社説:改造内閣発足 中韓と関係構築を急げ

毎日新聞 2014年09月04日 02時30分

 改造内閣発足にあたり求められるのは生じ始めたひずみの検証である。参院選で自民党が圧勝して以来、特定秘密保護法の成立、閣議決定による解釈改憲など国会の「1強」状態を背に強引な政権運営が目立つ。エネルギー政策もまるで福島第1原発事故以前に回帰するかのようだ。

 集団的自衛権行使を実際に可能とする法整備は公明党への配慮などから来年の通常国会に先送りになった。幹事長だった石破氏と見解の違いを抱えながら、いったい何のために解釈改憲を急いだのか。初入閣の江渡氏の力量も未知数だ。法整備の必要性が改めて問われよう。

 ◇人口減少に本格対応を

 外交で積み残された最大の懸案は領有権や歴史認識問題をめぐり冷え込んだままの中国、韓国両国との関係改善である。首相の外交・安全保障政策は対中けん制を基軸としてきた。とはいえ政権発足以来、中韓両国と個別の首脳会談すら行われないという状態は異常である。

 首相は日米安保体制の強化に加えロシア、インドとの関係を重視し、いわゆる「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」の展開にも取り組む。北朝鮮による拉致被害者らの安否再調査報告も重要な局面を迎える。近隣2国との関係が不正常なままで外交力は発揮できない。11月に北京で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議における日中、日韓首脳会談実現など、双方が対話再開と関係再構築の努力を尽くす時だ。

 経済、内政もアベノミクス路線で「3本目の矢」とされた成長戦略が行き詰まりつつある。首相が人口減少や東京一極集中の是正に意欲を示し始めたのは統一地方選対策の要素を差し引いても理解できる。地方の創意を生かせる体制作りが急務だ。

 一方で「50年後も人口1億人維持」という政府目標のハードルは極めて高い現実もわきまえねばならない。財政が危機的な状況で人口減少・超高齢化社会に対応できるような社会保障制度の構築を迫られる事情は変わらない。来年10月に消費税率を10%へ引き上げる政治日程が控える。首相は改造後の記者会見で年内に最終判断する考えを示した。軽減税率導入などの手だてを急ぐべきだ。

 与野党の一部には首相が早期の衆院解散をうかがっているのではないか、との観測もあるようだ。だが、民意を問う大義名分がある状況とは言えまい。改造内閣は着実な成果を追求すべきだ。野党もまた、秋の臨時国会での徹底論戦に足る体制を整えねばならない。

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