| そうそのブラウン色の眼は、 ★ ★ 「お前もてるんだなー。」 「、あァ?」 暗い廊下の壁に背を預け、愉しそうに笑う破面NO.『1』。 滅多に自分から話かけない、ましてや笑っているところ等一度も見た事の無い少年の姿に、少なからず驚いた。 そして同時に突然不可解な言葉を投げ掛けられたグリムジョーはあからさまに不機嫌な顔をした。 しかし『1』、一護はそれを気にした様子も無く、大きな目をゆっくりと細め、グリムジョーに顔を近づける。 唇が触れそうな程の至近距離にグリムジョーは眉を顰めたが、(しかし決して嫌だったわけでは無い。)その様子にさえ一護は唯笑うのみ。 ふ・と何を思ったか一護の白い指がグリムジョーの頬に触れる。 びくり・と肩を震わせたグリムジョーに一護は声を出した笑った。 しかし細められたその琥珀色の眼は少しも熱を持ってはおらず、ただ宝石の様に鈍く光る。 「テメェ、何のつもりだ。」 「いや?破面NO.6にもてる秘訣を伝授して頂こうかと思って。」 ちっ・と不愉快そうに舌打ちされてなお、一護の唇は綺麗な弧を描いたまま。 年齢に釣り合わない酷く大人びた、それでいて様になる仕草に余計苛立ちが募る。 そもそも何故いきなりこんな事を言い出すのか解らなかった。 確かに前から好奇心旺盛・というか、何を考えているか解らない所はあったとは思う。 それは破面として生まれたてで在る・と言う事もあるのだろうが、元来よりの性格なのだろう。 そして幼い割りに狡猾で人を欺く事が病的に上手い。 破面の頂点たる『1』、そして藍染惣右介に寵愛されて尚、満ち足りないと笑う彼。 子供の様な、獣の様な煌くその眼・で、何を望んでいるのか。 「お前この前現世から女連れて来ただろ?」 「覚えてねェ。」 「ハァ?あっじゃぁディ・ロイが連れて来たのかも。」 「、あぁあの頭悪そうな女か。」 「おーそれそれ。」 ぱん・と手を叩き目を輝かせる。 キラキラ輝くその眼が酷く闇を思い出させる・と思う。 けれど一切の情報を映そうとしないその眼は、素直に美しいと思った。 しかしその眼に映るのは、彼の父たる藍染惣右介、唯一人だけ。 それ以外の人間等、この少年の中では全て意味を持たないのだ。 ふっと暗く染まる視界に急に入り込んだ、橙色。 にっこり、と笑う一護の姿が映る。 「その女、グリムジョーに惚れてた・って聞いたから。」 「んだそれ。」 「どっかの王子が教えてくれた。」 愉しそうに笑う一護と真反対にグリムジョーの眉間の皺が深くなる。 ディ・ロイが連れてきた女、というのは彼が現世の食事の際に気に入って連れてきた人間だ。 何日か遊んだ後に殺された・と誰かに聞いた。 そもそもその女に会った事自体1・2度しかないグリムジョーにとっては一護の言っている事が上手く理解出来ない。 目を細め、冷たく一護を見遣ると、ゆっくり振り返りながら一護が微笑む。 人形の様に整った微笑みに、吐き気がした。 「連れてきた女は全部グリムジョーに取られる、って泣いてたぜ。ディ・ロイ。」 「知るかよ。」 「人でなし。。」 「元より人間じゃねェ。」 口元だけで笑う一護の横を無言ですり抜けると、当たり前の様に横へ並ぶ。 ふわりと薫るその香は、あの男と同じ物、だと直ぐに解る。 ちらり・と目をやれば、相変わらず何を考えているか解らない眼と眼が合う。 二度目の舌打ちと共に視線を外し、前を見つめた。 「世の中の女、皆お前が好きなんじゃねェ?」 「んなわけあるかよ。」 「その眼に、ヤられんだろうな。」 挑発の様な一護の言葉にグリムジョーの足がぴたりと止まる。 それに合わせて隣を歩いていた一護の足も止まり、刺す様にグリムジョーの青い眼を見つめる。 そしてグリムジョーは一護の饒舌理由と、毛嫌いしているはずの自分の下へきた理由が解った。 「気にいらねェのか。」 「、何がだよ。」 「俺が現世へ出る事、だ。」 お前の変わりに・と笑うと一護の眼から光が消えた。 やっぱり、と今度はグリムジョーの口から笑いが漏れる。 一護は此処何日か虚圏から出ていない。 というより命令で出られないのだ。 「お前も馬鹿な事したよなァ。」 「…。」 「死神一匹逃がす・なんて相当絞られたんじゃねーの?」 「別に。あの人は俺に甘いし。」 言外にお前と違って・と言っていたが、先程までの笑みが消え、酷く苛付く一護を前に笑いが止まらない。 数日前に現世に死神狩りの命を受けた『1』は、その命令に反して一人の死神を逃がした。 その理由を問い詰めた際、彼は気紛れだ・と言っていたが、初めての彼の命令違反に藍染は酷く動揺したらしい。 自らの一部、と言う程に溺愛していた破面の命令違反。 その後一護は虚圏から出られぬ様に鬼道をかけられていた。 その証拠に今一護の両手首には霊力を殺す特性の腕輪が嵌められていた。 腕輪の存在を確認するとグリムジョーは更に笑みを深め、嘲笑うかの様に一護に眼を向ける。 「なんつった?あの死神の名前?」 「さぁ。興味無い。」 「あァ確か、」 「グリムジョー、」 温度の無い冷たい声。 一気に冷たく、そして重くなった重圧を前にグリムジョーは若干の息苦しさを感じたが、それ以上に一護の心を揺らしてる事実が愉快で堪らない。 にっこり・と微笑みながら振り向く一護の眼は黒く、冷たいものだった。 ゆっくり紡がれる言葉に、グリムジョーは歪む口元に手をやって耳を傾けた。 「もし世界中の人間全員、お前を愛していても、」 「俺はお前を愛さない。」 冷たく見下ろす眼。 弾き出された残酷な言葉。 急激に冷える、背筋。 全身で俺の存在を、拒絶していたのだつた。 (まるで其処に存在していないかの様に。) |