【CEDEC2014】人気アナログゲーム「人狼」の解析で人工知能を進化させる「人狼知能プロジェクト」!人工知能と「人狼」が遊べる日が来るかも!?

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2014年09月03日

将棋のように「人狼」を人工知能にプレイさせられる日も来る!?

 「パシフィコ横浜」で開催中の開発者向けセッション「CEDEC 2014」。開催2日目の2014年9月3日(水)に、「将棋の次は人狼か?」と題されたセッションが実施されました。

 このセッションでは、公立はこだて未来大学の研究者・松原仁氏がまとめ役となり、広島市立大学大学院助教の稲葉通将氏、筑波大学の研究者・大澤博隆氏といった人工知能の専門家が登壇。あわせて、『タイムトラベラー』『極限脱出 9時間9人9の扉』などをプロデュースし、「ゲームクリエイター人狼会」の主宰でもあるイシイジロウ氏も出席し、それぞれの研究や活動の報告を行ないました。

【CEDEC2014】人気アナログゲーム「人狼」の解析で人工知能を進化させる「人狼知能プロジェクト」!人工知能と「人狼」が遊べる日が来るかも!? ▲松原仁氏
【CEDEC2014】人気アナログゲーム「人狼」の解析で人工知能を進化させる「人狼知能プロジェクト」!人工知能と「人狼」が遊べる日が来るかも!? ▲(右から)稲葉通将氏、大澤博隆氏、イシイジロウ氏

人工知能を進化させる人狼の解析

 松原氏によると、ゲームは人工知能研究の例題として、ルールが明快、強い人がいる(=目標となり学習素材としやすい)などの点からふさわしいとのこと。これまでもチェッカーや五目並べなどが例題となってきましたが、色々なゲームにおいて人工知能が人間の実力を超えてきており、セッション名にもある将棋や囲碁などでもそれは時間の問題だそうです。
 そこでさらに人工知能を進化させるため、面白く、難しいゲームとして、心理戦をメインとした海外生まれのアナログゲーム「人狼」を使った研究が進んでいるとのことです。

進化が進む人狼知能、すでに対戦実績や学習機能などもあり

 稲葉氏は、自身らが進めている人狼知能プロジェクトの概要を説明。同プロジェクトは「人間と自然なコミュニケーションをしながら、人狼をプレイできる人工知能を実現する」という目的を持ったチャレンジで、参加メンバーは7人。
 人狼には情報が完全には明かされない「不完全情報ゲーム」で、相手に情報を与えて説得したり協調させたりして信頼を得る、もしくは「自分がこう思っていると相手が思っているだろう」などの多段階の思考が求められるといったゲーム性があります。
 こういった点が、ゲームに関する情報がオープンな、将棋などの「完全情報ゲーム」に比べて、人工知能を進化させるための研究対象として相応しいと思われます。

 人狼には大きく分けて、カード型人狼(対面での人狼)とオンライン型人狼がありますが、稲葉氏らが研究対象にしているのは言語ゲームである後者のオンライン上で行なわれている人狼。
 この人狼を人工知能で実現するために数多くある課題のうち、彼らは現在、対話プロトコル設計と、戦略の構築、エージェント同士を競わせるプラットフォームの開発に取り組んでいます。

 まず人狼プロトコルの開発は、自然言語の扱いは難しいため、会話をモデル化した以下のような言語を設計しました。

 次に人狼知能が対戦するプラットフォームは、すでにプロジェクトページで公開されています。現在は人狼知能同士だけの対戦が可能ですが、将来的には対人戦も実現するという目標があるのだとか。

 そして人狼知能は対戦を通じてしっかりと学習するとのこと。たとえば「生き残り人数が5人の時、襲撃における最適戦略は誰も襲わない」という人狼の上級者に知られる戦略も発見し、勝率が上がったとのことです。

人狼の名勝負もコンピュータによる言語に

 続いて登壇したのは、ヒューマンエージェントインタラクションの研究者にして、10年来の人狼プレイヤーであるという大澤氏。人狼知能プロジェクトでプロトコルの作成を担当する氏は、人狼の思考の記述として使っているBDI(Believe-Desire-Intention)論理を紹介しました。
 これは真偽(TRUE/FALSE)だけでなく、相手の思念や欲求、意図なども記述できる論理で、サンプルとして過去の名勝負のログがどのように表現されるかも説明されています

 人狼の熱心なプレイヤーであるイシイジロウ氏は、先日行なわれた、ゲームクリエイターと役者を集めた人狼の試合を紹介。こちらはニコニコ生放送での中継で、10万人の視聴者を集めたほど注目を浴びたそうです。

 イシイ氏も大澤氏と同じく、10年来のプレイヤーだったそうですが、「早く死んだプレイヤーは楽しくない」(イシイ氏)などゲームとして不完全な点もあり、一時期飽きていたとのこと。
 しかし人狼をアドリブの芝居形式でプレイする「人狼TLPT」と出会い、その面白さ、そして往時に比べて進化している戦略に刺激を受けて、昨年ゲームクリエイター人狼会を結成。今も著名なゲームクリエイターが月に2、3回集まって、プレイをしているそうです。

 ゲームクリエイターである氏は、対面人狼の面白さは、単純な勝ち負けだけでなくいかに負けるかなど、「ゲームがいかに面白くなるか」をプレイヤーが考える点にあると分析。こうした多層的なレイヤーに分かれた思考を楽しませることで、「ゲーム以上のエンターテイメントになる」と思い、さらに「そうした点まで含めて、人狼知能が将来的にできれば面白そう」とコメントしていました。

人間が人狼知能に負ける未来も、そう遠くない……?

 その後行なわれたパネルディスカッションで盛り上がったのが、人狼知能は何年後に人間に勝てるかという話題。イシイ氏は「今日の話を聞いて、30年くらいで人間は負けるんじゃないか」と感じたようですが、研究中のふたりは「あくまでネットワークでの対戦」と断ったうえで「10年か15年くらいでは」(稲葉氏)、「制限された条件下では、5年くらいである程度のクオリティまでいくのかもしれません。ただこれはゴールではなくスタートで、そうした人工知能が出てきた時に人間が対抗するというのが次のスタートかな、と」(大澤氏)と、それぞれの所感を語っていました。

 最後にそれぞれが今後の展望などについてのコメントを紹介します。

 「自分はひとりでも人狼を楽しめるというのが夢であり、ゴールだと思っています」(大澤氏)

 「上手くコンピュータに騙されたり、人狼知能にあっと驚かされたりしたいです」(稲葉氏)

 「人狼は解析が難しいゲームですが、こうした研究によって解析が進むのが楽しみ。個人的にはAIが考えた戦略ノウハウを最初にもらって、無双したいです(笑)」(イシイ氏)

 「人狼は勝敗はあるけど、“魅せる”というのも重要な要素。人狼知能も人間に勝つというよりは、人間を楽しませるものが作ることができれば、このプロジェクトは成功だと思う」(松原氏)

 

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