孤高を翔ける 葛西紀明【第三の故郷】
2:葛西を尊重し助言 力引き出したコーチ
今年2月のソチ五輪で初の個人メダルを取るまで、葛西紀明は豊富な国際実績がありながら五輪で結果が出ない選手だった。その悲運の競技人生を変える転機になったのが、土屋ホームのフィンランド人コーチ招請だった。
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「(2002年に)フィンランドのコーチがついてから、このままじゃダメなんで、何でも取り入れていくと、柔軟な姿勢に出来たのが、やっぱりきっかけじゃないかな」
フィンランド人コーチは指導力の高さで世界的に定評がある。初代のペッカ・ニエメラをはじめ、その後、フィンランドでナショナルチームのヘッドコーチを務めるような優秀な人材ばかりが葛西に付いたことも大きかった。今季からフィンランドを率いるヤニ・クリンガも、歴代コーチの一人だ。「かかわった人が、全部トップにいっているんですごいですね。たぶん自分に引き込む力があって、引き寄せられるんじゃないかと思うんですよね(笑)。ペッカも好きでしたし、ヤニも2年ぐらいでしたけど、心から『強くなってもらいたい』というのが、より伝わってきた」
フィンランド在住40年以上で、ラハティのW杯では長年、日本語通訳を務める児島宏嘉(74)は、フィンランド人コーチの特徴を話す。「彼らが一番気を使っているのは、どうやって(選手に)面白いと思わせるかなんです。継続は力なりで、自主的に面白いと思わなかったら続かない。押しつけの継続じゃダメだっていうわけです」
現コーチのヤンネ・バータイネンも、札幌に住みついて日本に積極的に馴染(なじ)み、常に勉強しながら情報を提供。やはり相手を尊重した助言で、現役生活を長く続ける葛西の力になっている。「葛西が優れた選手なのは、自分が変わろうとしているから。次の五輪でメダルを取るのは簡単ではないが、彼の精神力、やる気に問題はない。ケガなくいければ、チャンスはある。恐らく45歳でそれを実現できるのは彼一人だけだ」
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40代の葛西の頑張りは、フィンランドの国民性にも響いていると、児島は話す。「ここではSisu(シス)と言うんですが、頑張り、負けん気が大切でいいものだと見られている。だから彼が耐えて耐えてやってきたことが国民性に合って、『良かった』『俺たちもああありたい』という気持ちがあるんですよ」。フィンランド人の魂を揺さぶるような共感を得て、葛西の進化はまだまだ続く。
(敬称略)
(スポーツライター・岡崎敏)
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