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〔PHOTO〕gettyimages

厚生労働省が日本人の「ギャンブル依存症」に関する調査結果を発表して、話題になっている。折しも日本ではカジノ解禁に向けて動きがある中で、カジノ賛成派への「牽制球」ではないかという意見も出ている。

先の通常国会で、国内でのカジノの設置を認める複合型リゾート施設(IR)整備推進法案が審議入りした。法案は超党派のいわゆるカジノ議連(国際観光産業振興議員連盟=IR議連)が中心となり、自民、旧日本維新の会、生活の3党が共同提出したものだ。カジノ議連の最高顧問には、安倍晋三総理、麻生太郎財務相など政権幹部がおり、その後押しでカジノ解禁の流れになっている。

一方で、確固たるカジノ反対派がいるのも事実。反対派は、「ギャンブル依存症を増加させる」「青少年に悪影響を与える」「犯罪の誘発」といったきれいな理由を並べるが、裏には「ギャンブル既得権」の存在も見え隠れする。

現在のギャンブル業界には、パチンコなどの民間業界と役人の公営がある。後者の「官製ギャンブル」は、競馬(農林水産省)、競輪(経済産業省)、競艇(国土交通省)、オートレース(経産省)、宝くじ(総務省)、サッカーくじ(文部科学省)と各省がそれぞれ領地を分け合っており、これらは官僚の天下り先にもなっている。

ちなみに、民間のパチンコ業界も警察官僚の天下り先の一つとして有名。パチンコ業界は風俗営業適正化法の適用を受け、法的にはギャンブルと見なされていない。パチンコの景品交換も、店外の交換所で行うなど不自然な方式となっているのはご承知だろう。天下りはこうしたギャンブルと認定されない業界の「お守り」として受け入れられているという側面がある。

そこへきて、今回の厚労省の調査である。

厚労省調査によれば、ギャンブル依存症の人は成人の4・8%。米国('02年)1・58%、香港('01年)1・8%、韓国('06年)0・8%と比較して高いという。日本では公営ギャンブルなどが盛んで、「依存症」の人が多いことを端的に示した結果となっている。

そもそも、海外に住んでいるとわかるが、ギャンブルは日常生活と隔離された形で行われている。それが、カジノである。そうした隔離政策をとると、(1)ギャンブル依存症を増やさない、(2)青少年に対する悪影響を与えない、(3)犯罪を誘発しないのに効果的となる。しかし、日本ではパチンコのように、「駅前ギャンブル」が存在しているような状態なので、依存症の人が多いのは当然ともいえる。

この厚労省調査が「笑える」のは、こうした既得権化している現在のギャンブル事情がひどいことを示している一方で、カジノの新規参入を防ぐために利用されていることに尽きる。

確かにカジノ法案をまともに国会審議すれば、現状「官製カジノ」ともいうべき状態の官製ギャンブルの見直しにも波及する。となれば、既存ギャンブルも何らかの改革が求められるはずだ。こうした意味では、新規参入は多くの場合好ましい結果になる。しかし、既得権者にとっては耐えがたい話となる。

カジノ解禁へ異を唱えているのは、実は官僚組織なのである。既存ギャンブルへ天下りを図る官僚を含め、既得権であまい蜜を吸っている連中が、カジノに対して「きれいな」理由をいう良識派をそそのかし、カジノへの反対の流れ、すなわち既得権確保に走っているのではないだろうか。そうであれば、なんともおぞましい人たちである。

『週刊現代』2014年9月13日号より

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