テレビに出た住民の一人は「悪谷」が「芦谷(あしや)」に変わったと証言していますが、こちらは戦前の古地図にも見つけられません。しかし、「八木」だけでも「山間の狭い小谷」(東京堂出版『地名用語語源辞典』)を指し、地理空間情報アナリストの遠藤宏之さんが著した『地名は災害を警告する』(技術評論社)では「『ヤギ』が転石地を示す崩落地名」で、東日本大震災時も仙台市郊外の「八木山」という住宅地で地滑り被害があったと指摘されています。

広島の八木地区で現在、最大の避難所となっている梅林小学校は「ばいりん」と呼ばれていますが、「梅」は土砂崩れなどで埋まった「埋め」が語源であることが多いとか。また、八木地区と並んで被害の大きかった安佐南区緑井地区の古地図には「岩谷」の地名が、安佐北区可部地区には崩落地に多い「猿田彦神社」が見当たります。やはり地名は丹念に読み取ることで「警告」を浮かび上がらせることができそうです。

■負のイメージも包み隠さず

名古屋大学減災連携研究センター長の福和伸夫教授らの研究グループは、鉄道の駅名やバス停の名前と地盤との関係を調べてきました。近年、市町村合併による地名変更や、「希望が丘」など不動産価値を高めるためのイメージチェンジが各地で進んでいますが、駅名などは比較的変わることがなく、特にバス停名は公式の地名でなくとも、地元住民になじんだ通称が使われることが多いそうです。

東京、名古屋、大阪の三大都市圏にある3000以上のバス停名を分類した2009年の研究では、固く締まり、水はけのよい良好地盤のバス停には「山」や「台」「曽根」などが、地震時に揺れやすく、液状化の恐れもある軟弱地盤には「川」や「江」「橋」「深」などの漢字が使われている傾向が分かりました。これらを地図に落とし込んでみると、標高や過去の地震による震度などと地名が見事に対応するそうです。

また、鉄道路線はもともと住宅の密集地を避け、町の外れに沿ってレールが敷かれてきました。そのため、大都市の主要な駅は軟弱地盤の上にあることが「八重洲」や「梅田」などの地名に表れています。「そうした“ずぶずぶ地盤”であるという先人の教えを無視して、地面をアスファルトで覆い、高層ビルを林立させている現代の都市づくりは非常に危うい」と福和教授は危惧します。

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