2014.09.05
セックス、ドラッグ、政治問題

編集部Kです。ウクライナのクリミア半島がロシアに併合されてから、半年が経とうとしています。現地ではロシアが実効支配を強める一方、ウクライナ国営電力会社はクリミアへの送電を制限するなど、依然として緊張状態が続いています。その余波を受けて、20年以上この地で開催されてきた“夏フェス”が、この地を追われました。



「カザンティップ」は1992年から続くレイヴパーティー。毎年8月に10万人を集める巨大音楽イベントで、昨年は106ヵ国から参加があったそうです。6万㎡の広大な会場は「共和国」と呼ばれ、ビザを購入すれば「住民」になれます。一歩入れば、そこは若者たちの楽園。朝から晩まで飲んで踊って、ビーチで戯れる。「住民」はスーパーモデル級の美女だらけ、しかもみんなトップレス。セレブもロシアンマフィアも入り乱れて羽目を外し、短い夏を謳歌する……はずでした。今年も。

ところがクリミア危機が発生し、カザンティップは今年5月、ロシア当局に“国土”から追放されます。主宰者らが新天地に選んだのは、ウクライナ本土でもロシアでもなく、グルジアでした。クリミアと同じく黒海沿岸のリゾート地、アナクリアで開催することになり、静かな村に不釣り合いな立派なイベント会場やホテルが突貫工事で造られました。世界中から何万人もの若者が押し寄せるというので、物価は10倍以上に跳ね上がり、住民からはブーイングの嵐。さらに、グルジア正教会からの猛烈な批判に遭います。

「非行の掃き溜めみたいなイベントを即刻中止せよ!」
「バカ騒ぎと麻薬と乱交は余所の国でやれ!」
「堕落した行いには天罰が下る!」

主宰者が、ラブ&ピースを願って「グルジアとウクライナの女のコは入場無料にしちゃうよ~」と発表したことも火に油でした。「それがセックスツーリズムを助長するのだ!」と地元の怒りを買い、グルジアでのチケットの売れ行きは散々だったとか。

それでも予定どおり、8月20日にカザンティップは開幕しました。ただし、「人前でのキス禁止」「地べたに寝転がったら厳重注意」とユートピアには程遠いルールが敷かれ、1000人もの警察官に監視され、会場前では連日抗議運動が繰り広げられ、なかなか物々しい空気に包まれたフェスとなったようです。

例年は無法地帯だったカザンティップですが、今回は10日間の開催期間中、3人の逮捕者が出ました。グルジアは薬物の規制が厳しく、マリファナ所持で懲役14年という厳罰が科されます。

そんなわけで、今年のカザンティップは盛り上がりに欠け、参加者のウケも悪く、グルジアでの継続開催の見込みはなくなったと報じられています。「アナクリアは若者の聖地になる」とそそのかされた地元政府は、年に一度のイベントのためにさまざまな施設を建設し、村を経済特区にしてまで発展させようとしていたのに、「ちょっと違うかも」との評価で、壮大な開発計画は暗礁に乗り上げてしまいました。

ソ連崩壊後、若者たちが自由を求めて集った「東欧のイビサ」は、政治に翻弄され、行き場を失っています。21世紀になっても、自由は西側にしかないのでしょうか。

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