6時間目

内閣

 

1.内閣というところ

 国会とは基本的に法律をつくるところだという話は前回しましたが、国会は法律をつくるだけであって、その法律に従って、実際に政治を実行するのが内閣の仕事です。飛垣内の授業では「国会の仕事=法律を作る」「内閣の仕事=法律の内容を国民に命令する」と表現します。

 では、そんな内閣で働く人たちを紹介します。まず、内閣のリーダー内閣総理大臣(首相)です。日本国憲法では内閣総理大臣になれる人は国会議員であることと、文民であることという条件がついています。文民の反対言葉は軍人です。つまり、日本では自衛隊に所属している人は内閣総理大臣にはなれません。そして、内閣総理大臣は国会で話し合い、国会の多数決により指名され、その後天皇に任命されるというのは前回やったとおりです。

 内閣総理大臣の下では、各省庁のリーダーである国務大臣が働きます。この国務大臣は内閣総理大臣が自由に選び、自由に辞めさせることができます。ただ、条件として、国務大臣も文民でなければならないことと、過半数は国会議員の中から選ばないといけないことと、14名までしか選べないというのがあります。しかし、緊急の場合には17名まで増やしてもいいというルールもあるので、このルールができてから大臣の数はずっと17名です。だったら最初から17名以内って決めとけば受験生も混乱しなくてすんだのですが・・・。そして、総理大臣と国務大臣は毎週閣議という会議を開いて、政治の大事な方針を決めます。

 では、そんな大臣がリーダーを務める各省庁をまとめてみました。

内閣府 総理大臣、官房長官が所属し、内閣全体の式・監督を行う。
※いくつかの補助機関が設置
 ・経済諮問会議・・・予算案の編成に関わり、経済政策を討議する。
 ・男女共同参画会議・・・仕事・家事などの男女の共同参加を促進させる。


財務省 税金の徴収、国家予算の編成、金融機関に関する仕事
総務省 地方自治・消防などに関する仕事
外務省 外国との交流・外交問題に関する仕事
国土交通省 ダム・道路・鉄道などの建設などに関する仕事
経済産業省 商工業の発展に関する仕事
厚生労働省 医療・福祉・労働問題に関する仕事
法務省 法律や裁判に関する仕事
文部科学省 学校教育や研究活動に関する仕事
農林水産省 農業・林業・水産業に関する仕事
環境省 環境問題に関する仕事
防衛庁 自衛隊に関する仕事
国家公安委員会 全国の警察の最高機関

 上の表に示した省庁が、国の中で最も重要とされる112省庁です。20011月からこの形になりました。それまでは、121省庁だったのですが、省庁の数が減らされた流れは、またあとで説明したいと思います。そして、この表の中にある112省庁以外にも、いくつか内閣の機関が設置されているのですが、全部説明していたらきりがないので、ここではとりあげられません。ただ、内閣においては、行政委員会と呼ばれる機関が、ちょっと役割が特殊なので、これについて説明します。

 基本的に内閣の各省庁は、内閣総理大臣の指導のもと、お互いが協力し合って仕事に当たりますが、行政委員会とは、内閣に所属する機関でありながら、内閣総理大臣からの指導を受けず、独立して独自の判断で仕事を行える機関です。では、主な行政委員会をまとめたので見てください。

     国会公安委員会・・・全国の警察の最高機関。

     公正取引委員会・・・違法な方法で利益を独占する企業を取り締まる機関。

     中央労働委員会・・・労働者と経営者の対立問題を解決するための機関。

     公害等調整委員会・・・公害の被害者と加害者の意見を調整し、問題の解決を手助けする機関。

     人事院・・・公務員の採用や給料の管理、公務員の労働条件のチェックなどを行う機関。

 これらの機関がなぜ内閣から独立するかというと、一番の理由は中立を保つためです。例えば、国家公安委員会は全国にある警察のトップとして重要な決定を下しますが、警察のトップと内閣の人たちが仲良しこよしで結びついていたら、もし内閣の人たちが犯罪を犯したとしても、警察官は捜査や逮捕をしにくくなってしまいます。そのような理由から、行政委員会のような中立な立場の機関が必要となるわけです。

 さらに、行政委員会の特徴として、準立法的権限準司法的権限を持つというのもあります。政治機関を立法権(国会)、行政権(内閣)、司法権(裁判所)に分けると、行政委員会は行政権ということになりますが、行政委員会は行政権(内閣)の中でも、役割が特別なため、国会(立法権)のように簡単な法律をつくることができる権利である準立法的権限と、裁判所(司法権)のように簡単な裁判を行うことのできる権利である準司法的権限を認められています。これにより、例えば、公正取引委員会は汚い方法で売り上げを独占するような企業を取り締まる法律をつくることができるし、もし、そのような企業が出てきたら、裁判を開いてこらしめることもできます。

 

 

2.議院内閣制

 基本的に日本の政治は政治機関を立法権(国会)、行政権(内閣)、司法権(裁判所)に分けているので、モンテスキューの三権分立を採用しているといえます。というわけで、この三者と国民の関係を表にまとめて見ました。

 

 高校受験のときにまじめに公民科も勉強した人は、見たことがある表ではないかと思います。高校入試には頻出の表ですが、はっきり言って大学入試では基礎中の基礎にしかなりません。なぜなら、大学入試では、日本の政治はモンテスキューの三権分立を採用していることより、モンテスキューの三権分立に違反していることのほうが問題として問われやすいからです。7時間目までしっかり勉強してきた人はもう気づいたでしょうか。気づかなくてもここで思い出してください。そう、モンテスキューは三つの権力がお互い独立して、悪いことをしないようにチェックしあうことを主張しましたが、イギリスや日本は立法権と行政権が完全に独立せず、協力関係にあります。このような制度を議院内閣制といいました。というわけで、このことを踏まえて、飛垣内流に表を作り変えて見ました。

 

 皮肉も込められているような気もしますが、かなり現実的な表です。この表をそのまま出題する大学はありませんが、この表が理解できるようになれば、かなり政治分野のコツはつかめたということです。12時間目まで終わったらもう一度見直してみてください。

 では、日本における議院内閣制ですが、日本の国会と内閣は仲がよい証拠に、内閣のリーダーである内閣総理大臣は国会議員の中から、しかも国会での多数決で選ばれます。さらに、そんな国会からやってきた内閣総理大臣は、自分の部下である大臣の過半数を国会議員の中から選ばなければなりません。そしてさらに、日本国憲法66条を見てください。

66

@     内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。

A     内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。

B     内閣は、行政権の行使について、国会に対して連帯して責任を負ふ。

 @とAは.内閣というところで、すでにやったので各自で復習です。問題はBです。内閣は国会に対して連帯して責任を負わなければなりません。つまり、これは、いつでも内閣と国会は信頼関係になければならないので、国会(衆議院)が内閣に不信感を持ち、内閣不信任決議を行ったら内閣は総辞職しないといけないし、内閣が国会に不信感を持ったら衆議院を解散するなどして、とにかく両方が信頼できる関係にないと政治を行ってはいけないということです。それほど、日本の国会と内閣は密接な関係にあります。まあ、密接な関係にありすぎて、高校生には国会と内閣の違いがわかりにくいという欠点もありますが。

最後に、そんな内閣総辞職衆議院の解散を表にまとめます。

 

 まず、一番左の内閣が総辞職する場合の3つのパターンを覚えてください。@は最近は小渕首相が体調不良から辞職したため、内閣が総辞職し、森内閣が誕生した流れがありました。Aのパターンは、一番新しいものでは1993年に宮沢喜一内閣が内閣不信任決議を決議され、その結果衆議院を解散したことがありました。内閣不信任決議を決議されると、衆議院を解散せずに、内閣は総辞職してもいいのですが、だいたいは衆議院を解散して、国民に選挙という形で意見を聞いてみるというのをやります。そして、最近の内閣総辞職のパターンは全部Bです。これは、内閣はいつでも好きなときに「衆議院を解散」することができます。というわけで、小泉内閣のときだけでも、2003年と2005年の2回もこのBのパターンの総理大臣のわがままともとれる解散選挙が行われました。あと、余裕がある人は表の中の数字もぜひ覚えてください。

 

3.行政権の拡大

 日本国憲法41条によると、日本の政治の最高機関は国会であり、国会が日本の政治の中心とならなけらばならないということが書いてありました。にもかかわらず、実際に日本の政治を動かしているのは内閣のしかも官僚と呼ばれる人たちです。

 では、官僚とは何者でしょうか。内閣の各省庁では内閣総理大臣が指名した国務大臣がトップを務めますが、各省庁で大臣の命令を受けて、実際の国の仕事を行うのが、国家公務員の人たちです。国家公務員になろうと思ったら、国会公務員試験に合格しなければなりませんが、国家公務員試験にもT種(大学卒業以上)、U種(短大卒業以上)、V種(高校卒業以上)3種類があり、この中でも一番難しい国家公務員試験T種に合格して、省庁に採用され、国の政策決定に重要な影響を与えるエリートたちのことを官僚といいます。では、官僚になる人はどんな人なのか、下の表を見てください。

2005年度 国家公務員試験T種
大学別合格者数
順位 大学名 合格者数
1 東京大学 454
2 京都大学 191
3 早稲田大学 128
4 北海道大学 74
5 慶應義塾大学 73
6 東北大学 59
7 九州大学 54
8 名古屋大学 47
9 大阪大学 46
10 東京工業大学 45
合格者合計 1756

 官僚というのは、まさに日本の学歴社会の象徴であり、官僚のほとんどの人たちが有名大学卒業の秀才たちです。憲法第41条で国会を国の政治のトップに置く理由は、国会で働く国会議員は国民による選挙で選ばれた存在であるということが大きな理由です。しかし、内閣で働く官僚の人たちは、国民が選んだわけではなく、勉強をして試験に合格した人たちがなります。勉強ができるというのは、一種の優れた能力ですが、勉強ができる人が全員、人間的にも優れているとは限りません。つまり、日本の政治は、国民が頼んだわけでもないのに、勉強ができるだけで、官僚になった人たちが勝手にやっているということもできるわけです。もちろん、官僚の中にもいい人はいると思いますが・・・。

 では、そんな官僚がどのような方法で政治を行っているかを見てみましょう。まず、国会で法律がつくられる話はもうしましたが、国会では1年間に100以上の法律がつくられることもあり、国会では大まかな内容の法律をつくるだけで、詳しい内容は内閣の人たちにお願いして付け加えてもらうようにしています。このように、内閣によって法律に詳細部分を付け加えられるためにつくられた法律のことを政令といいます。例えば下を見てください。

生活保護(国会が制定した法律)・・・貧しくて困っている人に国が、お金をあげることを決定!

生活保護法施行令(内閣が制定した政令)・・・どこの機関でどのような仕組みでお金をあげるのかを決定。

生活保護法施行規則(内閣が制定した政令)・・・どのような基準以下の人に、何円あげるのかを決定。(1番重要?)

 これを見てもらってわかるように、法律というのは結構あとから決めた細かい部分のほうが、国民にとって重要であることもあります。だから、けっこう、このように、法律を補うために内閣の官僚が作ったルールが国民の生活に大きく影響したりします。

 次に、国会でつくる法律の法案を作成して提出できるのは国会議員内閣であるということは、前回の授業でやりました。しかし、今までに作られた法律のうち、約86%が内閣が提出した法案からつくられたもので、国会議員が提出した法案からつくられた法律はたった14にしか過ぎません。これは、国会議員の提出した法案が少ない(全体の34)に加え、国会議員の提出した法案はボツになる可能性も高いので、こういう数字になっています。ちなみに内閣の法案のうちボツになったのはたった12ですが、国会議員の提出した法案はなんと71%がボツになっています。ちょっと、国会議員がかわいそうになってきます。冷静に考えると、国会が法律をつくるところのはずでしたが、国会でつくられた法律のほとんどが内閣の提出した法案から作られたものであるということは、実質上、内閣が法律をつくっていることと同じことになります。つまり、憲法に書いてある理想と、実際に行われていることが違ってきているわけです。

 次に、内閣は国民に対して許認可を与えるという権限を持っています。特に、新しくお店を開いたり、会社を作ったりするにはいちいち内閣に許可をもらうことが必要となります。そして、この許可を与える権限を官僚などの公務員が持っており、官僚たちはひどいときには気分によって許認可を与えたり、与えなかったりするため、ときには官僚にワイロを送って許認可をもらうなんて事もあります。こんな許認可を与えることのできる権力を持っているので、ますます官僚はえらそうになります。

 最後に、官僚の一番の問題とされるのが天下りの問題です。さっき説明したように、官僚は会社に許認可を与える権限を持っていることから、特定の企業と仲良くなることがあります。しかも、官僚は国会議員とも仲がいいので、国会議員にお願いして、特定の企業に有利な法律を制定してもらうこともできます。そんな仲良くなった一般企業に官僚が公務員を退職後、再就職させてもらうことを天下りといいます。しかも、天下りした官僚は副社長クラスの重要ポストを用意してもらうことも多く、さらに天下りした会社をすぐ辞めて、高額の退職金を手に入れる人もいるらしいです。そして、企業にとっても特定の省庁のOBを自分の会社に迎え入れるということは、その省庁との結びつきを強めることができる点で、メリットがあります。

 ただ、この天下りがあまりにも問題となったため、最近は天下りは禁止されてしまいました。しかし、禁止とはいっても「在職中に関係の深かった企業への退職後2年以内の再就職」を禁止しているだけなので、2年間待って、しっかり天下っている官僚も多いみたいです

 

4.行政改革

 日本の政治が、国民が選んだ国会議員ではなく、国民の知らないところで試験で選ばれた官僚によって行われている問題を解説しましたが、このような問題を改善しようとする動きが国会の中にも見られます。この一連の動きを行政改革といいます。行政改革とはその名のとおり行政権(内閣)の改革のことですが、わかりやすくいうと、内閣をお金のかからないわかりやすいものに作り変え、権力を弱くし、官僚が悪いことをできないようにする改革のことです。では、行政改革の動きについて説明していきます。

 まず、1980年代に三公社の民営化が行われました。ここでいう三公社とは国鉄、電電公社、専売公社のことです。この三つの企業は国営企業で、国が経営する企業だったのですが、どの企業も赤字を抱えたり、営業成績が思わしくなかったことから、中曽根内閣のときに、国が経営するのをやめ、一般企業にしてしまうことにしました。その結果国鉄はJR7社、電電公社はNTT、専売公社はJTとして、民営化されてしまいました。

 1993年には行政手続法が制定されます。これは、さっき説明した許認可の与え方が、あまりにも不明確で、官僚の主観が入っている可能性が高かったので、官僚による許認可や行政指導に統一したルールや基準を定めるようにした法律です。これにより、官僚は前よりも、自由に許認可を与えにくくなりました。

 そして、1999年は行政改革にとって大事な年です。まずは、この頃、官僚たちが接待を受けたり、ワイロをもらったりする事件が相次いだため、国家公務員倫理法が制定されました。これは「官僚は、ワイロや接待など、国民の不信を招くようなことすんなよ!」という法律です。さらにこの年に情報公開法が制定されました。これにより国民は、税金が何に使われているかといった、内閣の情報を1300円で知ることができるようになりました。

そして、この年から内閣に関連して、国会でもいくつかの改革が行われました。まずは政府委員の廃止です。政府委員とは大臣が国会に連れて行くことのできる、その省庁所属の官僚のことで、国会では、大臣の変わりにこの政府委員が発言したり、質問に答えたりという場面がよく見られました。そのため、国会では省庁のリーダーである大臣よりも部下のこの政府委員のほうが目立ってしまっていました。これは、大臣よりも官僚のほうが、その省庁の仕事や問題について詳しく、実際には官僚がその省庁のリーダー的存在であることを意味しました。さらに、国会では政府委員がしっかり答弁をしてくれるので、大臣はその省庁について詳しくなくても務めることができ、勉強しなくても大臣という仕事を務めることができるという問題点もありました。それで、1999年よりこの政府委員は廃止されました。おかげで大臣という仕事もバカには務まらなくなりました。

そして、政務次官も廃止されます。それまでは、省庁のトップである大臣のあとのナンバー2が、2人いました。その2人とは、国会議員から派遣される政務次官と、官僚のトップである事務次官です。とりあえず、政務次官と事務次官が協力し合いながら大臣を支えるというのが、この体制の目的でしたが、実際には官僚の中から出世を繰り返して登りつめた事務次官のほうが、その省庁の知識は詳しく、しかも部下の扱いも慣れていたため、結局活躍するのは事務次官のほうで、政務次官は、はっきり言って、いるのかいないのかわからないような存在でした。そこで、1999年からはこの政務次官という役職を廃止し、代わりに副大臣という役職を設けました。これにより今までは省庁には政務次官と事務次官という2人のナンバー2がいたのに、トップが大臣、ナンバー2副大臣、ナンバー3が事務次官ということになり、国会の存在感を強め、事務次官の暴走を防ぐようにしました。

 

さらに、この年には10年間で国家公務員の数を25%削減することが発表されます。公務員の人件費を少なくすることにより、税金の無駄遣いを減らそうということです。

その流れを受けて、2001年には省庁再編が行われます。これは、無駄な省庁を統廃合することにより、省庁の数を減らし、公務員の数も削減していこうというものです。それまで121省庁あった、国の重要省庁が112省庁になった話は既にしましたが、ポイントをいくつか付け加えます。まず、中央省庁のトップに立つのが内閣府です。この内閣府の中には、いくつか重要な下部機関が作られました。注目は経済諮問会議です。それまでは、内閣のおいて、予算案は大蔵省(現在の財務省)の主計局の官僚が作っていたため、大蔵省以外の省庁の官僚が、自分たちのところに予算を回してもらうために、この主計局の官僚を接待しまくるといういわゆる官官接待(官僚が官僚を接待)が行われていて、これが大きな問題となりました。とくに、大蔵省の官僚が、他の省庁の官僚に税金でエッチなお店に連れて行ってもらっていることもわかり、ワイドショーでも話題になりました。そこで、そんな官僚主導で国家予算が決められていたことを反省して、予算案の作成を総理大臣や大臣たち主導で話し合う場として経済諮問会議がつくられたわけです。

そして、そんな大蔵省ですが、そんな不祥事もあったため、ある程度の仕事を経済諮問会議や金融庁に譲ったあと、名前を財務省に変えました。ただ、それでも財務省は予算や金融機関にかかわる重要な省庁なので、官僚の中では財務省の事務次官になることが最高のエリートだとされています。

そのほかに重要なのは、環境問題を扱う環境庁が環境省に格上げされたことや、郵便局を管轄する郵政省が廃止され、郵政事業庁が新設されたあと、郵政事業庁は日本郵政公社となり、少しずつ民営化に向けて進んでいることです。そのほかの省庁は、どういう仕事をしているのかを1.内閣というところでやった表を使って確認しておいてください。

 そして、ずっと主張されてきているのはオンブズマン制度の導入オンブズマン制度とは、民間人から採用されたオンブズマン(行政監察官)という、言うなれば正義の味方が、国民の要求により、行政機関を調査し、調査の内容を国民に報告することにより、官僚の悪事を暴いて、官僚が悪いことをできなくするという制度です。この制度は1809年にスウェーデンで始まり、スウェーデンではこのオンブズマン制度の伝統から、税金の使い道がしっかりしているという特徴があります。だから、この国は福祉政策や環境政策も充実しています。これを見習って、日本でも1990年に神奈川県の川崎市が市のレベルでオンブズマン制度を採用し、地方ではオンブズマン制度は広まっていっているのですが、残念ながら国のレベルではまだこのオンブズマン制度は採用されていません。政府はよほど、調査されるのが嫌みたいです。何をそんなに隠しているのでしょうか?

 

5.最近の行政改革

 最後に、最近の行政改革の動きをいくつか説明しておきます。まず、小泉首相の特殊法人改革によって、国立大学が独立行政法人となり日本道路公団が民営化されました。特殊法人とは国民生活のサポート、公益目的の達成のために国が経営する企業のことで、主なものに国立大学、日本道路公団(高速道路の建設・運営)、日本育英会(奨学金を貸す)、住宅金融公庫(住宅購入の資金を貸す)などがあります。しかし、4.行政改革で触れた国鉄、電電公社、専売公社のように、特殊法人も赤字を抱えてしまったため、小泉首相はこれらの改革に乗り出しました。

 その結果、まず、国立大学の独立行政法人化2004年からスタートしました。独立行政法人とは一応、国の機関なんですが、一部に各自の独自性を認めるという、国営企業と民間企業の中間みたいな中途半端な存在です。というわけで、国立大学は一応「国立」なんですが、独自に教授を雇うことができたり、生徒募集のために独自の特色を出したりと、それぞれの大学の特色を出した営業活動が、各自に認められるようになりました。ただし、人気がなくなり、入学者が減少するようになると廃学になってしまう可能性も出てきました。国立大学も生き残りの時代に突入したわけです。

 さらに2004年には道路四公団と呼ばれる日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団の民営化も決定しました。これらの特殊法人は日本全国に有料の高速道路を普及していきましたが、最近は政治家による地元サービスや、政治家に組織票を提供する建設会社に仕事を与えることを目的として、利用の少ないいわゆる無駄な高速道路がたくさん作られるようになりました。たしかに、本州と四国の間に3本も橋は必要だったのかと疑問に思うし、北海道には渋滞もない一般道と平行して、誰も利用しない高速道路が走っています。しかも瀬戸大橋などに代表されるように、高速道路は安全確保のためにメンテナンスや補修工事が頻繁に行われるため、道路の維持のため多額のお金が遣われ、それらは通行料だけでは到底足りず、国民の税金から穴埋めされていきました。この問題を受けて、小泉内閣はこれらの機関の民営化を決めましたが、現在建設中の高速道路は建設を続けることや、この民営化会社の3分の1の株は国が持つため、結局は今の状態と変わらないのではないかという批判も受けています。

 最後に、今話題の郵政民営化について説明します。全国に2万軒以上ある郵便局も現在赤字状態です。にもかかわらず、国の機関であるという安心感から、お金を郵便局に預け、郵便局の簡易保険を利用する人も多く、郵便物・小包も郵便局というふうに、郵便局はみんなから利用されます。しかし、郵便局に人気が集中すればするだけ、民間銀行にお金を預ける人が減り、民間の保険会社に加入する人も減り、クロネコヤマトや日通や佐川急便などの郵便サービスを利用する人も減ってしまいます。そこで、小泉内閣は郵便局を民営化することによって、国から切り離し、営業努力をさせて赤字を取り戻させ、一般企業と競争させることにより、これらの業界全体を活性化させようとしています。ただ、郵便局を民営化すると、もうけの少ない田舎の郵便局が閉鎖される可能性が高いです。田舎には民間銀行も民間保険会社もないため、過疎の進んだ田舎はますます暮らしにくくなることも予想されます。果たして、どういう結果になるのか、国会の動きも注目しましょう。


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