孤高を翔ける 葛西紀明【第三の故郷】
3:親日的な国民性と懐の深さに支えられ
今年3月2日、フィンランド・ラハティのW杯は、葛西のまさかの登場に場内が熱狂していた。同地3連戦のうち、右膝(ひざ)の負傷で2試合を欠場。ケガをおして第3戦に姿を現すと、ファンが驚いた。結果は9位だったが、葛西がフィンランドで兄のように慕う貿易会社社長の三島基彦(66)も、その姿に胸を熱くした。
「1本目、葛西が出たら大歓声でしたよ。地元選手より葛西の応援の歓声が響いた。あれは感激しました」。大会前、ヘルシンキで葛西を出迎えた三島は、尋常ではない足の痛みを知って奔走。膝の名医を呼んで診察させ、日本食を振る舞い、応急手当てもして3戦目に送り出した経緯があった。
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フィンランドでは、在留邦人の応援が熱い。現地の商工会、日本人会などが誘い合って、今年も40人ほどが国民的な行事のラハティ大会に駆けつけた。フィンランド日本人会会長の冨田憲男(64)は、ジャンプ留学に来た竹内択(27)=北野建設=をサポートした縁があるが、日本人がアウェー感なく過ごせる国の雰囲気を話す。「フィンランド人は日本人への対応が、ほとんど自国民と同じような感じなんですよ。多くの日本人選手にとって故郷のようで、それほど緊張しなくて良いんです」
練習場所も日本人に全く差別なく提供してくれることに、葛西は感謝する。「本当に包み隠さず、全部使って、強くなってくれっていう感じでやってくれるんです」
今夏も土屋ホームの練習拠点になったクオピオのジャンプ台を整備し、マスターズ大会で飛んでいるパシ・ホットネン(47)も葛西のソチ五輪の活躍を現地で見て、わがことのように喜んだ一人だ。「41歳の個人のメダルは素晴らしい。フィンランドは(自然が)気持ちいいし、葛西は友達もいっぱいいる。韓国(平昌五輪)まで頑張ってほしいね」
ヘルシンキのジャンプ台を管理するアールネ・クイスマ(78)も、マスターズ大会で計28個の金メダルを獲得したベテランの星だが、葛西の41歳五輪メダルには驚いた。「30代はわかるけど、40代は無理だと思っていた。葛西はすごい。でもフィンランドで練習した選手が活躍するのはうれしいね」
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葛西は何年も前から、マスターズ大会の出場資格があるが、W杯に出る限り、まだしばらくは出られそうにない。ちなみに最高齢出場記録は90歳だそうだ。フィンランドのジャンプへの愛情と懐の深さに支えられ、葛西は長年、この地を欧州で戦う前線基地にしている。
(敬称略)
(スポーツライター・岡崎敏)
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