くるり、くるり。 綺麗な水玉模様の散らばる広い部屋の中心に横たわる残骸。 明るい色の髪をした人間の女が引き裂かれた胸から血を流し、絶命している。 美人に分類されるであろうその容姿は可哀相な程に歪み、華奢な体に痛々しい大きな傷。 可哀相・と小さく呟くと、ベッドに腰掛け、虚ろな眼で女を見つめていたグリムジョーがゆっくり顔をあげた。 その手にはまだ乾かない、真新しい血が付着している。 壁に背を預け、腕を組みながら恐い位に大人しいグリムジョーを見つめた。 ちっ・と舌打ちを一つし、ぐしゃぐしゃとセットされた髪を乱す。 酷く苛々している様だったが、それでも部屋から追い出そうとはしない。 ゆっくり、その酷く小さく見える背に向かって歩きだす。 無意識に、唇が弧を描いていたのが解った。 「また殺したの。」 「煩ェ。」 「可哀相になァ。これで何十人目だよ。」 「煩ェってんだろ。」 くすくす・と笑って、俯く『6』の真横に立つ。 先程より近くで見たグリムジョーは、数日前より確実に顔色が悪い。 普段はギラついている眼に光は無く、虚ろで視線を合わせようとしない。 不適に歪む唇は、何かに耐える様に噛み締められ、血が滲んでいる。 こんな姿他の破面が見たら、と思うと笑いそうになった。 弱々しく今にも消えてしまいそうなグリムジョー。 にっこり歪む口元を隠そうともせず、正面から顔を覗き込む。 顎を掴み、地面を見つめる眼を無理矢理合わせる。 ぐっと眉間に皺が刻まれたが、為すが儘で彼は咎めない。 「ほんっと馬鹿だな。アンタは。」 「黙れ。」 「代わりになりはしない。ましてやアンタを満たせやしないのに。」 「、黙れよ。」 「哀れ・だな。」 俺と同じ色の髪の女しか抱けないなんて。 にっこり微笑みながら真っすぐに刺す様にその眼を見下す。 虚ろな眼に微かに光が灯って、弱々しく揺れる。 グリムジョーは、いつからか明るい茶色の、橙色の髪の女を連れ込む様になった。 そしてその女はその日のうちに不様に殺されて。 一人の女が死ぬ事にほんの少し、グリムジョーが崩れていく。 その虚ろな心に入込む様に笑ってやれば、ほんの少しグリムジョーが希望を持って病んでいく。 一方で失っていくモノを一方で補おうとする、彼。 けれど俺も、俺の残像も、その手に残らずただ擦り抜けていく。 結局何もその両手には残らないのだ・と。 「気が付かないと思ってた?」 「っ、」 「変わったなぁアンタ。何時からそんなになった?」 「、お前がっ!」 「俺が?」 今にも発狂しそうなグリムジョーが俺の腕を掴み、ベッドに押し倒す。 噛み付く様に口付けられ、舌を絡めとる。 切羽詰まった様子に気分が善くなり、捕まれていた腕を振りほどき、首に回す。 グリムジョーは驚いた様子で眼を大きく開けたが、すぐに上着のチャックに手を掛け、首筋に唇を寄せた。 骨張った指が、血の付いた指が首から流れ、鎖骨を撫でる。 愛しげに何度も何度も頬を優しく撫で、唇に喰らい付く。 ふつふつと、腹の其処から笑いが込み上げて仕様が無い。 ぐっとグリムジョーの上着を強く引き寄せると、バランスを崩した彼が俺の胸に倒れる。 そのまま彼の耳に唇を寄せ、甘く囁く。 「俺の事好き?」 ぴちゃ・と態と音を立ててグリムジョーの耳を舐めあげる。 一瞬震えた体が、ぎゅっと痛い程に俺を抱き締める。 グリムジョーの顔は見えなかったが、安易に予想が付く。 きっと泣きそうな顔をしている・と。 その証拠にグリムジョーの腕は微かに震えている。 沢山の人間の、死神の命をゴミのように扱う彼の腕が、たった一人の子供の所為で震えている。 これを愉快といわずに何と言えばいいのか、! 迫り上げる狂喜に、美しく歪むのは理性か本能か。 (きっとその答は両方。そして崩れる、この男のプライド。) 「なァ如何したらいい、お前が愛し過ぎて死にそうなんだよ。お前の眼も声も髪の毛の先まで全部愛しくて、おかしくなりそうなんだよ。頼むから一護。頼むから、俺だけ愛してくれよ一護、」 子供みたいに泣きながら縋る彼の髪を愛しく撫でる。 まだ、足りない。少しも、少しも届きはしない。もっと、もっと。 なぁグリムジョー、アンタもっと堕ちれるだろ。俺が居る此処迄堕ちてこれるだろ。 まだ浅い。そんな浅い愛情じゃ捕まって等やらない。 もっと深く、もっと深いこの場所まで狂って、堕ちて。 不様に息絶えるその最後の一時、最期の一瞬まで俺を愛して朽ちる様に、! 「グリムジョー、」 するっと頬を撫で、背中に手を回す。 『6』の印を優しく撫で、抉れる程強く引っ掻く。 (そんな掠り傷じゃ所有印の代わりにもなりはしないけれど、) 嗚呼堕ちて逝く。此処より更に下へ、下へ。逝き先は、知らない。 俺も、彼も、誰も。誰も、知らない。 唯堕ちる。周りの景色さえ見えない程早く、急激に。 そうそれは、墜落に近い、堕落。 何処までも堕ちて逝く、その為だけに生を受けたのだから! 「愛してあげる。」 だからもっと。もっと深く堕ちれるでしょう? 震えたその体が感じたのは、狂気か狂喜か。 |