「あー?聞いてるって。んー、だから、お前が一番、だって。」 ひよ里。甘く囁くその唇が、たった今市丸ギンに塞がれている等、彼女は知っているのだろうか? (可哀相に。決して報われない、恋をしているだなんて、) 秘 密 (知る筈が無いでしょうね。識らない方が、幸せだもの。) ピッ。っと、一護の携帯が通話終了を知らせ、その手から落ちる。 誘われる様に引かれた右手はギンの骨張った指に絡めとられ、唇へと寄せられる。 ものの数秒前まで別の人間に愛を囁いていたとは思えない一護の姿を見つめ、再び雑誌に目を落とす。 赤いソファーの真ん中で、ギンの膝に足をかける一護はいつもと変わらぬ笑みを浮かべ、その胸元へ顔を埋める。 (昨日、ひよ里がそうしていた様に。) 「馬鹿な子、やねぇ。」 「アンタも、じゃないですか。」 くっ、と小さく喉で笑ったのはどちらだったか。 ぱらり。乾いた音をたてて手元の雑誌が踊る。 (前は、そうやってグリムジョーに抱きついた。) 思えば、グリムジョーが一番長かったのだと思う。 あの不器用で如何仕様もないくらいに真っすぐな、あの男。 (いつだか、一護に捨てられたあの男。) けれどあの男と別れて一護は変わった様に思う。 より一層誰にも依存せず、無機質に笑みを浮かべる一護の冷めた眼は、二度と涙を流さないのだ。 (あの少女が死んでも、ギンが死んでも、あたしが、消えても。) (なんて残酷で脆い、話なのだろうか。) ぱらり。また一つ甘くどこか退廃的な空気に乾いた音が漏れる。 それは酷く滑稽に、そして確かに、あたしを蝕んでいく何か・の音だった気がした。 「なァ、あないな女、捨ててや。」 甘く甘く、砂糖菓子の様な棘を含んだギンの声が響く。 その声を疎ましいと思った事等、今まで一度も無かった。 (一護に手を出すその瞬間、迄は。) 今では不快極まりないその声が鼓膜を揺らし、体を侵食する。 憎い、のかもしれない。(いいえ、憎いんだわ。) 羨ましい、のかもしれない。(一時の夢に踊らされて。) 哀れんでいる、のかもしれない。(脆い鎖のその軽さを。) 赤い瞳を揺らせて、唇を寄せるギンの眼は、確かにあたしを牽制していて。 ゆっくり触れ合う二人の唇。 (嗚呼なんて、不毛で、鋭利な、) 昔、報われない恋をしている様だと、七緒が笑った。 (いいえ、焦がれているのよ、如何仕様もない程に。) ぐしゃり。厭に輝く宝石を首に巻くモデルの笑顔が、憐れに歪んだ。 (可哀相に。でもよかったでしょう?一時の夢は、魅れたのだから!) 「一護、」 然様なら、夢で終わった恋と、後悔すればいいのよ。 (貴方も、貴女も、 も。) ゆっくり唇に手を当てて、俯いて、涙を流せば。 少しだけ震えて、嗚咽を洩らせば。 (夢が醒める。そして世界に、黒が戻る。) 歪む唇と、沸き上がる得体の知れない想いを隠す様に、痛々しく歪むモデルから、手を離した。 「、乱菊さん?」 心配そうに顔を覗き込む可愛い弟・の、その胸に倒れこんで、夢を見る。 (貴方の夢の代わり、に!) 見上げた先、ギンのその眼に、昨日の猿柿ひよ里を思い出しながら、 (あたしは黒を飲み込んで、夢と消える。) 20060719 虚偽で固めた夢だと、笑うといいわ、 |