イエイリ建設IT戦略

工期150年短縮! サグラダ・ファミリアで3DやCNCが活躍

2014/09/03

スペイン・バルセロナで建設中の巨大教会「サグラダ・ファミリア」は、以前、完成までに300年くらいはかかると言われていた。ところが今では2026年の完成が見込まれており、1882年の着工から150年弱で完成することになる。この大幅な“工期半減”の裏には、3DプリンターやCNC(コンピューター数値制御)の石材加工機の活用があった。

 8月16日、スペイン・バルセロナで建設中の「サグラダ・ファミリア」に立ち寄ってきた。実は約30年前の学生時代にも、バックパッカーとしてここに立ち寄ったことがある。

 当時は1882年の着工から既に100年が経過しており、完成まであと200年くらいはかかると言われていた。いずれにしても、自分が生きている間には、完成はしないものとあきらめていたのを覚えている。

 ところが現在、サグラダ・ファミリアの完成予定は、12年後の2026年と大幅に前倒しされている。私も生きている間に完成した姿を見られそうな感じになってきたのだ。

 つまり、サグラダ・ファミリアは約144年の工期で完成することになる。1980年代に私が訪れたころに見込まれていた300年という建設期間は、この30年間で半減したということだ。図面では表現しきれなかったこの建物の設計・施工に、3DソフトやCNC加工機が使えるようになったことも、150年以上の大幅な工期短縮の大きな力になっているようだ。

急ピッチで建設が進むサグラダ・ファミリア。「生誕のファサード」側より(写真:家入龍太)
急ピッチで建設が進むサグラダ・ファミリア。「生誕のファサード」側より(写真:家入龍太)

逆さ吊り実験で構造解析

 1882年に建設が始まったサグラダ・ファミリアは、直線、直角、水平がほとんどない外観に数多くの彫刻が網羅され、建物と一体化されている。

 BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)も、CNC(コンピューター数値制御)の工作機械もなかった19世紀から、よくぞこのような複雑な建物をつくってきたものだと、巨匠・アントニ・ガウディをはじめ、建設プロジェクト関係者には敬意を払いたい気持ちになる。

 30年前に訪問したときには、数本の塔があるだけだったが、最近、急ピッチで建設が進み、2010年には大空間を持つ礼拝所が公開された。そこには途中から枝分かれして天井に伸びる複雑な柱が林立していた。

2010年から公開されている礼拝所の内部(写真:家入龍太)
2010年から公開されている礼拝所の内部(写真:家入龍太)
途中で枝分かれして天井に伸びる樹木のような柱(写真:家入龍太)
途中で枝分かれして天井に伸びる樹木のような柱(写真:家入龍太)

 柱は途中から球面の接合部材を介して、上方向に広がっている。しかも柱の断面は連続的に変わっている。

 石材に引っ張り応力が作用することは避けなければいけない。コンピューターもない19世紀の時代には、FEM(有限要素法)などで数値解析する代わりに、「逆さ吊り実験」を行って柱の形状などを求めていたのだ。ワイヤを構造体に見立てて上下に180°ひっくり返した模型をつくり、柱の先にはその上からかかる荷重に相当する重りをぶら下げる。

 するとワイヤの建物には引っ張り力だけがかかる形で安定する。この形を元に戻すと、柱などには曲げモーメントが発生せず、部材には圧縮力だけが作用するように設計できるという仕組みだ。

逆さ吊り実験の再現模型。重りに惑わされずワイヤの形を見てみると建物の柱が上下逆さまになっているのが分かる(写真:家入龍太)
逆さ吊り実験の再現模型。重りに惑わされずワイヤの形を見てみると建物の柱が上下逆さまになっているのが分かる(写真:家入龍太)

左が逆さ吊り実験の部材。右はそれを180°ひっくり返したもの。ワイヤの形状は枝分かれした柱を思わせる(写真:家入龍太)
左が逆さ吊り実験の部材。右はそれを180°ひっくり返したもの。ワイヤの形状は枝分かれした柱を思わせる(写真:家入龍太)

 このように、サグラダ・ファミリアはワイヤモデルによる逆さ吊り実験で部材の結節点座標を求める「3D構造解析」を行った後、大きいスケールの模型をつくり、それから現場での施工を行うという手間ひまのかかる工程で建設されていたのだ。

地下の工房に3Dプリンターを発見

家入 龍太=建設ITジャーナリストケンプラッツ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Facebookでシェアする


読者のコメント (1 件)  ※[ログイン]すると全文表示、投稿・投票ができます

建設作業が、手仕事から機械へ、構造もRCなどへのシフトがすすんでいるとのことで、複雑な気持ちになりました。この教会の公式サイトを覗いてみると、この点についての見解が書かれてありました。その時代の最新の建設技術を用いることや、RCを使うことについては、いずれもガウディの考えに基づいているということではありました。
おそらくガウディとしても、工学的な合理性のある建設をすべきと考えていたことは確かなのかな、と思わされました。
しかし、例えば、仕上げにあたる石工事の加工まで機械化されているのは、はたして建築の持つ命のようなものを、手仕事のそれによるものとは違った形にしてしまうであろうことは確かです。建設にかかわっているチームは、ゴーを出すことが、ガウディの、そして教会を造営するにあたっての、正しい精神にのっとったものであると判断したのでしょう。
示唆に富む記事でした。私の述べたようなことを深堀するのは、またの機会にお願いできればと思っております。

( obanyaki 2014/09/04 16:37 )

このコメントが 参考になった: 8  参考にならなかった: 0

[ほかの記事へのコメント]

コメントの投稿

ログインするとコメント投稿画面を表示します。非会員の方は、右記の「ご意見投稿フォーム」からコメントを投稿できます。 →ご意見投稿フォーム

ログイン
会員登録

読者の評価

この記事を:
(100%)
(0%)
(0%)
内容は:
(85%)
(14%)
(0%)

<<コメントに関するご注意>>

  • 投稿されたコメントは査読のうえ公開します。コメント末尾の日時は投稿時点のものです。用字用語などは当社規定に沿って変更、明らかな間違いや不適切な表現は原文の意図を損なわない範囲で変更します。不適切と判断したコメントは公開しません。公開後の修正・削除もあります。個人情報の入力はご遠慮ください。
  • コメントは本サイトや当社媒体に転載する場合があります。その際、読者から寄せられたことを明示します。
  • 記事への質問は問い合わせフォームをご利用ください。コメント欄に投稿いただきましても回答できません。
  • 投稿の内容について当社は信頼性や適法性を保証しません。トラブルが発生しても責任を負えません。

ページの先頭へ

印刷 RSS
このエントリーをはてなブックマークに追加 Facebookでシェアする

ケンプラッツFocus

現在 昨日 週間アクセスランキング(建設IT)