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社説

国民の声に聞く耳を 安倍改造内閣が発足 

 第二次安倍改造内閣がきのう発足した。国民から遊離した政治はもはや許されない。安倍政権の面々には、国民の声に耳を傾ける謙虚さを持ってほしい。

 安倍晋三首相が政権に復帰した二〇一二年十二月以来の態勢“刷新”ではあるが、麻生太郎副総理兼財務相、岸田文雄外相ら十八閣僚中、六閣僚が留任した。

 過去最多に並ぶ女性五人が入閣する「目玉人事」があるにせよ、首相や菅義偉官房長官が陣取る首相官邸が主導し、続投した重要閣僚が支えるという基本構図には変化がないだろう。

政策の実現こそ使命

 むしろ注目されたのは、自民党幹事長人事ではなかろうか。

 地方創生担当相に起用された石破茂氏は希望した幹事長続投が受け入れられず、代わりに谷垣禎一前法相が総裁経験者としては初めて幹事長に就いたからだ。

 来年の党総裁選に向けて再選を盤石にしたい首相と、幹事長にとどまって挑戦の芽を残しておきたい石破氏との確執も伝えられる。

 もっとも、そんな「内輪」の事情は国民には関わりない。政権の使命は、国民の不安を取り除き、暮らしを豊かにする政策を実現できるかどうか、だからだ。

 安倍氏が首相に返り咲いてからの一年八カ月余りを振り返るとどうか。国民に寄り添った政治の実現に努力してきたと胸を張って言い切れるのだろうか。

 自らの主張のみを正しいと思い込み、国民の中にある異論を十分にくみ取って、不安に思いをめぐらせたと言えるのだろうか。

 象徴的なものは、外国同士の戦争への参戦を可能にする「集団的自衛権の行使」問題である。

 首相は今年七月、政府が長年、違憲としてきた憲法解釈を一内閣の判断で変更して、行使を容認する閣議決定に踏み切った。

異論切り捨てる姿勢

 改造内閣では防衛相との兼務で安全保障法制担当相を創設し、集団的自衛権を実際に行使できるよう法整備を進めようとしている。

 世論調査では依然、行使容認に反対と答えた人が60%を超えている(八月の共同通信全国電話世論調査)にもかかわらずだ。

 先月には、集団的自衛権の行使に「納得していませんよ」と声を掛けた長崎の被爆者団体代表に、首相は「見解の相違です」と言って立ち去った、という。

 戦争への拒否感がより強いだろう被爆者の異議申し立てに耳を傾けようとせず、切り捨てる政治姿勢では、国民の政権に対する不信感は募るばかりではないのか。

 安倍政権が強引に進めてきた特定秘密保護法や原発再稼働も、世論調査では反対が賛成を上回っているが、政権側に見直す動きは見えない。そればかりか、異論封じが強まる気配すら感じる。

 安倍政権の政策に反対する国会周辺でのデモについて、石破氏はかつてテロ行為と同一視し、最近では、総務相に就いた高市早苗前政調会長が規制を強化する必要性を指摘したからだ。

 両氏の入閣が、憲法で保障された表現の自由を脅かす動きにつながらないか。監視の必要がある。

 安倍内閣への国民の期待が経済再生にあることに変わりはない。

 大胆な金融政策、機動的な財政政策など「三本の矢」政策が奏功したのか株価は上昇し、大企業を中心に業績は回復しつつある。

 しかし、国民が手にする物価上昇分を差し引いた実質賃金の上昇率は昨年七月から前年割れが続く。政府のインフレ誘導に実体経済が追いついていない。

 消費税が8%に増税された四月から六月期の個人消費は前期比5%減と過去最大の落ち込みだ。

 消費税の10%への引き上げが景気をさらに冷え込ませることはないのか。改造内閣では慎重に判断しなければならない。

 地方創生相をつくり、石破氏を起用したのも、疲弊する地方経済を立て直す狙いがあるのだろう。その意義は理解する。

 しかし、中央集権的な政治・経済システムを続ける限り、地域再生は望めまい。来年の統一地方選目当ての場当たり的政策でなく、財源、権限などを大胆に移譲して地域主権の確立を進めてほしい。

戦後70年、節目の政権

 改造内閣が続けば来年八月の戦後七十年を迎える。戦後五十年に当たり、過去の植民地支配と侵略を認めて謝罪する談話を出した社会党首相の村山富市内閣と同様、節目の政権となるだろう。

 安倍首相の歴史認識への反発もあり、中国、韓国は反日姿勢を強めているが、首脳会談が開けない今のような状況で来年八月を迎えていいわけがない。

 首相は「扉は開かれている」と言うだけでなく、関係改善に積極的に乗り出してほしい。閣僚も無用な言動を慎み、良好な環境づくりに努めるべきである。

 

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