小百合、感激の悲鳴「キャー」モントリオール映画祭で2冠
女優の吉永小百合(69)が企画・主演した「ふしぎな岬の物語」(成島出監督、10月11日公開)が2日、第38回モントリオール世界映画祭で最高賞グランプリに次ぐ、審査員特別賞グランプリとエキュメニカル審査員賞をダブル受賞した。吉永は、授賞式で感激のあまり「キャー!」と悲鳴を上げる一幕も。今後は一気に映画プロデューサーとしての手腕も注目されそうだが「一俳優に戻ります」と、再び女優一筋に歩んでいくことを明らかにした。
「胃痛を感じ、心臓はバクバク」。発表まで緊張で逃げ出したい気持ちに襲われていた。悲鳴を上げることなどめったにない吉永が、仏語で映画のタイトルが読み上げられた瞬間「キャーッ!」。プレゼンターに抱きつき、喜びを爆発させた。「一番に反応してしまって恥ずかしかった。でも最高の気分でした」
国内外を問わず、吉永の賞への考え方は独特だ。個人賞には全く関心がなく「全員で喜べるものを」。その願いが通じ、最高賞に次ぐ審査員特別賞グランプリに輝いた。指笛と「ブラボー」の声が響く中、ステージでは「メルシー(ありがとうございます)」を始め「こんな賞をいただき、私たち皆、本当に感激しております」などとこの日も仏語あいさつ。「もし受賞したら」と考えてはいたが「練習するのは不遜」とぶっつけ本番。うれし涙をため、受賞トロフィーを、いとおしそうにぎゅっと抱きしめた。
実はずっと2つの思いが交錯していた。「何もいただけないこともある。その場合はどう気持ちを立て直せばいいんだろう」。現地入りし、絶えずそのことばかり考えていたという。でも弱音ははけなかった。共演の阿部寛(50)とも喜びを分かち合い「体も大きいけど、心も大きい。本当に助けてもらい、言いようがないくらい感謝」と頭を下げた。
合わせてキリスト教関連団体が選ぶ「エキュメニカル審査員賞」とのダブル受賞。「海外でもらうのは初めて。2つも。うれしくて何とも言えない」と何度も目はうれし涙でいっぱいになった。55年の女優人生で最高の日だっただろう。
「新参者」といいながらも、気配りと人心掌握術にもたけた吉永は、プロデューサー向きだ。そのデビュー作での快挙に、新たな一面と才能を披露した格好だが、「これで味をしめてはいけない。一俳優に戻ります」ときっぱり。帰国後は休む間もなく、1か月半後の公開までキャンペーンに奔走する。
なお、グランプリはメキシコの「パーフェクト・オビディエンス(英題PERFECT OBEDIENCE)」(ルイス・ウィルキサ・モンドラゴン監督)が受賞した。
◆ふしぎな岬の物語 吉永演じる喫茶店主と人々の悲喜こもごもを描く。メルヘン的な作品でもあり、悪人が出てこないのも特徴。現地では「癒やされ、深い感動を呼んだ」と高評価。吉永が「企画」を決意した背景には、多くの犠牲者が出た11年の東日本大震災がきっかけ。心を痛めながら「人と人とのつながり。命のリレー」を一番考えたことから生まれた作品だ。