孤高を翔ける 葛西紀明【第三の故郷】
4:アラフォーの快挙 世界中に刺激与える
葛西が夏合宿を行ったフィンランド・クオピオ市には、強国オーストリアのナショナルチームもやって来た。新ヘッドコーチは、10代から競い合ったハインツ・クッティン(43)だった。久しぶりの再会に会話も弾んだ。
葛西「何歳になった?」
クッティン「お前の一つ上だよ」
葛西「お前もまだ飛べるだろう」
クッティン「飛べない。俺はもう膝(ひざ)がだめだ」
190センチ超の大男ぶりは変わらないが、指導者になったライバルに葛西も刺激を受けた。「僕も早くコーチになって、どんな選手を育てるのか、(競いたい)みたいな気持ちになりましたけど、まだ僕は選手でやりたい(笑)」
*
41歳のW杯優勝、五輪メダルが世界に与えたインパクトは大きい。1月のW杯で優勝を飾ったオーストリア・バートミッテルンドルフのジャンプ台ディレクター、ヨルゲン・ウィンキアは熱く語る。「我々は皆、彼の優勝に感激しました。彼の偉業に魅せられたファンがオーストリアにもたくさんいます。41歳は大きな驚きで、彼は年齢がさほど大きな問題にならないことを示してくれた」
インスブルックのジャンプ台で広報を務めるハリー・アブファルテラー(58)も、欧州の葛西ブームを証言する。「葛西があの年齢で成功できるなら、自分も復帰して今後4年、8年やってみよう、と言ったスポーツ選手が何人もいた。テレビでは(葛西が)一種の現象を巻き起こしたのではと言っていたね」
全日本ヘッドコーチの横川朝治(48)は一般への波及効果を話す。「41歳でフライングを飛んで勝った葛西紀明に勇気づけられて、ヨーロッパもえらいランニングしているおじさんが増えたというくらい、影響力があるんです」
ジャンプ界では、フィンランドの強豪ヤンネ・アホネン(37)のように、葛西に刺激を受けて現役続行を決めた選手もいれば、五輪を機に辞めた選手も多い。葛西は年下のライバルたちの引退に「影響を与えたつもりだったんですけど、残念ですよね」と寂しさを感じるが、本来は生存競争が厳しい世界なのだ。
*
日本では、葛西効果で他競技の年長選手も「レジェンド」と呼ばれ、注目された。「僕も40を超えた選手を応援しますし、『俺も頑張んなきゃ』という気持ちになれるから、やっぱり自分が頑張れたことで、刺激は与えられたのではないかと思います」。
洋の東西を問わず、葛西がアラフォーの象徴になり、新たな潮流を作ったことは確かだ。(敬称略)
(スポーツライター・岡崎敏)
ここから広告です
北海道アサヒ・コムへようこそ。
身のまわりの出来事やニュース、情報などをメールでお寄せ下さい(添付ファイルはご遠慮下さい)
メールはこちらから
朝日新聞北海道報道センター
別ウインドウで開きます