リモート・ユーザテストを紹介すると、6~7割ぐらいの確率で「ヒートマップツールとは何が違うの?」「クリックテールと競合していますね」という反応が返ってきます。
実はヒートマップとユーザテストは本質的に全く異なるのですが、おそらくユーザテスト=アイトラッキング=ヒートマップという連想が、このような印象に繋がっているのではと推察します。
この2つの手法は全く異なるものですので、「違い」と「理想的な併用方法」をご説明します。
ヒートマップツールで分かること
まず前提として、ヒートマップツールで何が分かるか確認しましょう。
以下は、ヒートマップツールの代表例である「クリックテール」の提供機能の一覧(http://www.ctale.jp/product_tour.php)です。
- ヒートマップ
- マウスクリック
- マウスの録画(マウストラッキング)
- リアルタイムモニター
- フォーム解析
- コンバージョン・ファネル
4~6はほぼ同じ機能がGoogleアナリティクスにもあるため、ヒートマップツール独自の特長は1~3と言えます。
ヒートマップやマウスクリックで「ページ内の閲覧箇所」が定量的に分かる
ヒートマップやマウスクリックにより、ページ内のどの箇所にマウスが集まっているか(≒見られているか)が分かります。
これにより「本当は見てほしいのに、見られていない要素がある」「予想外に見られている要素がある」という気付きが得られます。
マウストラッキングで「ユーザがページをどう動いているか」が一人一人分かる
マウストラッキングは、ユーザがサイト内に訪問した後の動き(ページ遷移・マウスの動き)を全て取得し、再生できる面白い機能です。
古くは「Userfly」という類似サービスがあり(2013年に終了した模様)、またオープンソースで「simple mouse tracking」等の類似サービスもありますが、結果的にクリックテールが最も知名度の高いツールとして残っています。
「実際の動線」を一人一人分かるのは、一見すごそうです。しかし、実際に使うと分かりますが、ユーザテストでいうところの「思考発話(考えていることのつぶやき)」がない状態で、ページ遷移とマウスの動きだけを見ても、正直何をしているのかピンとこないのです。
「あ、このタイミングで会社概要は見るんだ」等の気付きがないわけではありませんが、改善に繋がる気づきは得にくいのが正直なところです。
実際に、これらのツールを導入している人に、マウストラッキング機能についてその使い勝手や活用の意義について聞いても「あんま使いこなせていない」という回答しか返ってこないので、この機能はいわゆる「営業受け」のためのものと個人的には理解しています。
ということで、ヒートマップツール(クリックテール)の価値は、「ページ内の閲覧箇所」が定量的に分かること、そして「見てほしいのに見られない要素」「予想外に見られている要素」について気付きが得られる点にあると言えます。
ヒートマップツールで分からないこと
では、ヒートマップツールでは分からないことは何でしょうか?
「なぜGoogleアナリティクスを使っても、改善に繋がらないのか?」で指摘した「ユーザ心理データが含まれない」というのはアクセス解析と同様ですが、もう少し踏み込んで説明します。
1. 「現ページに存在しない要素の要否」は分からない
ヒートマップツールは、あくまでも「ページ内に存在する要素が見られているかどうか」を把握するものです。当たり前ですが、「今のページ内に存在しない要素」に関する情報は一切得られません。
翻って、ユーザテストで最も多い発見は「情報が足りない(もっと知りたい、疑問が解消できない)」というものです。
例えば、ある女性向け化粧品のサイトでユーザテストを行うと、
- この化粧品は何日ぐらい使えるの?
- この化粧品の成分の効能は?
- この化粧品がどんな人だと相性が悪いの?
- モデルになってる芸能人は、本当にこの化粧品を愛用しているの?広告だけでは?
など、次々と疑問・不安を掘り出すことができます。こうした疑問・不安を発見し、コンテンツの追加・補足を行うことで大きな成果に繋げる、というのがユーザテストの勝ちパターンです。
このような「情報がそもそも不足している」という発見は、ヒートマップツールではできません。
2. 「そのページ要素が良いのか悪いのか」は分からない
- ヒートマップツールで「この要素が見られている」ことが分かったとします。しかし「なぜこの要素が見られているか」「その要素を見ることにより、購入に繋がるのか」ということまで知ることはできません。
ある情報を見ている時のユーザの心理は、
- ただ見ているだけ(目立っているだけ)
- よく分からないので長く見ている
- とても参考になるので長く見ている
- 参考になるでの長く見ているが、読み込んだ結果ネガティブに
など様々なバリエーションがありえます。
ユーザテストを行うと、思考発話やヒアリングで、ここが簡単に深堀りできます。「見た」ことと「その結果、この心理になった」ということを踏まえて、改善策を考えられることがユーザテストのメリットです。
ヒートマップツールを用いた調査の鉄板パターンは「予想外に見られている要素があれば上部に持ってくる」ですが、それが本当に妥当な施策といえるかどうかは、上記の心理を勘案しあいと判断できません。場合によっては「この要素は消すべき」という判断もすべきなのです。
上記、少しネガティブな観点からの整理になりましたが、
- 「現ページに存在しない要素の要否」は分からない
- 「そのページ要素が良いのか悪いのか」は分からない
という2点がヒートマップツールの弱点と言えます。
ユーザテストの強みと弱点
ユーザテストの価値は、まさにこの弱点を補うもので、
- 「現ページに存在しない要素の要否」が分かる
- 「そのページ要素が良いのか悪いのか」が分かる
という点にあります。
しかし、あくまで「テスト」という仮想環境での利用行動であり、サンプル数も少ないので、
- ユーザテストでの行動が、本当に実際の行動なのかは分からない
- 実際の行動だったとして、それがどれぐらい一般的なパターンか分からない
という弱点はあります。
この弱点は、反対にヒートマップツールが強みとするところであり、ユーザテストとヒートマップツールも相互補完的で相性が良いのです。
アクセス解析、ヒートマップ、ユーザテストの整理
アクセス解析も含めた、3ツールの位置づけを整理すると、このような形になります。アクセス解析にもページ単位でのクリックマップがありますし、ヒートマップにもコンバージョンファネル等のページ単位以外の機能もあるため、両者の機能には多分に重複があります。
この図からも、「ユーザテストとヒートマップは競合しているよね」という問いに対して「ヒートマップは、どちらかというとアクセス解析の仲間であり、ユーザテストは全く別。むしろ最高のパートナーです」という回答が妥当であることがお分かり頂けるかと思います。
ユーザテストとヒートマップは併用しよう
ユーザテストとヒートマップの使い分けですが、ヒートマップの本来のパワーは「あるページ内に要素が過不足なく盛り込まれている」状態で「要素の配置・見せ方の妥当性」を確認する場合に遺憾なく発揮されます。
実際の改善フローでは、まずユーザテストで「要素の追加・削除」「内容の調整」を行った上で、ヒートマップを使い「配置の調整」を行うという形がベストと言えます。
この改善の流れは非常に効果的であると私は確信していますが、現在の実際の現場では「要素の追加・削除」や「内容の調整」は、ユーザテストを行わずにクライアントヒアリングや社内ディスカッションで決められてしまうことが残念ながら一般的です。
確かに、クライアントヒアリングで一流営業マンや経営者の知見を獲得できれば、それなりに高い確度での草稿を作成することは可能です。しかし、やはりクライアントの見解は「思い入れ」「思い込み」が多分に入っており、そこだけに頼っても不十分なケースが多いことは、ビービット時代の経験により痛感しています。
最適な改善施策を打つためには、クライアントヒアリング等の「ビジネス視点」だけでなく、「ユーザ視点」でのインプットが不可欠です。
ヒートマップツールをさらに有効活用したい企業様は、ユーザテストを併用することでその真価を遺憾なく発揮することができます。ぜひお気軽にご相談ください!