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「日中のライバル関係」に期待する 東南アジア諸国

Wedge 9月5日(金)12時10分配信

 フィリピンのアテネオ・デ・マニラ大学講師で、同国下院政策顧問でもあるリチャード・ヘイダリアンが、National Interest誌ウェブサイトに、7月21日付で「アジアの最も危険なライバル関係、日本対中国が熱を帯びてきている」との論説を書いています。

 すなわち、日本は「集団的自衛」を採用し、より大きな国際責任を果たす「普通の国」への運命的一歩を踏み出した。それには、安倍総理の強い意志と、尖閣についての中国との紛争が背景にある。

 米国の対中政策の不確実性、米国防予算削減への懸念は、日本が自立することを後押ししている。米国は日本の方針変更を歓迎している。日米防衛ガイドラインは改定される予定で、日米同盟はもっとダイナミックなものになろう。

 中国は日本の再興を懸念し、日本が軍国主義の過去を繰り返そうとしていると宣伝している。しかし、これは、地域の指導的役割についての日中のライバル関係の出現である。米国はバランサーの役割に居心地の良さを感じるだろう。

 日本の積極的外交は、国内的な抵抗にあっている。戦争の記憶はパシフィズム(平和主義)の強い潮流になっている。そこで、安倍総理は、憲法改正ではなく、憲法解釈の変更を選択した。これは、自衛隊設立の時と同じである。

 日本は世界で最強の軍の一つを保有しつつも、第1次、第2次湾岸戦争ではさしたる役割を果たせず、資金支援などにとどまった。日本の防衛予算は2000年には中国の国防費より60%多かったが、今は中国の3分の2である。

 安倍政権は日本をより意味のあるパワーにしようとしている。日本は、中国の領土瀬戸際政策をアジアの小国が神経質に見守る中、その歴史的指導力を再主張する機会を見出している。大東亜共栄圏は悪夢に終わった。しかし、プラザ合意後の日本は、繁栄する無害な日本であり、雁行型発展とされた成長のエンジンであった。

 中国が東南アジア諸国の重要貿易国になるに従い、日本の重要性は減ってきた。その上、中国は軍事に関し日本のような自制はしない。韓国は中国にすり寄っている。

 2007-08年の経済危機で中国の自己主張は強まった。安倍政権は東南アジア諸国、豪州、インドと連携し、この傾向を逆転しようとしている。安倍政権はこの方面での外交を強化している。また、安倍総理は、日本経済を再活性化したほか、武器輸出制限を緩和し、豪、印などと防衛協力も進めている。

 全体として、中国は領土主張を進めたが、ライバルの日本が力強い路線を取るように仕向ける危険を冒した、と述べています。

* * *

 この論説は目新しい論点を提起しているわけではありませんが、最近の日本、安倍総理の外交・防衛政策(集団的自衛、武器禁輸撤廃など)を高く評価し、中国のライバルとして日本が出てきている、と指摘しています。

 もっとも、この指摘は、いささか過大評価と言うべきでしょう。日本の防衛費の伸びが中国にはるかに及ばないことだけをとってみても、そうです。また、筆者が言及している、日本に根差すパシフィズムをとっても、そうです。ただ、東南アジア諸国の一部に、期待も込めて、この論説のような意見があるということには留意する必要があります。

 安倍総理の集団的自衛権の限定行使、武器禁輸政策の変更、積極的外交は、いずれをとっても称賛に値することです。しかしながら、日本の安保・防衛政策は「普通の国」のものとしては、まだまだであることを認識すべきです。憲法9条の改正は依然として必要性を全く失っていません。

 今回の集団的自衛権の行使は、要するに、憲法9条を前提とした自衛権解釈に基づく、限定的なものです。自衛権は基本的には国際法上の概念であるのに、それを極端に狭く解釈しています。国内政治上、そうすることが必要であったのでしょう。しかし、今のイスラエルのガザ攻撃が自衛権で正当化されていること、10年以上続いた米国のアフガン戦争は、米国にとっては自衛権行使であったことなどを想起すべきです。新たに閣議決定に盛り込まれた3要件(1.日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある、2.他に適当な手段が無い、3.必要最小限度の実力行使であること)が国際的にどう映るのか、国際社会の法意識をよく考えて、時期を見て再検討する必要があるでしょう。

岡崎研究所

最終更新:9月5日(金)12時10分

Wedge

 

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