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果たしてこれで正解なのか?
『新パスタ宝典』という本がある。パスタ料理のレシピばかり1347点が掲載されている、パスタ料理のバイブル的な本だ。
ところがこの本には、一般的な料理本のように出来上がりの写真が載っていない。文章だけだ。これでは、作ってみてもそれが「写真の見た目っぽくできたか」という答え合わせができない。 正解がわからないままに、パスタを作ってみた。 > 個人サイト イロブン Twitter:tech_k とにかくゴツくて分厚いパスタ宝典『新パスタ宝典』は、もともと1973年にイタリアで出版された『IL NUOVO CODICE DELLA PASTA』という本の日本語版。
現在は絶版のようだが、僕はたまたま知人が「本棚の整理をするから欲しければあげるよ」と言ってくれたので入手できた。 帯の「パスタ料理、至高のバイブル」という煽りにゾクゾクする。
B5版で657ページ。でかくて分厚くて重い。ほぼ鈍器。
厚みだけで言うと6cm以上ある。 これぐらい分厚い本です。
『家庭の医学』とか『タウンページ』ぐらいのボリュームだけど、中にはパスタのレシピのみ。文字だけでぎっしり詰め込まれているというストイックな本だ。パスタ界の修行僧、パスタ山伏である。
中はこんな感じ。文字オンリーで1347のパスタ料理を掲載。
レシピ自体は簡単なものなら3行程度、長くても1ページ分で1つのパスタ料理ができあがるようになっている。ただ、先に言ったように完成写真が無いので答え合わせができない。さらに、材料の分量も載ってたり載ってなかったりとかなり適当。
さて、なにをどう作ればいいのか。
そのうえ、料理の名前も『慰めのスパゲティ』とか『ビーナスの宝石箱』とか、結果を想像できないものが多い。直接的な料理名でも『桃風味のパスタ』や『カエル入りパスタ』など、なんというか、一筋縄ではいかない感じがプンプン漂う。
たまに『ゆでた牛肉と鶏肉入りパスタ』みたいな名前を見つけると、旅行先で偶然友達の実家を見つけたぐらい嬉しい。 『真夏の夜の夢』を作ろう。せっかくなので、まずは手に負えないっぽい名前のパスタに挑戦してみたい。
文中の説明によると、「このパスタのソースは夏の楽しい夜に冗談で生まれたもの」とある。冗談でそんなものを作るな、と思ったが、冷静に考えたら、今まで僕が書いた料理関連記事も、かき氷ご飯とか銀杏大福とかふざけて作ったものばかりだった。 材料はこれだけ。
材料は「大きな穴の開いたパスタ500g、ズッキーニ2.3個、タマネギ2個、トマト2個、生のプラム3.4個(以上はすべて同じグラム数でそろえる)、ピーマン1/2個。あと塩胡椒とかバターとかそういうの。
これはあきらかに4人前とかそういう分量なので、僕が一人で食べられるぐらいの分量に調整する。この時点でもうアレンジが加わっているので、正解がぼやけてくる。 もう取り返しの付かないところまできたけど、正解かどうかは不明。
これらの材料を皮を剥いて刻んで、オリーブ油を足しながらミキサーにかけ、最後に塩胡椒、パセリ、バジリコを入れよとある。調味料の分量はない。適当にせよ、か。
応用として、オリーブ油のかわりにマグロのトロの油漬けをつぶして混ぜても良い、とあった。つまりシーチキン的なものだろう、と判断してそれも足してみた。 たぶん『真夏の夜の夢』(推定)という料理です。
あとは、穴の開いたパスタということでマカロニを茹でて、上からドロドロのソースをかけて完成。だと思う。
いま記事を書きながら、もしかしたらネットで検索したら正解の写真が出るかもしれないと気がついたが、間違っていたらイヤなので検索しない。みんなも検索しないでいて欲しい。 『真夏の夜の夢』かと言えば、まぁ真夏の夜の夢っぽいか…。
まずくはない。野菜のやさしい味がして、胃が疲れていてもすんなり食べられそうだ。
例えばレストランで「こういう料理です」と出されたら「へー、そうなんだ」と納得して食べる味。 しかし、本当にこれで合っているのかどうかが分からないので、最後の部分でモヤッとする。 料理はうまいまずいだけではない。「そういうもんか」と納得して食べるのも味のうちなのだ。たぶん。 『リングイーネまたは他のパスタのコーヒー風味』を作ろう続いて、名前から味が想像できない系のを作ってみよう。
コーヒー風味のパスタとはどういうものなのか。 この材料でどういう味に転ぶのか、想像が付かない。
材料はリングイネ(平たい、断面が楕円形のパスタ)500g、牛挽肉150gと豚挽肉150g、タマネギ300g、赤ワイン1カップ、サイフォンでいれたコーヒー1/2カップ強、ミントの葉ひとつまみ、サルビアの葉ひとつまみ。あとオリーブ油とバター。
パスタに対して肉が牛と豚で合計300gとかなり多い印象だ。とりあえず5:5の合い挽き肉を一人で食べられるだけ用意した。 あと、サルビアの葉ってなんだ。サルビアは花壇でよく見る赤い花だろう。あれ食べられるものだったのか。 ついでにミントもうちの近所のスーパーでは入手できなかったので、葉っぱ2種は除外。もう正解からブレた。 こわごわ、コーヒーも投入。
作り方は、タマネギを柔らかくなるまで気長に炒め、挽肉も入れて炒める。
赤ワインを少しずつ入れて煮詰め、さらに「エスプレッソほど濃くなく、薄過ぎもしないコーヒー」も入れて煮込み、最後に塩胡椒で味を調えよ、とある。 ミントとサルビアもこの時点で入れるらしいが、無いのでパス。 材料の所にわざわざ「サイフォンでいれたコーヒー」と指示されているが、うちはカートリッジ式のコーヒーしか無いので、それで煮込む。またもや正解からブレたが、結果としてどれぐらいブレているのか分からないのが怖い。 これが『リングイーネまたは他のパスタのコーヒー風味』らしいです。
最後に茹でたリングイネと茹でた湯ちょっとをコーヒー風味ソースに入れて2分混ぜ合わせれば、完成。
パスタと肉の比率はできるだけ正しくなるように調整してみたが、こうやってみるとかなり肉っぽいパスタ。職場近くの喫茶店で、若手社員が好んで注文しそうな見た目だ。 あ、これうまい、かも。
食べてみると、よく炒めたタマネギの甘みと肉肉しい味の中に、最後に「…あれ?」ぐらいの感じでコーヒーの香ばしい風味がする。
コーヒーを入れたことでの嫌な感じは全く無い。あ、これはかなり美味しい気がする。納得はしづらいけど、少なくとも絶対にまずくはない。 本当の正解はもちろん検索しないが、でも、これも正解のひとつでいいんじゃないか、と思うぐらいには美味しい。 ミントとサルビア入れたらどんな味になっていたか、今になってすごく気になり始めた。
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