1億ドル報酬の驚異トレーダーの信念-シェール革命継続せず
9月4日(ブルームバーグ):業界の一部で「原油取引の神様」として知られるアンドルー・ホール氏は、シンプルな信念に基づいて成功を収めてきた。自分に同意しない者は皆、間違っているという信念だ。
過去30年の大半の期間、それは無敵の戦略だった。連勝中のポーカープレーヤーのように、ホール氏は取引で次々と大きな賭けに打って出て、勤務する企業に数十億ドルの利益をもたらした。原油相場の上昇と、2008年の急落を両方とも予見した数少ないトレーダーの1人だった。
ホール氏は功績を認められ、08年に9800万ドル(現在のレートで約103億円)の報酬を受け取った。当時、同氏は米シティグループ傘下の取引会社フィブロを運営していた。09年の報酬は1億ドルを超えた。
だが結局、ホール氏が09年の報酬をシティから受け取ることはなかった。シティが米政府から450億ドルの公的支援を受けたことから、同行への逆風が強まり、規制当局が報酬支払い阻止に動いたためだ。最近では、当時ほど高額の報酬が同氏に支払われることはない。ホール氏は過去3年のうち2年は損失を出している。ブルームバーグ・マーケッツ誌10月号が報じている。
ホール氏は原油相場の上昇が続くと見込んでいたが、予想外のエネルギー革命が待ち受けていた。それは米国をはじめとする各国で進んでいるシェール層からの原油生産だ。米国の原油生産は27年ぶりの高水準に達しており、昨年は米国のエネルギー需要の84%を賄った。ホール氏が予測していた上昇軌道とは程遠い動きを見せる原油相場は、11年以降、基本的に変化していない。
トレーディングの勘手にした富を現代美術コレクションを増やすために投じているホール氏(63)にとって、思いがけない相場展開となった。同氏が率いるヘッジファンド運営会社、米アステンベック・キャピタル・マネジメントの運用資産は、ブルームバーグが入手した同社の書簡によると、5月に34億ドルに落ち込んだ。13年1月時点では48億ドルだった。同社の運用成績は11年マイナス3.8%、12年プラス3.4%、13年マイナス8.3%。この推移を見ると、ホール氏がトレーディングの勘を失ったのではないかという見方さえ出ている。
元トレーダーで、石油市場に関するニュースレターを発行するカール・ラリー氏は「一時期フィブロのトレーダーらは世界の支配者だった。最善策は常に、どう適応するかを学ぶことだ。ホール氏の場合、今はそのために以前より長い時間がかかっているのかもしれない。あるいは、彼に好機が到来している可能性もある」と指摘する。
投資家向け書簡のコメントによれば、ホール氏は損失を出したことに動揺しておらず、原油相場が上昇するとの見通しも変えていない。同氏はこれらの書簡で定期的に、シェールブームが長期にわたり割安で潤沢なエネルギーを供給すると確信する見方について、冷笑するような見解を示している。
「不都合な障害」「何かを信じる際、事実は不都合な障害になる」。ホール氏は4月の書簡で、シェール革命によって原油相場が向こう5年間に1バレル当たり75ドルに下落するというあるアナリストの見方に反論し、こう述べた。
ホール氏は書簡で、シェールブームが多くのアナリストの予想よりもずっと早い時期に終了し、原油相場は5年足らずの間に最高150ドルに向かって着実に上昇するとの見通しを一貫して示している。
ホール氏の取引について詳しい現・元の従業員とアドバイザー20人余りが匿名を条件に答えたインタビューによれば、同氏はこれまでで最も多額の個人資金を投じ、最長で2019年と、かなり先に引き渡しとなる先物を購入している。
ホール氏の戦略は既に成功の兆しを示している。指標原油であるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)の19年12月限の価格は2月時点では76ドルだったが、7月には88ドルに値上がりした。
原題:Trader Who Scored $100 Million Payday Bets Shale Is Dud:Energy(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ヒューストン Bradley Olson bradleyolson@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Ken Wells kwells8@bloomberg.netJoel Weber
更新日時: 2014/09/04 07:30 JST