安倍晋三首相が「日本を取り戻す戦いの第2章」と位置付ける改造内閣が発足した。地方創生相や女性活躍相を新設するなど、重視する課題を切り出し、そこに全力投球する姿勢を明確にしたのが特徴だ。掲げた目標通りに政策を遂行できるか。新閣僚は細心の心構えで臨まねばならない。
自民党執行部の総入れ替えを含め、今回の人事では首相が政権基盤の安定に留意していることがうかがえる。派閥や参院からの推薦を考慮しない一方、影響力のあるベテランを取り込んだ。
中韓と関係改善にらむ
代表例が、総裁経験者のサプライズ起用で話題の谷垣禎一幹事長だ。無派閥とされるが、「有隣会」という支持グループを持つ。派閥の領袖である二階俊博総務会長ともども、首相と距離のある議員のなだめ役を担うことになる。
首相の最大のライバルと目される石破茂氏を幹事長から外すことを巡って自民党内がかなりごたついた印象を与えただけに、効果的な一手といえよう。
谷垣氏と二階氏は保守派ではなく、中国や韓国と良好な関係を築いてきた。2人の起用は、首相が中韓に関係改善に前向きなメッセージを送ったととらえることもできる。11月に北京でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議がある。久しぶりに中韓との首脳会談が開けるかは、改造内閣の最重要課題の一つである。
並行して日米同盟の強化も急務だ。防衛相と新設した安保法制相を兼ねる江渡聡徳氏は、集団的自衛権に関する憲法解釈の見直しを踏まえ、日米防衛協力の指針(ガイドライン)の改定を円滑に進めてほしい。
新体制は女性起用が目立つ。閣僚は2人から5人に増え、党政調会長には衆院当選3回の稲田朋美氏が就いた。上げ底人事との見方もあるが、政府は2020年までに社会の指導的地位に占める女性の割合を30%にする目標を掲げている。首相は少々強引といわれることは覚悟していよう。
改造内閣が評価されるかどうかは、この顔ぶれで何を目指すかにかかっている。要職に就いたのは首相と思想的に近い面々が多い。保守派からは「集団的自衛権の次はいよいよ憲法改正だ」との声も出ている。国民のいまのニーズの最大公約数はそこだろうか。
首相は8月に月刊誌に発表した論文で「経済成長こそが安倍政権の最優先課題」と宣言した。アベノミクスは一定の成果を上げているものの、全国津々浦々に波及しているとは言いがたい。来年の統一地方選挙対策といわれようが、日本経済の再生こそが安倍政権の歴史的使命であるとの決意をみせねばならない。
4~6月期の日本経済は年率6.8%のマイナス成長となった。4月の消費増税後の需要の反動減はそれなりに大きかった。焦点は足元の景気だ。首相は11月公表の7~9月期国内総生産(GDP)速報などを踏まえ、消費税率を来年10月に予定通り10%に引きあげるかどうかを判断する。
7月の景気指標は強弱が入り交じる。鉱工業生産の回復は緩やかで、自動車販売なども不振だ。一方で名目賃金は17年半ぶりの高い伸びとなった。物価上昇率を差し引いた実質ベースの賃金はマイナスだが、雇用・賃金がさらに改善していけば、先行きの個人消費を後押しするだろう。
岩盤規制に切り込め
改造内閣は2013年度補正予算と14年度予算に計上した公共事業を着実に執行し、景気下支えに万全を期してほしい。日銀も歩調を合わせ、金融緩和でデフレ脱却を後押しする必要がある。
外国から投資を呼び込むには法人減税も急務だ。日本の法人実効税率は35.64%(東京都の場合)と先進国で米国に次いで2番目に高い。課税対象を広げるなどして財源を捻出しつつ、来年度から数年で20%台に引き下げる道筋を早急に固めてもらいたい。
日本経済の最重要課題が、持続的な経済成長と財政再建の両立であることは変わらない。医療、年金、介護など社会保障費の膨張に歯止めをかけ、思い切って歳出抑制・削減に踏み出すときだ。
6月に決めた成長戦略は遅滞なく実行しなければならない。医療、農業、雇用における「岩盤規制」への切り込みを急ぎ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革も加速すべきだ。
原子力発電所の再稼働はなかなか進まず、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉もまだ出口が見えない。人事が終わったと、ほっとしている余裕はない。
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