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「男として生きたかった」秋田市のFtMの方の自死に思う [現代の性(性別越境・性別移行)]

1月24日(木)

一昨年、2011年11月5日に秋田県由利本荘市で行われたESTO(性と人権ネットワーク)主催の研修会で、私は「日本におけるトランスジェンダーの歴史と抑圧-ヤマトタケルから明治維新、そして現代へ-」というお話をした。

この研修会は、秋田県助成の地域自殺対策緊急強化事業で「性的少数者の自殺防止プロジェクト Bridge of Heart3-地域社会で支える手を育てるために-」として行われた。 

最初に「日本におけるトランスジェンダーの歴史」を概説した後、「多様な「性」と社会 -社会的受け入れを考える-」について述べ、最後に「性的少数者の自殺防止のために」と題して、そのために必要な3つのポイントを指摘した。
(1)性の多様性に立脚した正しい知識
(2)自己肯定のための努力(自助)と周囲のサポート(支援)
(3)経済的自立とマイノリティとしてのプライド
そして、「違いがあっていいんだよ」という言葉で講演を結んだ。

秋田県は日本一自殺率の高い県である。
しかも単年度ではなく、なんと17年連続して日本一なのである(1995~2011年)。
私などが講演したところでどうにかなる状況ではないことを承知の上で、それでも微力を尽くしたつもりだった。

今日、その講演会の時にスタッフとしてサポートしてくれたFtMの方が、昨年(2012年7月23日)自殺したことをESTO主宰者(真木柾鷹氏)からのメールで知った。

深夜、地下道でガソリンをかぶっての焼身自殺だった。

中学生の頃から性別違和に苦しみ、地元の会社に女性として就職したものの、「男として生きたい」という本心を周囲に打ち明けられず苦しんだ。
定期的な男性ホルモン投与で身体の違和感を緩和していたが、2年前に会社が倒産し失業してしまう。
性同一性障害に加えて鬱病を発症し、自殺未遂を繰り返した末に、38歳で自ら命を絶ってしまった。
なんとも傷ましいことだ。

大都会と違って情報量の限られる地方都市の場合、どうしても性別移行に対する周囲の偏見・社会の無理解がひどく、性別移行者の社会的受け入れが困難なケースが多くなる。
しかも、経済不況による就労困難は地方に行けば行くほどひどい。
それは、秋田に行ってみて実感した。
性同一性障害の治療としてのホルモン投与は健康保険の対象外(自費診療)なので、失業状態で収入が十分に確保できないと、治療の継続も難しくなってしまう。

つまり、彼の自殺は、私が指摘した(2)の後半「周囲のサポート(支援)」と(3)の前半「経済的自立」がうまくいかなかったことに起因しているように思う。

そんな分析をしたところで、無力感はぬぐえない。
わずかなご縁しかなかった方だが、やはり心が痛む。

「違いがあっていいんだよ」というメッセージが、性別移行を「病」であると信じ込まされてしまっている性同一性障害の人の耳にはなかなか届かない。

私は、性別移行は「病」ではなく、その人の生き方であり、だから生き抜くための「術」を身につけ、自己肯定した上で、プライドを持って偏見や無理解と闘いながら強く生きるしかないと思う。

性別移行者の人生は、ある意味、社会との闘いの連続である。
闘う術を身につけ強く生きなかったら、たちまち潰されてしまう。
しかし、性別移行者を「病者」「弱者」と位置付け、「治療」「福祉」の対象とする性同一性障害の考え方からは、そうした「闘う」という発想・姿勢はなかなか出てこない。

3月初めに、栃木県の性同一性障害の方(とそのご家族)にお話することになっている。
まずは、どうしたら自己肯定感を持ってもらえるか?考えれば考えるほど難しい。
002.JPG
『秋田さきがけ新聞』2012年11月26日号
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『秋田さきがけ新聞』2012年7月24日号
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『秋田さきがけ新聞』2012年7月25日号

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コメント 2

YUKO

いろいろなものと戦って今を勝ち得た順子さんが言う事だから本当にそう思う。
いろいろなものと戦って今を生きている自分だから本当にそう思う。

弱者の殻に逃げ込まないで。殻の中には何もない。閉じこもっても何も見えない。たとえ叩かれても踏みつけられても蹴られても、一歩を踏み出さなければ光は見えないのに。
人は一方方向だけの生き物ではないはず。どこかで負い目があっても違うところで伸ばせる才を見いだせば何とかなる。

そう言い続けるしか無い。時にこぼれ落ちた弱い種に、自分たちも心折れる思いをしても、前を見て。光はきっとあると語り続けるしか無い。
でも、あなたの言葉が通じている人はきっといる。その言葉やその存在で救われている人はきっといるよ、姐さん。


by YUKO (2013-01-27 21:53) 

三橋順子

YUKOさん、いらっしゃいま~せ。

コメントありがとう。励みになりました。
私は貴女を知ったことで、いろいろなものと戦って生き抜くことの重みと大事さを、改めて学ぶことができました。
その点でも、感謝しています。


by 三橋順子 (2013-01-30 02:32) 

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