2014-09-04 想像力を広げるということ
■[チベット]正当な批判と差別の境界線
すごく男らしくないことを書く(その3): bogus-simotukareのブログ
某女史の紹介するチベット法話に突っ込む(追記): bogus-simotukareのブログ
チベット仏教に内在する人権侵害とか少数派への鈍感さとかが問題ならそれは批判すればいいと思います。それは正当な批判であってそれを封殺しようというつもりはない。ただ正当な批判とそうではない差別を一緒くたにして主張するからアレなのであって。一応ここで批判と差別の線引きというかわたしが何処を問題視しているかを改めて書いておこうかと。
批判対象の選択に際して何に重点を置くかというのもそれ自体では問題ではありません。たとえば,LGBTの権利擁護の方に高いプライオリティを置いている人間と先住民族の権利の擁護に重点を置いている人間ではどれが重大問題なのかも異なってくるでしょうし,それぞれの方向からの議論がなされなければ,たとえば「イスラエルは中東で唯一同性愛者の権利を守っている国家なのだからイスラエルを擁護しよう」「まずはパレスチナ解放が最優先なのだからイスラーム内部の性的少数者差別のことは取り上げないでおこう」というような言説が大手を振って罷り通ることになるわけで,それは健全とはいえない。わたしも一応チベット仏教における性的マイノリティへの扱いについてはまあ本当にわずかですが批判はしているので,こういう観点からのチベット仏教批判であればそれはなされてもわたしは基本的に問題にするつもりはありません。きちんと異教を批判する際の配慮がなされている限りはね。残念ながら今のそちらの筆致にそういう配慮は見当たらないのですけれど。この点後述。
転生僧に対する話も同じで,まあわたしはチベット仏教徒ではないけれど(むしろ日本の仏教徒であるがゆえに,たとえば仏教とは関係ない土着の神々への崇拝を斥けるダライ・ラマ猊下の説法とかには違和感を感じるというのは何度か表明してきました。わたしは彼に敬意を払っているけれども彼の信徒ではない),仏教と神道を奉じるアニミストではあるので,たとえばアイヌの神さまに対するように礼は尽くそうと思うし実際に何かありがたいものがあるんじゃないかというのも感じはしますが,それはそれとして人権侵害であるという訴えは真摯に向き合うべきであるとは思います。たとえば彼らが還俗あるいは破戒したからといって外部の人間がそれを糾弾するのは明らかにおかしい。ただだから転生を全否定していいのかというとそれは話が別で,下で書くけど他者の文化を一刀両断する権利がわれわれ外部の人間にあるのかという問題です。個人的には映画『リトル・ブッダ』で描かれたような,転生は認めるし仏教文化になるべく触れさせようとはするけれど最終的には個人のしたいようにやらせるというリベラルな宗教実践がいいんじゃないかと思いますが,これもまたわたし個人の感慨に過ぎないので,批判はどうぞ御自由に。積極的に糾弾するひとたちの論には与しませんが,だからといって無問題ともそれらの議論に正当性がないとも思わないので。
(輪廻批判についてはまあ難しいところで,転生僧の問題を措いておくにしても,輪廻思想からは「あなたの憎んでいる人びとや殺している動物もかつてはあなたの父母だったのかもしれない」というようなかたちで博愛を汲み取ることができるわけですし,難病に苦しむ人びとも「それは前世のおこないの所為である」がゆえに「今世の患者を差別してはならない。彼らに責任はないのだから」というロジックを組み立てることも可能なわけですが実際には逆の使われ方をしてきたことが多いというか殆どなわけで,その実際に使われてきた歴史に即してこれに否定的評価を組み立てるのはまあ当然かなと思います。ただ一方である伝統宗教の核にある思想を簡単に一刀両断して否定するドーキンス的なやり口もどうかなと思うわけで,その辺でまあ感覚のわかれるところかなと)
ただまあそれらの批判をなす上で重要なことは,それがわれわれにとって「他者の文化」であるということであり,またそれが「野蛮」への介入という目線を伴っていないか? という話であり,そうであるがゆえに批判と差別とは慎重に峻別されねばならないというわけで,だからわたしが指摘してきた問題はそこにあるんですよ。そしてチベットのような状況にある地域においては,外部の人間が先住民文化の「野蛮性」を言い立てることは他の地域のそれ(たとえば日本における多数派文化)を批判するのよりセンシティヴさが要求されてしかるべきである,という理屈はわかっていただけるかと思いますが。どれだけ多くの帝国主義(もちろん日本も含みます)が「野蛮な先住民をわれわれが解放してやったのだ」と謳ってきたことか。そして現に今イスラエルが自らを「中東で唯一性的少数者に寛容な国」とアピールしているわけですし中国が「チベット解放」をどのようにアピールしているかはそちらもよくご存じでしょう。そしてそのような状況だからこそ先住民が文化防衛に走るということが有り得るわけで,そこにセンシティヴであることだけは求めたいのですがまあこれは程度問題なので,あからさまな邪教呼ばわりとか低能呼ばわりとかの差別をしたり植民地支配を肯定したりしない限りにおいてそこでセンシティヴでないことは議論の対象とか批判対象には成り得ても否定対象には成り得ないとは思います。
何度でも繰り返すけど,わたしが問題にしてきたのはチベット人への蔑視とかチベットへの植民地支配の肯定論(あるいは解放運動へのシニシズム)とか根拠のない歴史学者への業績への誹謗とかであって,別にダライ・ラマ批判をするなと言ってるわけでもチベット仏教を盲信しろと言ってるわけでも石濱さんを責めるなと言ってるわけでもないんですよ。ダライ・ラマ批判やチベット仏教批判にチベット人差別や植民地支配肯定論を混ぜ込むな,石濱さん批判はいいけど「ブログやtwitterでの発言はどうこう」じゃなくて「歴史学者としてどうこう」みたいな批判をするのならせめて彼女の業績に即してものを言おう,という話。というか別に批判するなとは一言も言ってないのに(むしろ折に触れて「批判したいならすればいい」と言ってるのに)何故か勝手に「チベットキチガイ」だの「石濱真理教」だのと噴き上がってきて「こいつはチベットを全肯定している」と言わんばかりの筆致の批判を向けられても困るんですけど,っていう。だから別に普通で健全な批判がなされる限りにおいてわたしはなにも言いません。というのはもう半年以上前に書いてるわけですけど。
「いくら民族解放のためとはいえ,歴史修正主義者や差別主義者と手を組むのは悪いことだ」という批判「だけ」ならばわたしはなにも問題にはしなかったし,場合によっては賛成すらしていたかもしれない。誰もチベット亡命政府を批判するななどとは言っていない。問題がその次元にはないということすら読み取れない人がいることにはうんざりだ。
いちいち言うのも馬鹿らしいことだが - Danas je lep dan.
あとは例えば,「中国の認定がどうこうではなく未だに転生なんて非科学やってる馬鹿さが問題。『転生なんかありえない』と言って転生霊童なんてバカを『中国よりも先に辞めれば』ダライ一味を見直すが,バカだから続けるんだろう」みたいな発言もダメでしょう。中国は実際にダライ・ラマ猊下がパンチェン・ラマ11世と認定した少年を家族ごと連れ去って,かわりに別の少年を「こちらが本物だ」として11世に立てたり,「転生には中国共産党の許可が必要です」みたいな法律を制定したりしているわけで,個別の人権侵害の程度としてはそっちの方がアレなんじゃないかという話で,そこで「中国政府もダライ・ラマもどっちも非科学的でダメダメ」なら科学主義者とか宗教批判者の発言として理解することができるんですけど,「中国よりも先にやめれば」なんて条件を出してる辺りで「それって結局チベットを罵倒したいだけなんじゃない?」とは思いますよね(一般論でいえば中国の政策を批判していないひとにもチベットの政策を批判する権利はあるけど,自分から話題に出しておいてこの比較は有り得ない)。それからダブルスタンダード。転生僧やLGBTの人権を持ち出してチベットを批判する人が「中国のチベット支配は必要悪」とか言える段階でおかしいんだよ,というのは流石にわかってくれると思いたいですが。チベットやウイグルの独立を支持しておきながらアイヌや沖縄を足蹴にする連中とどこがどう違うのか。
いやたとえば,中国や北朝鮮の批判しまくってるひとたちにだって理屈はあるわけですよね。チベットにおける弾圧とか北朝鮮の収容所とか独裁体制とか色々。でもたとえばそれを中国人蔑視とか朝鮮人蔑視に繋げて語ったり,儒教や道教を(内在的批判とかではなく)野蛮な迷信として切って捨てたり,反面で国内の少数民族や政治的意見の違う人びとを抑圧することを支持してたりしたら,それはまともで健全な批判とはいえないわけで。そういうひとたちに対して「ひょっとしてこいつら,人権とかどうでもよくて単に中国や北朝鮮の批判がしたいだけなんじゃないか?」という疑念を抱くのは当然ですよね。「チベット問題や拉致問題をダシにして中国人や朝鮮人を蔑視する」のと同じことを自分がしていないかどうか,よーく考えてみてください。
関連過去エントリ:
「右翼」を批判するために少数民族を差別するという本末転倒,あるいは笑えない冗談について - Danas je lep dan.
本職の歴史家に史料批判とは何かについて説教する蛮勇 - Danas je lep dan.
「逆右翼」と反中主義者たちをめぐって――梶ピエール氏への応答 - Danas je lep dan.
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- 4 https://www.google.com/
- 3 http://d.hatena.ne.jp/bogus-simotukare/20140902/1265042156
- 3 http://d.hatena.ne.jp/bogus-simotukare/20140902/1265542156