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テニスコラム
「フルセットの試合は喜んでプレーしてます。第4、第5セットになると集中力が増す」と試合後に錦織圭は語った。
photograph by Hiromasa Mano
テニス特報

フルセットの勝率77%は歴代1位。
錦織圭、歴史に残る勝負強さの秘密。

秋山英宏 = 文

text by Hidehiro Akiyama

photograph by Hiromasa Mano

 スタニスラス・ワウリンカ(スイス)のフォアハンドがネットに掛かると、錦織は握り拳を作り、“どうだ”という顔で勝利の味を噛みしめた。

 午後3時過ぎの試合開始から、4時間15分。スタジアムの上に広がっていた爽やかな秋空は、とうに薄墨色になり、照明灯がコートを昼間と変わらぬ明るさに保っていた。

 錦織がまたも日本テニスの歴史を塗り替えた。全米で日本男子が4強に入るのは、1918年の熊谷一弥以来96年ぶりの快挙だ。

「最後はどうやって終わったか、覚えていないんです」

 試合直後のコート上でのインタビューで、錦織は苦笑した。

 世界ランク4位はさすがに手強かった。過去2度の対戦は、ともに錦織の完敗。名前をもじって「スタニマル」と呼ばれる猛獣のような相手と、最後までどちらに転ぶか分からない緊迫したラリーを5セット。合計獲得ポイントは「177対181」で相手が上回っていた。

 勝利のガッツポーズが控えめだったのは、「疲れていて、喜ぶ元気がなかったから」。コートを縦横に走り、ずっしりと重いワウリンカのボールにも打ち負けなかった錦織だが、最後は力を出し尽くし、気力だけでラケットを振っていた。

 錦織の父親、清志さんは「(相撲で言えば)徳俵の上でやっていた」と、愛息の奮闘を表現した。

1つ1つのラリーが、土俵際の攻防の連続だった。

 相手のパワーに押し込まれながらもギリギリ踏み止まる。耐えに耐え、それでも引かずに押し返す。今年の全豪オープン覇者であるワウリンカも容易に土俵を割らず、逆に押し戻してきた。確かに1本1本のラリーが、そして試合自体が、土俵際の攻防の連続だった。

 序盤の錦織は低調だった。ショットの当たりが悪く、第1セットを3-6で失う。ワウリンカの片手打ちバックハンドはコースが読めず、攻略の糸口も見つけられない。第2セットもリズムを作れず辛抱のゲームが続いたが、最後にワンチャンスを生かして1セットオールに持ち込んだ。

 ここで踏み止まれたことが大きかった。第3セットのタイブレークは試合全体の縮小版のような展開になる。主導権は両者の間をめまぐるしく行き交った。何度も窮地をくぐり抜け、9-7でタイブレークを制したのは錦織だった。

【次ページ】 体力は搾り取られ、頭も疲れ果てていた。

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