2009年10月23日
昆明７ - 単純にして最強！サニ族料理の幸福な宴！
雲南省昆明市郊外にあるサニ族の村・大糯黒村について書き始めて、はや３日目。
ようやく料理の記事にたどり着いた（笑）。
しかし、この日食べた料理の感想をきちんと伝えるのはとても難しい。
食材にしても、調理法にしても、珍しいものは何もない。
「なんだそんなもの」と言われそうなくらい、単純なものばかりなのだ。
たとえばこれ、腊肉と荷包蛋。
炒めたベーコンとフライドエッグのてんこ盛りだ。
この写真を見て、「うわー、美味しそう！」と思ってくれる人はあまりいないだろう。
でも、これが超絶に美味しいのだから、僕としても、どう説明していいのか困ってしまう。
ベーコンにしても、卵にしても、びっくりするほど味が濃い。
濃いと言うのは、もちろん味付けの濃さではなく、素材自体の味の濃さだ。
特に、程よい厚さに切られたベーコンは、噛めば噛むほど、肉の旨味が広がる。
熟成して飴色になった脂身は、無駄なしつこさが落ちていて、何枚でも食べられる。
中国南方の農村では、どこでも自家製ベーコンを作っているが、これは飛び切りの上物だ。
塩気の具合もちょうどよく、これだけで昨日の包谷酒がいくらでも飲めた。
お次は、茹でた青菜。これまた何の色気もない見た目である。
しかも、青菜が浸っているのはスープかと思いきや、ただの茹で汁で、塩気すらない。
しかし、これがまた妙に旨いのだから困る。いや、別に困らないが、驚く。
「中国野菜」と言うと、日本でのイメージは最悪だろうけど、
山奥の農家が自宅用に育てたやつを収穫直後に食べれば、味付けなしで食べたって旨い。
もっとも、さすがにこれだけ大量の青菜を全くの味付けなしで食べるわけではない。
「蘸水」と呼ばれる合わせ調味料で食べる。雲南ではポピュラーなもので、
唐辛子粉に塩、葱、ミント、大蒜、香菜、腐乳汁などを混ぜ合わせて作る。
水やスープなど何らかの水気を足せば「湿蘸水」、何も足さなければ「干蘸水」。
茹で野菜の場合、全体に味がからむよう「湿蘸水」を使うことが多いようだ。
この「蘸水」が、とても良かった。
化学調味料と無縁であることは言うまでもなく、透き通った辛さに程よいコクがあり、爽やかだ。
↓一番奥が「蘸水」。刺激はあるがあり過ぎず、あくまで野菜の脇役に徹している。
で、上の写真の手前にある糟辣椒（唐辛子の発酵ペースト：右）と辣腐乳（辛い腐乳）も、
目を見張るような美味しさだった。
それもそのはず、なんと、どちらも全部手作りなのだ！
この感動が伝わるだろうか。
今どき、完全無添加の自家熟成させた糟辣椒や辣腐乳なんて、高級店でもまず使ってない。
無闇に辛いだけではなく、熟成によってこなれた香りと旨味。
そのまま食べても美味しい糟辣椒や辣腐乳。そんなものが存在するなんて。
本来は肉や野菜につけながら食べるようだが、僕らはそのまま酒のアテにしてしまった。
↓辣腐乳の断面。豆腐ようを硬くした感じ。ちょびちょび食べると最高！
ダッタン蕎麦の粉で作ったガレット・苦蕎粑粑には、村でとれた蜂蜜が添えられていた。
この手の穀物ものって、「素朴だね」「懐かしい味だね」と言いながらも、
ボソボソしてそこまで食指が動かないってことも多いが、これは実に旨かった。
薄く焼かれた生地はムチッとして舌触りがよく、噛むごとに蕎麦とも異なるダッタン蕎麦の
あの香ばしい香りがふわっ。蜂蜜の素朴な甘さがベストマッチだ。
↓苦蕎粑粑。裏庭に咲いていた朝顔がこんなところに（笑）。
↓村でとれた蜂蜜。そりゃあ、旨い。旨いですよ。
「ガレットと同じなら間違いないはず」と、ベーコンや卵を巻いてみたところ、これも最高！
少しだけ糟辣椒や辣腐乳を混ぜてみると、ぐっと味が深まる。
数枚重ねになっていたガレットは、あっという間になくなってしまった。
そして、最後を飾るのは、山羊の乳で作ったチーズ、乳餅だ。そんなの旨いに決まってる。
作ってるときから絶対旨いと確信していたが、やっぱり旨い。旨いものからは、オーラが出る。
↓モツァレラチーズのような見た目。 ↓焼き色をつけていく。
↓出来上がり。花椒と塩を混ぜた「椒盐」がかかっている。
久々に、心から旨いと思った食事だった。
料理名と写真だけ見れば単純極まりない料理だが、極上のご馳走だった。
言えば陳腐になるが、完全に「素材と手間の勝利」だ。
丁寧に育てた食材を用い、過度な調味をほどこさず、必要なものは時間をかけて熟成させる。
それだけのことをきちんとやれば、人はこんなにも幸福を感じられるのだなあ。
素材に勝る調理なし、手間に勝る技術なし、だ。
若い夫婦には僕らの感動を頑張って伝えたつもりだが、多分、この味は、一期一会のものになる。
彼ら自身は、民族料理が観光の売りになることは知っていても、この味が特別なものとは
思っていないし、今の生活様式だからこそ生み出せるものだという自覚もないだろう。
生活が近代化すれば、名前と見た目が同じ料理を作ることは出来ても、味は今とは別物になる。
それは寂しいことだけれど、きっと誰にも止めることはできない。
少なくともこの日、この味に出会えてよかった。
そう思うことにした。
■今日の料理■
腊肉 la4rou4（ベーコン）
荷包蛋 he2bao1dan4（フライドエッグ）
青菜 qing1cai4（恐らく、小苦菜 xiao3ku3cai4）
苦蕎粑粑 ku3qiao2ba1ba・
乳餅 ru3bing3
蘸水 zhan4shui3
糟辣椒 zao1la4jiao1
辣腐乳 la4fu3ru3
撮影＠『尼維羅瑪憨』
住所：昆明市石林県圭山鎮大黒村241号
電話：139-8718-1795（店主携帯）
オマケで、文中に書くのを忘れた番外編。
↓クセがなく飲みやすい薬草茶。何の草かと聞いたら、答えは「野草」（笑）。右は、乾燥状態↓
↓トウモロコシ粉を混ぜたご飯。香りがいい！ ↓草を編んだ蝿よけカバー。欲しかった〜。
ようやく料理の記事にたどり着いた（笑）。
しかし、この日食べた料理の感想をきちんと伝えるのはとても難しい。
食材にしても、調理法にしても、珍しいものは何もない。
「なんだそんなもの」と言われそうなくらい、単純なものばかりなのだ。
たとえばこれ、腊肉と荷包蛋。
炒めたベーコンとフライドエッグのてんこ盛りだ。
この写真を見て、「うわー、美味しそう！」と思ってくれる人はあまりいないだろう。
でも、これが超絶に美味しいのだから、僕としても、どう説明していいのか困ってしまう。
ベーコンにしても、卵にしても、びっくりするほど味が濃い。
濃いと言うのは、もちろん味付けの濃さではなく、素材自体の味の濃さだ。
特に、程よい厚さに切られたベーコンは、噛めば噛むほど、肉の旨味が広がる。
熟成して飴色になった脂身は、無駄なしつこさが落ちていて、何枚でも食べられる。
中国南方の農村では、どこでも自家製ベーコンを作っているが、これは飛び切りの上物だ。
塩気の具合もちょうどよく、これだけで昨日の包谷酒がいくらでも飲めた。
お次は、茹でた青菜。これまた何の色気もない見た目である。
しかも、青菜が浸っているのはスープかと思いきや、ただの茹で汁で、塩気すらない。
しかし、これがまた妙に旨いのだから困る。いや、別に困らないが、驚く。
「中国野菜」と言うと、日本でのイメージは最悪だろうけど、
山奥の農家が自宅用に育てたやつを収穫直後に食べれば、味付けなしで食べたって旨い。
もっとも、さすがにこれだけ大量の青菜を全くの味付けなしで食べるわけではない。
「蘸水」と呼ばれる合わせ調味料で食べる。雲南ではポピュラーなもので、
唐辛子粉に塩、葱、ミント、大蒜、香菜、腐乳汁などを混ぜ合わせて作る。
水やスープなど何らかの水気を足せば「湿蘸水」、何も足さなければ「干蘸水」。
茹で野菜の場合、全体に味がからむよう「湿蘸水」を使うことが多いようだ。
この「蘸水」が、とても良かった。
化学調味料と無縁であることは言うまでもなく、透き通った辛さに程よいコクがあり、爽やかだ。
↓一番奥が「蘸水」。刺激はあるがあり過ぎず、あくまで野菜の脇役に徹している。
で、上の写真の手前にある糟辣椒（唐辛子の発酵ペースト：右）と辣腐乳（辛い腐乳）も、
目を見張るような美味しさだった。
それもそのはず、なんと、どちらも全部手作りなのだ！
この感動が伝わるだろうか。
今どき、完全無添加の自家熟成させた糟辣椒や辣腐乳なんて、高級店でもまず使ってない。
無闇に辛いだけではなく、熟成によってこなれた香りと旨味。
そのまま食べても美味しい糟辣椒や辣腐乳。そんなものが存在するなんて。
本来は肉や野菜につけながら食べるようだが、僕らはそのまま酒のアテにしてしまった。
↓辣腐乳の断面。豆腐ようを硬くした感じ。ちょびちょび食べると最高！
ダッタン蕎麦の粉で作ったガレット・苦蕎粑粑には、村でとれた蜂蜜が添えられていた。
この手の穀物ものって、「素朴だね」「懐かしい味だね」と言いながらも、
ボソボソしてそこまで食指が動かないってことも多いが、これは実に旨かった。
薄く焼かれた生地はムチッとして舌触りがよく、噛むごとに蕎麦とも異なるダッタン蕎麦の
あの香ばしい香りがふわっ。蜂蜜の素朴な甘さがベストマッチだ。
↓苦蕎粑粑。裏庭に咲いていた朝顔がこんなところに（笑）。
↓村でとれた蜂蜜。そりゃあ、旨い。旨いですよ。
「ガレットと同じなら間違いないはず」と、ベーコンや卵を巻いてみたところ、これも最高！
少しだけ糟辣椒や辣腐乳を混ぜてみると、ぐっと味が深まる。
数枚重ねになっていたガレットは、あっという間になくなってしまった。
そして、最後を飾るのは、山羊の乳で作ったチーズ、乳餅だ。そんなの旨いに決まってる。
作ってるときから絶対旨いと確信していたが、やっぱり旨い。旨いものからは、オーラが出る。
↓モツァレラチーズのような見た目。 ↓焼き色をつけていく。
↓出来上がり。花椒と塩を混ぜた「椒盐」がかかっている。
久々に、心から旨いと思った食事だった。
料理名と写真だけ見れば単純極まりない料理だが、極上のご馳走だった。
言えば陳腐になるが、完全に「素材と手間の勝利」だ。
丁寧に育てた食材を用い、過度な調味をほどこさず、必要なものは時間をかけて熟成させる。
それだけのことをきちんとやれば、人はこんなにも幸福を感じられるのだなあ。
素材に勝る調理なし、手間に勝る技術なし、だ。
若い夫婦には僕らの感動を頑張って伝えたつもりだが、多分、この味は、一期一会のものになる。
彼ら自身は、民族料理が観光の売りになることは知っていても、この味が特別なものとは
思っていないし、今の生活様式だからこそ生み出せるものだという自覚もないだろう。
生活が近代化すれば、名前と見た目が同じ料理を作ることは出来ても、味は今とは別物になる。
それは寂しいことだけれど、きっと誰にも止めることはできない。
少なくともこの日、この味に出会えてよかった。
そう思うことにした。
■今日の料理■
腊肉 la4rou4（ベーコン）
荷包蛋 he2bao1dan4（フライドエッグ）
青菜 qing1cai4（恐らく、小苦菜 xiao3ku3cai4）
苦蕎粑粑 ku3qiao2ba1ba・
乳餅 ru3bing3
蘸水 zhan4shui3
糟辣椒 zao1la4jiao1
辣腐乳 la4fu3ru3
撮影＠『尼維羅瑪憨』
住所：昆明市石林県圭山鎮大黒村241号
電話：139-8718-1795（店主携帯）
オマケで、文中に書くのを忘れた番外編。
↓クセがなく飲みやすい薬草茶。何の草かと聞いたら、答えは「野草」（笑）。右は、乾燥状態↓
↓トウモロコシ粉を混ぜたご飯。香りがいい！ ↓草を編んだ蝿よけカバー。欲しかった〜。
↓どちらか押して下さると、酒徒が小躍りします。コメントも大歓迎です。
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この記事へのコメント
1. Posted by ふじもと 2009年10月29日 20:45
腊肉は冬瓜豚（そのへん走り回ってる小さい黒いやつ）のが美味いです。脂肪が少なくて、肉がちょっとかたいから、お祭りや祝い事のときには肉の柔らかい豚小屋の大きな豚が使われて、冬瓜豚は使われません。
冬瓜豚はむしろ日常に食べる用になっていますが、しかし価格は冬瓜豚のほうが高いんです。だから腊肉みたいに少しでご飯が食べられるように加工されるから、この店のももしかしたら冬瓜豚の腊肉だったかもしれませんね。
冬瓜豚はむしろ日常に食べる用になっていますが、しかし価格は冬瓜豚のほうが高いんです。だから腊肉みたいに少しでご飯が食べられるように加工されるから、この店のももしかしたら冬瓜豚の腊肉だったかもしれませんね。
2. Posted by 酒徒 2009年10月30日 11:32
＞ふじもとさん
さすが（笑）。豚の品種にまで注目していなかったので確認しませんでしたが、そうだったのかもしれません。
冬瓜豚って可愛い名前ですね。体の形が冬瓜に似てずんぐりしているのでしょうか。そういえば、以前茶馬古道巡りでプーアル市の農村を散策していたとき、小さくて黒い豚をたくさん見かけた気がします。
さすが（笑）。豚の品種にまで注目していなかったので確認しませんでしたが、そうだったのかもしれません。
冬瓜豚って可愛い名前ですね。体の形が冬瓜に似てずんぐりしているのでしょうか。そういえば、以前茶馬古道巡りでプーアル市の農村を散策していたとき、小さくて黒い豚をたくさん見かけた気がします。
3. Posted by ふじもと 2009年10月31日 21:15
冬瓜豚は冬瓜サイズだからそう呼ぶのではないかと思います。もしかしたら雲南共通の呼び方じゃないかもしれないので、確認が必要ですが。
4. Posted by 酒徒 2009年11月01日 02:08
＞ふじもとさん
中国の食材は、地方によって呼び名が変わることが多いので、油断できませんよね。しかし、冬瓜と同じサイズですか。それはまた随分可愛いですね。
中国の食材は、地方によって呼び名が変わることが多いので、油断できませんよね。しかし、冬瓜と同じサイズですか。それはまた随分可愛いですね。