業界動向
Access Accepted第356回:「Diablo III」のゲームディレクターが投稿した一通の謝罪文
プレイヤーとゲームメーカーの関係は,提供者と消費者という単純な枠を超えて複雑だ。前作から12年の年月をかけて作られた「Diablo III」にも,当然のことながらそんな複雑な絡み合いが存在する。今週は,最近Diablo IIIコミュニティを二分させた事件に焦点を当てつつ,プレイヤーとメーカーの関係について考えてみたい。
不誠実なコメントが流出してしまった
Blizzard Entertainment
ことの起こりは8月19日。アメリカのゲーム情報サイトincgamersが運営する非公式のDiablo IIIファンサイト「Diablo incgamers.com」に,David Brevik氏へのインタビュームービーが掲載されたことにさかのぼる。
その中でBrevik氏は,Diablo IIIを失敗作であると断じており,「Blizzard Northのオリジナルスタッフがいなくなったことで,アクションRPGの開発に関する経験値が失われてしまったのかも知れない。Wilsonさんは,もともとストラテジーゲームの開発者だし……」といったことを,挑発的でもなく,慎重に言葉を選びながら語っている。
それに怒ったのが,Blizzard EntertainmentのDiablo III開発チームだ。「ヤツの話し方にイライラさせられる」「しかし彼は,Hellgate: Londonで大失敗しているんだよ? ははは」「心配するな,俺達のゲームは1000万本売れているんだ」など,Brevik氏を嘲笑するようなメッセージを開発スタッフのFacebookに書き込んだのだ。Wilson氏にいたっては,ダーティワードを使った,まさに暴言と呼べるものだった。
書き込みを行ったのは,合計で12人程度のコアメンバーらしいが,信じがたいことに,彼らはBlizzard内部のプライベートなページに書き込みをしたと思い込んでおり,それが一般に公開されていることなど夢にも思っていなかったようだ。彼らの書き込みをキャプチャした画像がファンコミュニティを通じて一気に拡散し,とくに低俗な言葉を使ったWilson氏は,ファンサイトや公式フォーラムで強く批判されることになった。
「A Message from Jay」は,Brevik氏のインタビュームービーの3日後に掲載されたもので,自分の軽率な言動について反省すると共に,Brevik氏やファンに対して謝罪を行い,さらに,Diablo III開発者がこれまで情熱を持ってゲーム制作を行ってきたことなどを述べている。これに対するファンのレスポンスとしては,相変わらずWilson氏をこき下ろすものも少なくないが,相当な勇気を要したはずの謝罪文掲載を評価するコメントも多い。
あなたは「Diablo III」ファン,
それとも「Diablo」シリーズのファン?
Blizzard EntertainmentとDiabloコミュニティを突如として襲った今回の騒動の深いところには,「Diablo IIIのアップデートについて,我々の声が十分に届いていないのではないか」というファンの疑問が渦巻いているようだ。
Diablo IIIは発売からまだ3か月ほどしか経っておらず,Blizzardのほかの作品同様,長期間にわたる改善が続けられ,最終的に多くのゲーマーが望むものへ変わっていく可能性は高い。それが,Blizzardという会社の特徴でもあるし,オンラインゲームの特性でもある。とはいえ,サーバーダウンの問題などを含めた“トータルプロダクト”としてのDiablo IIIの真価は,6週間で1000万本というPCゲーム史上最高のセールス記録を生み出すにふさわしいものだったのかどうか,現在,ファンの間でも判断が分かれている。
ファンにとって問題なのは,そうしたDiablo IIIに対する意見を,Facebookにあのようなことを書き込む開発チームが果たして真摯に受け止めているのかということだ。Brevik氏はもはや他社の人間であり,インタビューへの正直すぎる対応にまったく問題がなかったとは言えないかもしれないが,同氏が今でもDiabloのファンであることは間違いなく,しかも「Diablo」と「Diablo II」の制作に携わり,さらに,Diablo IIIに使用されているゲームエンジンのプロトタイプを制作したことで,“Special Thanks”とクレジットされている人物だ。そういうBrevik氏の意見に対して暴言を返すスタッフに,果たして声が届いているのだろうか,ということは誰でも感じるところだろう。
Diablo IIIが1000万本も売れた理由として,15年の歴史を持つシリーズが築き上げてきた名声を挙げる意見も多い。長いブランクにも関わらず,ファンに愛され続けてきたからこそ,多くの新規ユーザーを巻き込んでDiablo IIIがヒットしたというわけだ。
言いかえれば,もしDiablo IIIがDiabloの名前を冠していなかったら,1000万本も売れたかどうかは疑問ということになる。今回のDiablo III開発チームの言動に対し,「Brevik氏の作ったHellgate: Londonを彼らは笑っているが,彼らはDiablo IIIなんて作れていないんだよ」という厳しい意見が一部のファンから寄せられるのも,こうした意識からだろう。
今回の騒動は,Diabloコミュニティを「Diablo IIIを愛するファン」と,「Diabloシリーズを愛するファン」に二分してしまったように思える。Diablo IIIへの不満に対し,CEOであるMike Morhaime氏自らがコメントを投稿するといった誠実な対応を見せてきた同社だが,そうした努力も今回の一件で水泡に帰してしまったかもしれない。
ファンから絶大な支持を得てきたメーカーが一転して批判の対象になり,そうした批判が予想外に長引くといった出来事は,これまでにも欧米ゲーム業界でたびたび起きている。数年前には,BioWareの脚本家の1人が「私はゲームなんかに興味がない」と発言したことに多くのファンが腹を立て,彼女の自宅に嫌がらせのメールが届けられるといった事件が起きており,一部のファンは,同じBioWareのタイトルだという理由だけで,今でも「Dragon Age 2」や「Mass Effect 3」を批判し続けるといったケースもある。
執拗に批判を繰り返すゲーマーを“トロール”と呼ぶことがあるが,そうしたトロールはどのコミュニティにも存在しており,一度失われたゲーマーとメーカーの関係を修復するのは,並大抵のことではない。個人的に,Diablo IIIとBlizzard Entertainmentにとって,今回の騒動が大きな節目であるように思えてならない。果たして,A Message from Jayが,ゲーマーとBlizzardの関係を元どおりに修復してくれるだろうか。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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