【CEDEC2014】ニコニコ動画の「ゲーム実況」はなぜ人気?ゲーム売上への貢献、使いこなすための注意点、人気実況者になるためのコツも…!

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2014年09月03日

「ゲーム実況」はゲームビジネスの敵なのか?それとも…

 「パシフィコ横浜」にて開催されている開発者向けセッション「CEDEC 2014」。開催2日目となる2014年9月3日(水)に実施されたセッションの中から、“「ゲーム実況」時代のゲームプロモーション”と題したセッションの模様を詳しくお届けします。

 本セッションには、人気動画サイト「niconico」におけるゲーム戦略を担当している、ドワンゴ 会長室ゲーム戦略グループの伊豫田旭彦氏が登壇しました。

【CEDEC2014】ニコニコ動画の「ゲーム実況」はなぜ人気?ゲーム売上への貢献、使いこなすための注意点、人気実況者になるためのコツも…!
▲ドワンゴ 会長室ゲーム戦略グループ 伊豫田旭彦氏

 伊豫田氏は、「niconico」や「Youtube」「Twitch」といった動画サイトで人気を集めている“ゲーム実況”について、下記の4つのテーマを軸に話しました。。

・ゲーム実況はなぜ人気なのか?
・ゲーム実況で売上は伸びるのか?
・ゲーム実況はビジネスの敵なのか?
・ゲーム実況を使いこなすには?

ゲーム実況はなぜ人気なのか?

 ゲーム実況者は女性人気が非常に高い人も多く、「ニコニコ超会議」などのイベントでも大きな人気を集めています。スウェーデンでは、ゲーム実況だけでなんと4億円もの年収を稼いでいるYoutuberも存在するとのこと。

 伊豫田氏は人気の理由について、「そもそもゲームが人気だから」とコメント。「niconico」では動画再生数(全期間)の34%、生放送番組数(2014年7月)の52%をゲーム動画が占めています。

 また、ゲーム動画はサイトを問わず人気で、「Youtube」でも日本TOP100chの再生数割合(2014年6月の1週間)のうち、24.5%がゲーム動画を占めています。

 PCゲーム向け実況配信プラットフォームである「Twitch」は、放送者が2万人以上、月間ユニークユーザーは4500万以上、平均滞在時間は106分と、大きな人気を集めています。

 さらなる人気の理由について伊豫田氏は、「ゲーム動画が新しいコンテンツとして楽しまれているから」とも指摘。「niconico」では、『妖怪ウォッチ』における「ようかい体操第一」の演奏してみた、歌ってみた、踊ってみた動画や、『Mine Craft』で「東京ディズニーランド」を再現する動画、映画化もされた人気フリーゲーム『青鬼』の実況動画といったゲーム関連の動画が人気です。

 「ゲーム動画」と一口に言っても、オーソドックスな実況動画だけに留まらず、企画・ネタ、スーパープレイ、ゆっくり(フリーの音声読み上げソフト「SofTalk」を利用した実況動画)など、多種多様なものが存在します。

 また、オーソドックスな実況動画だけを見ても、単にプレイしているだけではありません。例えば『青鬼』だけでも、「自分の息子と一緒にゲームプレイする」ものから、「超高速バージョン」、「スポーツ実況+タイムアタック(RTA)」など、数多くの創意工夫がなされています。

 さらにゲーム実況は投稿数が多いため親しみやすい部分も。ニコニコ動画に5年間で3300本もの動画を投稿した「ぶんぶん」氏や、4年間で1600本を投稿している「いい大人達」といった猛者もおり、ユーザーは人気テレビ番組よりも彼らの日常会話を耳にする機会の方が多くなります。

 このように、ゲーム実況は、「元々人気が高かったゲーム動画」であり、「新しいコンテンツを開拓」しており、「毎日投稿して視聴習慣を作る」ことで、人気を得てきました。

ゲーム実況で売上は伸ばせるか?

 伊豫田氏は、「ゲーム実況で売上を伸ばせます」と断言。その例として、“ニコニコ市場”における売上げ数を紹介。PS3『ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル』においてはニコニコ市場だけで6859本(※)も売り上げています。

(※)…ニコニコ市場を経由し、Amazonなどで販売が確定した数量。限定版やプラットフォームの違いなどは合算。

 また、日本ではスパイク・チュンソフトがリリースした『テラリア』は、PS3版、PS Vita版共に、継続的に売上げを伸ばしている状況。ユーザーアンケードの結果、『テラリア』を知ったきっかけも、購入の参考にしたものも、どちらも「動画サイト」という回答が一番多かったのだとか。

 『テラリア』は、「niconico」を介して積極的に実況施策が行われたタイトルです。発売前にゲームをもらえる先行実況は、合計際整数が120万以上。実況者による公式プレイ動画も、定例実況生放送番組も、24時間実況生放送も、いずれも高い再生数、視聴者数をマークしました。結果、発売から1年以上も実況動画が投稿され続けるという流れになったのだとか。これらの施策によって認知度が上がり、売上げの継続的な増加に繋がっていると思われます。

ゲーム実況はビジネスの敵か?

 伊豫田氏は、「物語が最重要なゲーム以外は、敵ではない」とコメント。「現在のゲーム市場では、ビジネス構造が変化しつつあります。従来のようなパッケージ販売の“買いきり型”から、アイテム課金やDLC、月額課金やつど課金、CDやグッズの販売などを行う“運用型”へとシフトしつつあります」と述べています。

 “買いきり型”の売り場は店舗が中心で、発売前に情報を拡散し、全員同じ価格で購入し、ゲーム消費が目的となります。
 ところが“運用型”は、露出場所全てが売り場になり、発売後に評判を拡散。長く深く遊ぶ人はより多く支払い、ゲームを中心としたコミュニケーションが目的となります。
 「後者の典型的な例は、現在人気を伸ばしているスマホアプリ。発売前にCMをうつパッケージ販売型とは対照的に、スマホアプリは250万ダウンロードを突破してからはじめてCMをうつ…といった流れがあります」とのこと。

 伊豫田氏は、ゲーム市場が“運用型”へとシフトしつつある現状について、「リアル/ネットすべてがゲームセンターになったようなもの」と指摘。
 「運用型ゲームのポイントは、ゲームコンテンツ以外にも、コミュニティやプラットフォームの設計も重要になってきます。ゲーム実況は、コミュニティのパーツのひとつとして存在しています」と語っています。

 「niconico」では、『ドラゴンクエストX』『新生ファイナルファンタジーXIV』『パズル&ドラゴンズ』『ファンタシースターオンライン2』といったタイトルの定例番組が放映されています。これらは、下記のような効果が出ているとされています。

・ゲームファンの可視化によるプロモーション
・イベントとして実感を持った情報伝達ができる
・顔の見える運営で、ユーザーとの行き違いによる不幸な炎上の防止

ゲーム実況を使いこなすには?

 伊豫田氏によれば、ゲーム実況を使いこなすには、下記のような点に気をつける必要があるとのこと。

・実況ポリシーを明確にする
・音楽、声などの権利関係を制作時からクリアしておく
・実況を単なる露出と考えず、コミュニティ形成の核として積極的に用いる(ただ単に1回だけ人気実況者に実況させる…では効果が薄い)
・動画、生放送の特性の違いに気をつける
・シェア機能や実況SDKを用いる。

 「niconico」には、著作物利用のガイドラインを示す「ニコニ・コモンズ」というサービスがあります。「ニコニ・コモンズ」でガイドラインを示しているゲームは『テラリア』や『ドラゴンクエストX』などいくつもありますが、会場では顕著な例として、『地球防衛軍4』が紹介されました。

 『地球防衛軍4』は当初、実況ポリシーがきちんと定まっておらず、それが曲解され「実況してはいけない」と誤解されていたとのこと。ただし実況ポリシーを明確にしたとたん、「ニコニコ生放送」には、たったの30分後で100番組もの生放送がスタートしたとのことです。

 ポリシーを明確化しておくことで、大半のユーザーはその内容を遵守し、悪意のあるユーザーがポリシーを違反した場合も、「こいつ違反しているぞ!」と視聴者が叩きに来る流れが存在。そのため、ポリシーを分かりやすく明確化するのが重要とのことです。

 『地球防衛軍4』は、ある時期が経過するごとに実況できるゲーム範囲を広げていく…というユニークなポリシーが設けられ、ゲーム大会を開催する施策もとられ、継続的な露出に繋がっているとのこと。

 また、プレイステーション4のシェア機能や、動画投稿APIによる『maimai』の動画等高機能など、動画・生放送の仕組みをゲームシステムに盛り込んでいる例も存在します。

 法人向けに提供されている(現在はiPhoneのみ)ゲーム実況SDKを用いれば、アプリ画面やカメラ映像を録画し、「niconico」や「Youtube」に投稿することも可能。将来敵に生放送の配信&視聴機能にも対応予定だとか。

ゲーム実況は、「音楽コンテンツを変えたカラオケ」ようなもの

 ゲームコンテンツが非常に人気であり、いかにこれを使いこなして面白く遊ぶのか、可能性を極限まで引きだせるか、がゲーム実況の人気の理由となっています。

 「niconico」では特に『Minecraft』(マインクラフト)が大人気で、毎日新しい実況動画が上がっている状況とのこと。

 そんな状況の中、『Minecraft』の開発元であるMojang社からドワンゴにコンタクトがあり「実況者を我々に紹介してくれ。彼らには、『Minecraft』を用いてお金儲けをしてほしい」との提案が行われたとのこと。「僕らみたいなインディーズメーカーにとって、彼らのようなゲーム実況者を活用する方が、コスト効率が良くてありがたいんだ」とも。

 直近では、動画を通じて「アナと雪の女王」が旧来のディズニーファン以外にも人気が広がったように、「コミュニティに流行らせる」ということが、今後のゲームビジネスには需要であると、伊豫田氏はコメントしています。

 伊豫田氏は、「この流れは、カラオケが登場して音楽コンテンツを変えたのに近い動き、1980年代半ばにカラオケボックスが誕生し、音楽CDの売上市場が伸びたようなもの」とも述べました。
 「ゲーム実況は、ゲームコンテンツの作り方そのものに影響を与えるかもしれませんが、前向きにこの変化に取り組んでいただければと思います」と延べ、講演を締めくくりました。

<質疑応答>
――投稿されているゲーム実況動画における、コンシューマーゲームとスマホゲームの比率を教えてください。

★伊豫田氏:
 「niconico」の場合、ほとんどがコンシューマーゲームです。アプリはトップ100の中で4%しかありません。ほかにもフリーゲーム、自作ゲーム、『艦隊これくしょん』といったPCゲームなどが人気。ただしゲーム実況SDKの影響で、今後はスマホゲームの実況プレイ動画も増えていくのではないでしょうか。

――ゲーム実況SDKの、Android版のリリースはいつごろになるのでしょうか?

★伊豫田氏:
 これがですね…開発者は「年内を目指していた」と言っていました(笑)。Android版のリリースは、しばらくお待ちいただければ。

――人気実況者になるためのコツは?

★伊豫田氏:
 僕もそれは気になって、人気の実況者さんに聞いたことがあるんですが、「今だったら、毎日動画投稿を3年間続けるべきだね」といわれました。この言葉が示すとおり、「いかに露出するか」が人気を得るコツ。これはYoutubeでも同じで、いかにファンを増やすか、いかに面白い動画を毎日作れるかが重要です。

――ゲーム実況が盛んになることで、悪い影響が出てくるでしょうか?

★伊豫田氏:
 エンターテイメントビジネスで「悪いこと」を捉えるのはとても難しいことです。メーカーにとっては、環境の変化についていく必要があるのは大変なことかもしれません。ただし、エンターテイメントは新しいものが正義だと思っています。一概に悪いことだと捕らえるのは難しいと思います。

――実況者の中には、「Youtube」で先行配信するなど、配信方法や配信時期を変えたりする人もいます。YoutubeやTwitchとの差別化を図るべく、ゲーム実況者の囲い込みなどは行われるでしょうか?

★伊豫田氏:
 ドワンゴの役割としては、人気があろうとなかろうと平等に実況者さんと付き合って、ゲームメーカーからの問い合わせに応じて良い実況者さんを紹介する、という動きをしています。彼らを抱え込むことはしません。

 我々はゲーム実況の文化、ゲームメーカーの販売に貢献したいと考えているので、Youtuberは敵ではないと考えています。むしろ露出機会を増やすために、ニコニコ動画でしか活動していない人は、積極的にYoutubeに進出するべきだと思いますし、ドワンゴはそのお手伝いもしたいと考えています。

――今後、ゲーム実況者に向けた金銭還元プログラムのようなものは考えられているでしょうか?

★伊豫田氏:
 すごく難しい問題ですが、我々はすべてのゲーム実況者を平等に扱った上で、ゲーム実況を儲けにすることも、可能であればサポートしたい。健全なマーケットをつくるために、ゲームメーカーから実況者にお金を払うような仕組みも作りたい。
 特に運用型ゲームではコミュニティを抱えるのが大事なことなので、実況者はメディアビジネスとして、我々が営業代行してあげるというやり方も考えられます。
 ラジオパーソナリティと同じように、彼らのグッズ販売、ファンクラブ作成などもやっていきたいです。

――運用型ゲームでいま盛り上がっているのはスマホゲームだと思います。そこへアプローチしていく取り組みは?

★伊豫田氏:
 スマホは持っているけど、パソコンは持っていない人も多く、そういう人は旧来のゲーム実況がやりにくい状況にあると思います。ゲーム実況SDKの登場で実況動画は増えると思います。また、多数のスマホゲームメーカ0と協力して、運用型ゲームの助けになるようなコンテンツを広げていきたいと思います。

――企業からゲーム実況者にお金を出すという流れは「ステマ」だと言われて炎上したり、イメージが落ちたりする懸念もあると思いますが、どのように考えていますか?

★伊豫田氏:
 最近は、「ゲーム実況者がプロモーションしてもおかしくないよね」という空気ができてきています。ここ1年間で炎上したことはほとんどありません
 有名な人にお金を払うだけではおもしろくないので、ほかにも、大会で賞金を出すかたちや、なんらかで分配するかたちなど、お金をどう渡すのがいいかを考えていきたいです。

 

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