ホッとニュース 【1月12日02時52分更新】

花いろに憧れ「仲居男子」 湯涌の旅館

客室の準備をてきぱきとこなす仲居の新鞍さん=金沢市内の旅館
 金沢市の湯涌温泉がモデルとなったアニメ「花咲くいろは」。主人公の女子高生の仲居 に憧れ、湯涌の旅館で仲居として働く人物がいると耳にした。会いに行ってびっくり。現 れたのは23歳の男性だった。アニメファンから一目置かれ、お年寄り客には孫のように かわいがられている「仲居男子」の仕事ぶりに迫った。(中嶋郁弥)

 アニメに登場する旅館のモデルとされる「秀(しゅう)峰閣(ほうかく)」で働くのは 、新(にい)鞍(くら)光太郎(こうたろう)さん。1年前から住み込みで働いている。 「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と客の出迎えや見送りは慣れたもので 、配膳、客室の掃除もばっちりだ。

 金沢育ちの新鞍さんは高校中退後、職を転々とした。通信工事のほか、片町のバーで働 いていたこともあったが、長続きしなかった。アニメにのめり込むようになったのはその ころだ。「主人公の松前緒花は、何に対しても一生懸命で決して信念を曲げないんです」 と「花咲くいろは」の虜(とりこ)になった。

 「大好きなアニメの舞台で働きたい。生き方を変えられるかもしれない」と一念発起。 ただ仲居は一般に女性の仕事であり、新鞍さんは「男の自分には無理」と考え、板前の面 接を受けた。女将(おかみ)の山下眞咲美さん(64)は「あまりにも熱心だったんで、 ちょうど仲居も足りていなかったし、仲居さんとして雇いました。女性ばかりなんで、力 仕事や機械にも詳しく大助かりやね」とべた褒めだ。

 「花咲くいろは」ファンにとって「聖地」で働く新鞍さんは羨(せん)望(ぼう)の的 。ツイッターを通じて存在が知られ、新鞍さん目当てに全国から若者が来るようになった 。直接、予約を申し込んだり、一緒に記念撮影を頼む客も多い。孫ほど年の離れたおばあ ちゃん世代にも「光ちゃん、光ちゃん」と呼ばれアイドル的存在だ。

 仲居業は毎朝5時に起きて、宴会があれば夜11時ごろまで続くきつい仕事だが、ほと んど休んだことがない。普段は脇目も振らず仲居をこなす新鞍さんだが、昨年10月の「 湯涌ぼんぼり祭り」の時はちょっと違った。「花咲くいろは」に登場する祭りを再現する イベントだった。「憧れの声優を接客できて幸せでした」と表情を崩す。当日、満室の旅 館は大忙しで、肝心の祭りは見られなかったのかと思いきや「実は行きました…」と告白 。女将さんも「しょうがないねえ」と苦笑する。

 部屋を見せてもらうと予想を裏切らず、ポスターやフィギュアなどアニメグッズでいっ ぱいだった。「仲居の仕事は自分が求められているって感じがありますね」と打ち込める ものをようやく見つけた新鞍さん。「花咲くいろは」効果は、湯涌温泉に人を呼び込んだ だけではなかったようだ。


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