わが国が進めている経済連携協定(EPA)交渉のうち、アジア太平洋地域での多国間交渉の停滞ぶりが目につく。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓、インドなど16カ国が参加する東アジア包括的経済連携協定(RCEP)交渉では8月末、各国の担当閣僚が会合を開いたが、関税引き下げ・撤廃の進め方について合意できなかった。

 日中韓3カ国の自由貿易協定(FTA)交渉も、定期的に実務者協議を重ねているものの、遅々として進まない。

 原因はそれぞれにあるが、一時は全体の「促進剤」になっていた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が手詰まり状態に陥っている影響も無視できない。

 TPPに絡んで今月上旬は、参加12カ国の首席交渉官による会合や分野ごとの分科会、日米の2国間会合など、多くの協議が行われている。一定の成果をあげ、閣僚同士の協議につなげられるかが焦点だ。

 難航の構図は変わらない。国有企業の扱い、薬に代表される知的財産権のあり方など、新たなルール作りを巡る先進国と新興国の対立は根深い。どの国も神経をとがらせ、利害がからみあう関税の引き下げ・撤廃交渉もなかなか本格化しない。

 各国から注視されているのが、日米両国の関税交渉の行方だ。日本はコメ、牛・豚肉など農産品5項目の、米国は自動車の関税をできるだけ維持したい考えで、関連業界などからの圧力の中で駆け引きが続く。

 特に米国は、通商交渉に権限を持つ議会が11月に中間選挙を控えており、業界や労働組合からの反対の声に敏感に反応しがちだ。

 それだけ難しさは増すが、日米間の関税交渉が進展すれば他国も含めた関税交渉全体が動きだし、ルール作りにもはずみがつく。そんな見方がもっぱらだけに、日米両国の姿勢にTPPの行方がかかっていると言っても過言ではない。

 特定業界の利害ではなく、広く消費者全体にもたらされるメリットを「国益」と見定めて交渉に臨めるかどうか。日米とも貿易・投資自由化の原点に立ち返ることが必要だ。

 世界貿易機関(WTO)の機能不全が続くなか、政府は経済活性化策の柱の一つとしてEPA・FTA網の拡大を掲げてきた。その要石がTPPである。TPPの停滞が他の交渉に響く負の連鎖にくさびを打ち込めるか。「経済最優先」を強調する第2次安倍改造内閣の実行力がさっそく問われる。