特許庁は企業の従業員が発明した特許について、条件付きで企業に帰属させる方向で検討に入った。いまは発明した従業員が特許を持つが、企業の設備や同僚の協力なしに発明するのは難しいためだ。ただ従業員に報酬を支払う新ルールを整備し、企業が発明者に報いることを条件とする。
特許庁が3日に開いた有識者会議では、経団連の和田映一氏ら産業界の委員が「法律で発明者に報奨することを定めるのは、企業と従業員の双方に有意義」と表明した。
これまで経団連は「発明の奨励に法的な介入はなじまず、会社側が自由に設定すべきだ」と主張してきた。発明の報酬は各企業が決めればいいとの考えだったが、産業界は発明者への報酬について法規定する考え方を容認する姿勢に転じた。
新ルールは、発明者に報いる仕組みを各企業が整えるよう法律で義務付ける方向だ。早ければ秋の臨時国会に特許法の改正案を提出する方針だ。
いまの特許法だと発明の取り決めがなくても構わないが、その場合は報酬額をめぐって訴訟になる可能性がある。2001年から青色発光ダイオードの発明で争った中村修二氏のケースでは、一審が200億円の支払いを企業に命じ、最後は8億円で落ち着いた。
特許庁が13年に実施したアンケートでは、発明に対する報酬などの取り決めがある中小企業は76%にとどまる。事前に報酬のルールを定めておけば、企業にとってリスク低下につながる。
今後は報酬額をどう定めるかが焦点になる。従業員が報酬を求める権利をなくして企業が特許を持つ制度にすると、「何らかの損害賠償請求がおきる可能性もある」(京大の山本敬三教授)。従業員も納得する報酬の算定ルールを特許庁が指針などで示せば、訴訟を避ける効果がある。
一定の基準を満たす企業だけが特許を持つよう規制する案もあるが、すべての企業の規則を政府が調べるのは現実的ではないとの意見がある。
中村修二、特許、山本敬三