堀込泰三 - お金,節約術 10:00 PM
今あるものに感謝することで、お金の使い方はうまくなる
お金は論理的なものであり、感覚とは無縁であるかのように思われがちです。でも実際のところ、お金との付き合い方は「感情による影響」を大きく受けています。例えば感謝の気持ち。これが、かなりの割合で支出に影響しているのです。この記事では、感謝の気持ちがいかに私の「お金との付き合い方」を変えたかをご
感謝とお金
ある研究者グループが発表した『Gratitude: A Tool for Reducing Economic Impatience』という論文では、感謝の気持ちがお金の決断に与える影響を調べています。この研究では、参加者に対して、「幸せ」「感謝」「ニュートラル」の3つの感情のうちどれか1つを割り当て、その感情を伴う経験について書いてもらいました。その後、今すぐ少額のお金をもらうか、あとで大金をもらうかという選択をさせます。当然、後者の方が賢い判断であることは明らかです。
実験の結果、「感謝」の経験を記した被験者の方が、あとで大金をもらう選択をする傾向が見られました。
グラフで見るとこうですが、リアルライフにおいて、このような判断はどうやって起こるのでしょうか?
私は、自分が持っているものに対する感謝の気持ちを忘れないタイプだと自負していました。でもこの2年間で気づいたのは、確かに受け身の感謝の気持ちは持っているものの、持っていないものに対する執着もあるということ。その執着心は、私の金銭行動(特に支出)に大きな影響を与えていたのです。
目標設定の問題点
目標を定めるのは素晴らしいことです。私も子どものころから、お金にまつわる目標を立ててきました。貧しい環境で育ったので、私の目標はいつも、貧しくなくなることでした。大学卒業後、曖昧だった目標は、次のように具体的なものになりました。
- お金をもらえる仕事を見つける
- 借金を完済する
- 新たな借金に手を出さない
- お金を貯める
不足への執着
これらの目標の原動力となったのは恐怖でした。私はいつも、お金が足りなくなることを不安に感じていたのです。
その恐怖は、借金返済に目覚ましい効果を発揮しました。でも、借金完済後もその恐怖は消えず、なかなか人生を楽しむことができませんでした。安定した仕事に就き、非常用の貯金もできていました。それなのに、すべてを失うことが不安で、お金を貯め込んでいました。おかげで私のお金との付き合い方は、あまりうまくいっていませんでした。
- 自分の支出を過小評価して、給料を貯金に回し過ぎていた。
- お金を失うことが怖くて、投資を始めなかった。
- 上司に怒鳴られるのが怖くて、昇給を交渉できなかった。
本来、恐怖とお金はまったく別物です。私は目標に執着しすぎて、自分がすでに手にしているものを忘れていました。足りないものと、起こるかもわからない「もしかして」に心を奪われていたのです。
未来に目を向ける
目標への執着は、恐怖が原因とは限りません。もっと多くを手に入れたいという欲求が原因になることもあります。私の場合、お金が貯まるにつれて恐怖を解き放てるようになり、必要なものへの執着が薄れ、欲しいものへと興味が移っていきました。
憧れを持つのは素晴らしいことですが、過去にも書いたように、本当は目標よりも達成のプロセスに注目すべきだと私は考えています。陳腐な表現をすれば、目的地よりも旅の過程が重要なのです。
「確かにそれは大した哲学だけど、それとお金と何の関係があるの?」
と疑問に思う人もいるでしょう。その答えは2つあります。1つは、プロセスに注目すれば、生産性が高まること。あなたが対処するのは、抽象的な未来ではなく、今そこにある現在です。そうやって目の前のことに立ち向かうことで、あなたの問題解決力が高まります。未来よりも現在に注目することで、貯蓄がうまくいくというデータも出ています。
第2に、わかりやすいこと。現在に注目することで、より具体的な判断ができるようになります。例えば、私は何年もの間、老後のための投資や貯蓄をしていませんでした。当時の将来の目標は、仕事を見つけることでした。目の前の現実に目を向けず、未来ばかりを見ていたのです。だから、投資による複利の力を見過ごしていたのです。
消費者のメンタル
現在よりも未来に執着していた私は、ぶら下がった人参を追いかけるウマと同じ。言わば、願望に突き動かされた消費者だったのです。とても幸せはと言えず、いつも満足していない状態でした。無意識のうちに、「もっと広い部屋やもっと大きいワードローブがあれば多少は満足できるのに」と考えていたと思います。いわゆる、ライフスタイルのインフレが起こっていたのです。
それなりに抑制しているつもりでも、足りないものに執着していたために、何も考えずに不要なガラクタを大量に買い込んでいました。
いえ、不要なガラクタを買い込むこと自体は、それほど悪いことではありません。でも私にとってのキーワードは、「何も考えずに」というところ。自分のお金の使い方や、何がそれを操っているのかを、考えたこともなかったのです。
私が視点を変えた方法
未来から現在に視点を移したところ、いま自分が持っているものへの感謝の気持ちが湧いてきました。そして、次のような変化が訪れたのです。
- ガラクタの衝動買いがなくなった。
- 貯金できるお金が増えた。
- 投資がうまくなった。
- 金銭的な安心感が増した。
- 積極的に仕事に取り組むようになった。
でも、マインドセットを変えるのは並大抵の努力ではできません。私もしばらくの間、挑戦しても何も変わらない時期がありました。そこで、感謝日記を始めたり、衝動買いをやめる方法についての本を読み、実践しました。以下に、大きな違いをもたらした出来事を紹介します。
最大の恐怖が現実になった
私は失業しました。ずっと恐れていたことが、現実になったのです。しばらくの間、悲しみに暮れました。悲しみをやり過ごしたあと、以下のことを実感した私は、感謝の気持ちを持つようになりました。
- 本当は楽しかったはずの仕事を、何年もの間ずっと不安を抱えていたことで台無しにしてしまった。
- 非常用資金は貯めていたので、恐怖に突き動かされた過去はその目的を果たした。これがなかったらどれほどのストレスだったことか。
- その仕事は私に存在意義を与えてくれるものではなかった。私がいなくても、仕事は存在している。
- 私の失業には意味などなかった。要するに、私はクビになったのは「よくあること」。でも、「よくあること」が発生しても、とりあえずの住処と食糧はある。世界中の多くの人にとって、「よくあること」は悲劇と苦悩を意味する。
これらの刺激は自分でコントロールできることではありませんが、私が焦点を変えた方法は、ほかにもあるのです。
短期目標を定めた
ライフハッカーの過去記事で、目標を階層化するという記事がありました。私は、直近の小さな目標を立てるというアイデアが気に入っています。これをすることで、未来の自分と現在の自分が、うまくつながるのです。未来の自分を赤の他人だと思うことは、貯金にとっても投資にとっても、大きな障壁となります。例えば、「未来の完璧な自分」のために予算を立ててしまう人があまりにも多いのです。
私はこの記事に倣い、長期目標に基づく短期目標を、毎週のタスクに組み込むことにしました。例えば、「5から10年で5万ドル貯める」という目標を、「今年のうちに5000ドル貯める」に切り替えました。このようにして、時間の枠組みと金額を調整したのです。そのときは気づきませんでしたが、いま思えばあのやり方は、借金返済時に自分がやっていた方法と同じでした。つまり、短期的なマイルストーンを置くというやり方です。
短期間で何かを達成するという感覚は、私にとって心地いいものでした。私は、自分が達成できたことに対して、感謝の気持ちを持てるようになったのです。いつの間にか、目標通りの人生を生きている実感がわいてきました。私の視点は、目的地ではなく旅に移ったのです。
意識的な消費を心がけた
意識的な消費とはすなわち、倹約を意味します。Ramit Sethi氏は、倹約について次のように述べています。
倹約をシンプルに言うと、惜しみなくお金を費やしたいほど好きなものを厳選するということ。それ以外のものには、容赦なくコストをカットするのです。
よく考えてお金を使うことで、自分のお金と買ったものに対する感謝の気持ちが強まります。私の場合、洋服には惜しみなくお金を費やしたいと思いませんが、旅行はそれに当たります。自分の優先順位を把握しておくことで、よりよい判断ができるようになりました。
意識的な消費者になる方法は、いろいろなところで解説されています。どれが役に立つかは、その人次第。私の場合、封筒を使った方法がしっくりきています。クレジットカードやデビットカードに頼らず、できるだけ現金を使うというやり方です。現金という有形のものを使うことで、より深く考えてお金を使えるようになりました。
消費者としての自分のトリガーを知ることも役に立ちました。自分の消費欲をかきたてるものについて、考えてみたのです。それは、オンラインストアと近所のデパートでした。そこで売られているアウトレット商品には、自分の持っているものを忘れさせる何かがあるのです。今でもそのデパートにはよく行きますが、私は変わりました。自分でしていることを自覚していて、それらのアウトレットは、「惜しみなくお金を費やしたい」カテゴリーに属さないことをわかっています。
私の人生において、変えたいことはまだまだたくさんあります。お金のことでもそれ以外でも、取り組んでいる目標はいっぱいあるのです。その過程で、今に感謝することで、お金の使い方がうまくなりました。それだけでなく、自分を取り巻くすべてのことに満足できるようになったことが、何よりも嬉しいことです。
Kristin Wong(原文/訳:堀込泰三)
Photos by k rupp, Stefan Neuweger and Sebastiaan ter Burg.
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