孤高を翔ける 葛西紀明【第三の故郷】
5:心から出るスマイル、海外ファンも魅了
今年3月、W杯最終戦が行われたプラニツァ(スロベニア)で、あるお披露目が行われていた。葛西が2月に結婚した妻を現地まで呼び寄せ、選手や関係者に紹介していたのだ。
「W杯の打ち上げの時に(日本の)みんな集まった前で、結婚するからということで紹介したんです。まだ公になってないから、新聞に出るまで内緒ねって(笑)」
特に喜んだのは、女子ジャンプW杯のレース・ディレクターで、長年、日本チームの遠征に同行してきた吉田千賀だった。「海外の選手は付き合っている時から連れてきますけど、日本人はあまりどころか初めてかな。私、もう十何年チームについていますけど、選手が彼女なり奥さんなりを海外まで連れてきた人はいないです。とても素晴らしい女性で、私もすごくうれしかった」。彼女は葛西の海外の姉のような存在で、なかなか良縁に恵まれなかった葛西をずっと心配していた。
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この地ではW杯52勝のシュリーレンツァウアー(オーストリア)、ソチ五輪2冠のストフ(ポーランド)、四つの五輪金メダルを持つアマン(スイス)など、大スターたちにも妻を引き合わせ、一緒に写真も撮って楽しんだ。皆、宿敵ではあるが、共に厳しいW杯の転戦をし、ジャンプ界を盛り上げる盟友でもある。
元々恥ずかしがりやの葛西は、各国選手らとフランクに話すようになるまで努力もし、今は7〜8カ国語の挨拶(あいさつ)ができるようになった。「いろんな国に行くし、いろんな国の選手とその言葉で挨拶とかしたいなと思った」。会見で少しは話してみたいと、英語も勉強した。海外で殻に閉じこもりがちな日本選手のイメージも変えた。
そして世界では笑顔の評価が高い。ソチ五輪も取材し、日本在住歴のあるニューヨーク・タイムズ記者のケン・ベルソン(49)は、「彼はすごく笑う。日本人の選手らしくない。彼の笑顔は心から出ていた」と絶賛した。
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海外で見せる笑顔は、日本のイメージアップにも貢献する。フィンランド・ラハティの大会運営側で25年以上、葛西を見守ってきた児島宏嘉(74)は話す。「最後の最後までサインをして写真を撮り、会場の花道を通り抜けるのに2時間くらいかかっている。すんごい一生懸命。彼には絶対、勲章をやるべきだ。あれほど民間外交で功績があるやつはいないよ」
作為的な意図がない笑顔だからファンをひきつけ、海外でもまるで故郷のような声援を浴びる。「作っていない自然な笑顔をみんなに見てもらいたいですね」。葛西スマイルが、世界で活躍する大きな強みにもなっている。(敬称略)
(スポーツライター・岡崎敏)
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次の連載は9月の予定です。
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