九州バスジャック事件:再犯の悪循環 社会全体の課題
毎日新聞 2014年09月05日 06時30分(最終更新 09月05日 12時17分)
福岡県の九州自動車道で7月20日に起こったバスジャック事件で、人質強要処罰法違反などの容疑で送検された小林優之容疑者(27)=鑑定留置中=は、過去にもバスジャックの予告事件などを起こし、福祉施設で社会復帰に向けて訓練を受けている最中だった。事件後、施設の他の入所者が就職の内定を取り消される影響も出ているという。専門家は「再犯の悪循環を止めるために社会全体で粘り強く支援を続ける必要がある」と指摘する。
関係者によると、就労支援の訓練用に作業着を新調したばかりの小林容疑者は事件前日の7月19日夜、入所する同県福智町のグループホームの職員とラーメンを食べながら少し誇らしげに話した。「これからも頑張ります」
翌朝「ちょっと出かけてくる」と外出すると、同県直方市を出発した西鉄バスに乗りこんだ。九州道に入ってから運転手にペティナイフを示し「110番しろ。警察を呼べ」と乗客に叫んだ。
小林容疑者は警察への虚偽通報などの問題行動を起こし、矯正施設への入所を繰り返していた。2011年にはJR博多駅前のビルでバスジャックの予告文を張り、刃物を所持した銃刀法違反容疑で逮捕され、実刑判決を受けている。
法務省によると、刑法犯のうち、再犯者が占める割合は1997年の27%から12年には45%まで増加した。特に高齢や障害のために自立できない出所者の再犯が目立っており、厚生労働省は09年から各都道府県に地域生活定着支援センターを設置し、自立困難な出所者を福祉施設につなぐ取り組みを始めた。
小林容疑者も今年3月に仮出所した後、同センターの仲介で障害者の就労支援に取り組むグループホームに入所した。6人の入所者と共同生活を送りながら、除草や清掃などの訓練を受けていた。施設の責任者は「注意すれば背筋を伸ばして反省する。施設でトラブルはなく1人暮らしの訓練を始める予定だった」と残念がる。
捜査関係者によると、小林容疑者はバスの中から警察との話し合いを求めていたが、不可解な点もあり、精神鑑定のため留置された。一方でバスから警察に電話した際「乗客は傷つけない」とも話したという。責任者は「成人してから2カ月以上同じ所に暮らせたことがなかったが、うちでは少なくとも4カ月暮らせた。受け皿がなければ、もっと深刻な事件を起こしていたかもしれない」と話す。