Ringの件があっても、僕はKickstarterが好きだ。見たこともない未来が好きだ。
Kickstarterで行われているプロジェクト「Ring」の出荷遅れでいくつかのメディアが「炎上」と書いています。
僕はその扱い方が、あまり好きではありません。
状況
まず、状況を整理します。
・RingというプロジェクトがクラウドファウンディングサイトのKickstarterに出された。様々なモノを、指にはめたRingで、ジェスチャーで操作できるモノで、まるで映画に出てくるような優れたインターフェースで、便利でかっこよさそうなので、人気を博した。
・プロジェクトオーナーは優れたプレゼンを行い、さらに人気を博した。5000人を越える人がこのプロジェクトにお金を払っている。
・このプロジェクトについて、インターフェースのプロ研究者は、プロジェクトの当初から、「だいじょうぶかなあ、あのやり方だと"決定"と"指示"の区別がつかないはずだし、アイデアとビデオは面白いけど、実際の製品にならないのでは?」という疑問を呈してはいた。
ただ、研究者は自分が直接担当していないプロジェクト、しかも実際に世間に出る前のモノに対して、大声で否定するようなことは通常しないので、「聞かれたら答える」という程度。
・また、製品の仕様とは別に製造の観点から、設計と製造の有識者は、「つくるのが難しそうだし、予定通りの期日ではできないんじゃないかな?」と疑問を呈してはいた。
・Kickstarterは、「専門外の人がチャレンジングなプロジェクトを発生させる」という性質上、ハードウェア系は成功したうちの80パーセントのプロジェクトが、予定通りに出荷はできていない。
問題になったこと
・予定通りに出荷されるのでなく、遅れている。
・製品の外見含め、いくつか仕様変更があった。
・仕様変更や遅れに対して、8月に21コメントがKickstarterのプロジェクトページに書き込まれたが、それにたいしてRingからは回答が遅れた。
・上記の状況に対して、ITMediaなどいくつかのメディアが、「炎上」と表現した。
指輪デバイス「Ring」デザイン変更と納期変更 - 支援者激怒で返金要求
http://news.mynavi.jp/news/2014/09/03/231/
指輪型デバイス「Ring」炎上 出荷遅延・デザイン変更……「9月末発送に向け量産中」と開発会社
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1409/02/news063.html
以下、様々なことに対する僕の考えです。
サマリ:
Kickstarterは地雷原で、
クラウドファンディングというものが、そもそも地雷原であり、支援者側もその中でダイヤの原石を探すスリル、可能性に期待して賭けをする快感を自分のリスク判断のもと行う場所だという認識が、もっと広く理解されればいいなあ、僕はそちらを目指したいなあ、と思っています。
Kickstarter not a store!
Kickstarterは、製品開発のプロではない人が、自分のアイデアに対して投資するひとを集める場所です。
そこには、「プロ」では思いつかないアマチュアチャレンジャーの自由な発想から生まれたプロジェクトが出品され、支援者はそれにお金を出して支援することができます。出資が一定以上集まればプロジェクトは実施され、支援者は完成品を受け取ることができます。お金とモノを引き替えているという構造は、店に似ています。
でも、これはそれまでになかったかたちの取引です。
2年前にKickstarterは、Kickstarter not store!というキャンペーンを貼りました。
「Kickstarterはお店じゃない、どういうモノなのか確認しよう」として、ユーザーにクラウドファンディングというもののリスクへの理解を啓蒙しました。プロジェクトを行っているのはチャレンジャーなドリーマーです。本人はそのプロジェクトの成功を信じているでしょうが、成功するかどうかは正直誰にもわかりません。銀行から出資を受けたり、会社に所属して企画書にいっぱいハンコを集めたりするのとは、違うかたちで資金調達をして夢を実現しようとしている人たちです。
Kickstarterは、ドリーマーと支援者のためのサイトです。支援者は「クラウドファンド」、つまり出資を行います。株券と同じで、確実に成果が保証されているものではありません。
僕個人がRingについて思うこと
僕はあのプロジェクトに出資してないです。僕が知ってる範囲ではアレは実現難しく思えたし、友達何人かの有識者からは、あんまり好意的な評価を聞かなかった。「見えてる地雷」ではありました。
僕は、多少デキが悪くても友達に自慢できるようなモノがほしいと思って、見えてる地雷を踏みに行くことがあります。たとえばGoogle Glassとか。あれ、かけてみるとわかりますが、少なくとも現時点ではあんまり便利じゃないです。友達には自慢できますが。
Ringは、「友達に自慢できるようなモノ」にならないと思いました。プロジェクトは終わってないので、この思いが合ってるか間違ってるかはわかりません。
実際にお金を払った人が、かっこわるくなった外観や、出荷の遅れに対して、文句を言う権利はあります。ただRingに対して、大メーカーが提供するようなサポートを求めたり、すぐ返金を求めるのはどうなんだろう、と思います。
実際にKickstarterで成功させて製品を出荷した人に話を聞くと、
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「プロジェクトの投稿者にリスク&チャレンジという項目を書くことを義務化していて、「本当にこの通り実現するかは、こういう原因でわからない」相当するような内容はそこに書かれています。
クレームを言ってくる方は、大体そこを読んでいなくて、「ここに遅れるかも知れないって書いてあったよね?」って返事すると「あ、ほんとだごめん」と納得してくれました。
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と語ります。今回不満を言っている人が、そこを読んだかはわかりません。ただ、不満を言っているユーザが、8月に21件いることは事実です。
メディアについて思うこと
5161人が出資したRingに対して、1ヶ月で21件の書き込みがあったことを、ITのメディアが「炎上状態」と表現するのはよくないと思います。1年ぐらい出荷が遅れたLeap Motionの時にはそういう表記は見られなかったし、過去ITのメディアがRingを取り上げたとき、「見えてる地雷」として取り上げたメディアはありませんでした。
そして今、ちょっと出荷が遅れたRingに対していくつかのメディアは、Kickstarter not store!キャンペーンにも触れず、不満を言った声だけを取り上げて「炎上」と書いています。
そういう世間の声が強くなると、Kickstarterはどうなるでしょうか?
「これまでにないもの」は、「これまでにない問題」を生む-例:Airbnb
僕は今取材でオーストリアのリンツにいます。宿は、Airbnbというサービスを使って確保しました。これは「個人が自分の家を、自分がいない間、お金を取って人に貸す」ということを助けるサービスです。僕はウェブサイトで家主のコメント(wifiやキッチンがあるよとか、駅から近いよとか)を見て、部屋を予約しました。
ホテルではないところに泊まるわけです。いろいろな問題は発生します。そもそも住所だけを頼りに誰かの家に行くのはけっこう大変です。ましてや外国や、初めての場所では。
今日だと、
・家主は家を空けるわけだから、当然でかけている。僕の部屋の鍵は郵便箱に入っている。
・郵便箱はマンションの内側にある。外ドアのカギがないと、マンションの中には入れない。
・家主は僕が来ることを同じマンションの誰にも言付けしていなかったらしく、インターホンで何人かに話したけど、見ず知らずの東洋人を怪しんで、だれも外ドアのカギをあけてくれない
・僕は20kgぐらいある重たいスーツケースを運びながらオーストリアの携帯SIMカードを確保して、家主に電話した。家主は「ごめんなさい、でも、隣人の電話番号誰も知らないし、何もできない。そのうち誰か出てくるから、申し訳ないけど待ってて」とのこと。
・30分ぐらいたってからまた電話したら、家主が別の友達(リンツに住んでいる人だが、このマンションの住人ではない)にコンタクトしてくれて、その友達がわざわざ来てインターホンで隣人と交渉し、ドアを開けてくれた。
トータルで、マンションのドアの前まで来てから、90分以上かかりました。
・やっと中に入ってインターネットを使おうとしたら、パスワードを書いてある紙が達筆すぎて読めない。特に5文字目。
写真撮って携帯からネットに上げて何人か英語の堪能な友達に聞いて、「H e r n m のどれかだとおもう」という回答を得たのですが、SIMとモバイルインターネットを確保しておかなかったら詰んでました。家主が暗記してるとは思えないし、家主に写真を送るためにはネットがいるわけですが、そのネットが使えないわけですから。
僕は何度かAirbnbを使っています。今回は一番苦労しましたが、ほかにも小さい問題はよくあります。
毎回かなり腹が立つし、家主にとげとげしい言葉で電話したりもする(そもそも慣れない英語だからつっけんどんにもなる)のですが、「耐えられないから使うのをやめよう」とは、まだなっていません。やみくもに他人に勧めたり、仕事の出張で泊まったりはしませんが。
うまくいけば、安いお金で広い部屋に泊まれるし、キッチンも使えるし、味気ないホテルの部屋に比べて、「外国の、普通の人が住んでる家」はなんとも魅力的です。内装や、冷蔵庫に残ってる食材を見るだけでも楽しいです。
そして毎回、
「洗濯機は使っていいんだろうけど、洗剤はいいのかな?」
「キッチンは使っていいんだろうけど、調味料ってどのぐらい借りていいのかな」
「タオル使っていいのかしら」
「最終日にはゴミ出ししたほうがいいのかな。でもこの国のゴミ出しルールってどうなってるんだろう」
「家主イスラム教っぽいけど、僕の買ったベーコン冷蔵庫に入れても平気かなあ」
みたいなことを考えるのもまあまあ楽しいです。今のところ、僕がやりすぎて怒られたことはありません。
とあるときに、自分の責任をあんまり認めない家主と、初日の合流で手間取ったときに、「彼の英語はよくないので、待ち合わせに失敗した」とは書かれことがあります。僕は彼の要領を得ない説明にかなり苦労したんですが、、、
ともあれ、インターネットが可能にしてくれた、新しいサービスではあります。同時に、「いつか何か問題が起きそう」なサービスでもあります。
Airbnbはそのうち規制され、少なくとも日本国内では使いづらいサービスになるでしょう。「ちゃんとしてない」もの、「これまでにないもの」に、世間は厳しいです。
これまでに無かった新しいことはたいてい、これまでになかった新しい問題を生みます。iPodとデジタルコピーの問題しかり、検索エンジンと著作権の問題しかり、携帯と電車内マナーの問題しかり。3Dプリンタは銃も女性器も作れます。でも、包丁でも人は殺せるし鉛筆でも女性器が書けます。なんで3Dプリンタがことさら問題になるのか、僕はよくわかりません。
僕は小学校のころ、ウォークマンが発売されて、保健室に「イヤホンは頭が悪くなる」という趣旨のネガティブキャンペーンポスターが貼られたことをおぼえています。
それでも、「これまでにないもの」が見たい
かつて、世界のどこにも「パーソナルコンピュータ」がなく、コンピュータ会社のプロが「世界で数十台売れればコンピュータの市場は飽和する」と公言していた時代、世界で最初のパーソナルコンピュータを作った人たちは、「どぶろくコンピュータクラブ」というオタクが集う場所で自作コンピュータを売り出した、スティーブ・ジョブズとウォズニアックでした。
彼らは自分たちで作った基盤をオタク達に売りました。綺麗な箱もユーザーサポートもありません。初期不良率も高かったと思います。でもアメリカのコンピュータオタクは、競ってAppleのコンピュータを買い求めました。
プロが思いも寄らぬイノベーションをアマチュアが成し遂げ、かつそこに市場があったのです。Apple I を売ったお金で彼らはApple ][ を作りました。今のAppleは、オタクだけを相手にする会社ではありません。
スティーブジョブズはその後も、ユーザーをだますようなうまいプレゼンをいっぱいやっています。「PowerPCはインテルの3倍速い」とよくプレゼンしてました。特定の条件下の特定の処理ではその通りですが、全体としてはウソそのものでした。その後あっさりCPUをインテルに乗り換えています。
また、「初代iPhone」(日本では未発売)は、「iPhone。Appleは電話を再発明した」というキャッチコピーをつけました。。毎日再起動が必要でクソ遅いゴミでしたが、Appleが再発明した電話には違いありません。アメリカのオタクは競って買い求めて、頑張って使いこなしました。日本でも発売された2代目の「iPhone3G」もマトモに使うのはすごくストレスのたまる電話機で、キャッチコピーは「iPhoneにハローって言おう」でした。オタク達はハローが言いたくて、発売日に並んで買いました。そうじゃない人で買ったのは少なかったと思います。
あるていど、オタクじゃない人が使っても大丈夫なものになったのは三代目の「iPhone3GS」からで、Appleもそこから一般の人に向けたキャッチコピーをつけています。
僕は日本発売のiPhone3Gを並んで買いました。きわめてストレスのたまる端末でしたが、後悔はしていません。ほかにもコンピュータ関係ではいろいろ、「きわもの」を買ったりインストールしたりしてきました。実家の押し入れはそういう製品でいっぱいです。再インストールや再セットアップに、どのぐらいたくさんの時間を使ったか考えると怖くなります。
でも僕は、他の人に自慢できるようなガジェットが好きです。Kickstarterでもいくつか「きわもの」に手を出しています。ちなみにKickstarter全体では、お金が集まったハードウェア系のプロジェクトのうち、80%が予定より遅れたり完成できなかったりしているようです。
未来は、「ちゃんとしてない」人たちが切り開いてきました。パーソナルコンピュータもオープンソースのOSも、かつてのプロに馬鹿にされながら世の中に受け入れられてきました。
新しいことを思いつき、実行する人たちは、リスク回避よりもチャレンジに軸足を置いていることが多いです。結果として想定外の自体が発生し、誰かが迷惑を被ることも多いです。「頑張ったけど、約束は守れなかった」ことも多いと思います。それを「ウソ」と呼ぶべきかどうか、僕は迷います。ジョブズとジョブズもどきの間に明確な線は引けないと思っています。
Kickstarterは、チャレンジをしやすくしてくれました。おおくのジョブズもどきにチャンスを与えてくれました。オタクに「世の中を変えるかもしれない製品を最初に買った数百人」になる機会を与えてくれました。
たぶん、それが本当に世界を変える製品なら、数年経てばちゃんとした製品が量販店で売られます。でも、僕は最初の数百台がほしいし、その「世の中を変える製品が生まれる瞬間」に、お小遣いぐらいの金額でコミットできるなら、コミットしたいのです。
だから、クラウドファンディングというものが、そもそも地雷原であり、支援者側もその中でダイヤの原石を探すスリル、可能性に期待して賭けをする快感を自分のリスク判断のもと行う場所だという認識が、もっと広く理解されればなと願います。
インフォメーションテクノロジーや新しいモノを歓迎するメディアであれば、Ringの件はそういう視点で扱った方がよいのではないかと、僕は思います。
この記事の基になったやりとりはここのfacebookエントリです。各者のコメントをかなり大胆に要約してるので、文中で個別に名前を挙げるのは避けています。