橋=が同級13位のサマートレック・ゴーキャットジム(29)=タイ=を11回TKOで下し、初防衛に成功した。WBC世界フライ級王者・八重樫東(31)=大橋=は元世界2階級制覇のローマン・ゴンサレス(27)=ニカラグア=に9回TKOで敗れ、4度目の防衛に失敗。
八重樫が壮絶に散った。9回、ゴンサレスの左アッパーであごが上がった。慌てて右を返そうとしたところに右を被弾し、コーナーまで後退。5発目の左クロスでキャンバスに尻餅をついた。続行可能をアピールしたが、2度目のダウンのダメージの深さを見てレフェリーに止められた。わけもなく笑みがこぼれた。
試合直後のリング上では、ゴンサレスに対して「めっちゃ怖かった」と本音を漏らした。控室に戻ると、人生初のKO負けに悔しさが膨らんだ。7日に1歳の誕生日を迎える次女の一永ちゃんを抱き、タオルで目を覆った。長男・圭太郎君(8)に「泣いてないよ」と強がった。
捨て身だった。KO率84%の挑戦者を相手に、距離を取るアウトボクシングを選ばず、初回から接近戦を挑んだ。「初回に動いて見て(作戦を)決めた」。3回に左フックのカウンターを浴びてダウン。それでも手を休めず、何度も盛り返した。歓声が背中を押した。
誰もが対戦を避けたゴンサレスを相手に選んだ。周囲から賛辞をもらったが「負けたら意味がない。戦ったから偉い、なんていう話じゃない」とはねのけた。ただ、報道陣には「終わったのは何回だったんですか?」と尋ねた。かつてない高揚感を胸に、試合に没頭した。
8月6日から横浜市内のジム近くのマンションで一人暮らしを始めた。7月にウイルス性の風邪が家族に流行し、八重樫も39度の高熱を出した。体調を気遣った彩夫人に別居を提案された。3人の子供と会えるのは週1回ほど。寂しさに耐え、家族総出で戦った。
所属ジムの大橋秀行会長(49)は「これがボクシングの原点ですよ」と激闘を演じたまな弟子をたたえた。今後は1階級下のライトフライ級に転向し、3階級制覇を狙う計画もある。八重樫は「失敗、挫折の経験をボクシング人生に生かせればいい」。雑草魂に支えられ、武骨な男の物語は続く。(飯塚 康博)
◆八重樫 東(やえがし・あきら)1983年2月25日、岩手・北上市生まれ。31歳。黒沢尻工高、拓大を経て05年3月プロデビュー。11年10月、WBA世界ミニマム級王座獲得。12年6月、WBC王者・井岡一翔(井岡)との2団体王座統一戦に敗れフライ級に転向。13年4月、WBCフライ級王者・五十嵐俊幸(帝拳)を判定で下し2階級制覇。3度の防衛に成功。身長161センチの右ボクサーファイター。家族は妻、1男2女。