狭義のネトウヨは徐々にでも下火になるだろうが、そういう跳ねっ返りが跋扈する土壌を作り上げたのはオタク系保守反動だし。連中の「軍事歴史系トリビア・左派dis・ゆるい嫌韓嫌中気分」の三位一体を二次元美少女のオブラートで包んでネタ化した文化が2ch→ニコ動経由でカジュアル化したんだよね
— tatarskiy (@black_tatarskiy) 2014, 8月 31
自分はさんざんやり合って実態を知っているので、実はゴリゴリのネトウヨにはアニメアイコンが少ないって知ってる。しかし左派市民運動系に冷笑を浴びせてくるクラスタの大半はアニメアイコンだ。こいつらがイデオロギー的に中立かと言うとそんなことはなくて、確実に右に寄っている。
— bulldozexxx (@bcxxx) 2014, 4月 28
「ネット右翼はみんなアニメオタクなんじゃないか」という仮説がある。
ネット右翼をバッシングする人たちはついでにオタク文化を貶したがり、ネトウヨ側はその言葉尻をとらえて「オタク差別を許すな」と脊髄反射的に返す流れはすっかりおなじみだ。
しかし、ヘイトスピーチのカウンター(いわゆるしばき隊)関係者の発言を見ていると、ゴリゴリの活動者には実はアニメオタクは少ないという意見もある。
実際はどうなのだろうか。ちょっとこの問題について考えてみたいと思う。
ヘイトスピーチのルポ「ネットと愛国」の著者でこの問題に詳しいジャーナリストの安田浩一氏によれば、ネット右翼が台頭するきっかけは2002年の日韓共催ワールドカップだったという。私は日韓ワールドカップを巡る当時の匿名インターネット世論は以下の通りだったと記憶している。
①本当は日本の単独で開催するはずなのに韓国側が無理やり介入して共催にさせられた
②日韓共催なのに「KoreaJapan」と韓国が先に表記され、開会式も開幕戦も韓国だった
③韓国贔屓の八百長試合が多かった
④特にフジテレビは韓国贔屓の試合放送や報道を行った
①~②はやっかみだし、③~④は陰謀論である。しかし、この結果、湘南ゴミ拾いオフや国立競技場でドイツチーム(韓国の対戦相手で第二次世界大戦当時の同盟国)を応援するオフが開催され、当時匿名ネット空間ではバズったものだった。
2005年には山野車輪氏による「マンガ嫌韓流」の第一巻が発刊。この第一章がまさに「日韓共催ワールドカップの裏側」と言うタイトルのもので、2002年当時の匿名ネット上の主張をまとめたようなものだ。
なおマンガ嫌韓流はAmazon.co.jpにてランキング第一位を記録したものの、書店には殆ど並ばず、新聞書評欄や王様のブランチのブックランキングも無視していた。これが、フジテレビの偏向報道疑惑とともにネット右翼のマスコミ批判の源流にもなっているものだと思われる。
だが、オタク文化であるマンガと嫌韓がむすびついたのは「嫌韓流」が初めてではない。「二ホンちゃん」が原点ではないだろうか。
二ホンちゃんは世界の国を小学生に擬人化した物語。2001年7月に2chの嫌韓スレッドに書き込まれた小噺が原点で、外交や国際問題(主に韓国がらみ)のニュースを小学生で例えた物語だ。これを漫画化するプロジェクトが2001年のうちに立ち上がり、いくつものウェブ漫画家がイラスト化や漫画家を行っている。関連書籍は2006年~09年までに4冊発刊されており、ネット通販のほかアニメイトやとらのあななどのオタクショップで売られていた。
か弱い幼女である二ホンちゃんがカンコ君にしいたげられるという構造自体がかなりアレなのだが、二ホンちゃん全盛当時は、割と多くのネット環境を持つオタクたち(どちらかというと腐女子)に支持されていた。ネット右翼が特殊な言説でなくなった起源もあのあたりだろう。
そして二ホンちゃんとほぼ同時期に、同じ2ch発祥の国を擬人化した腐女子に人気のウェブマンガとして作られたのが「ヘタリア」だ。
ヘタリアはもともと近代のイタリア軍がことごとく戦争に弱いことを侮蔑したものでやはり2ch発祥のもの。それを日丸屋秀和氏がウェブマンガにした結果人気を呼び、ヘタリアは2009年にアニメ化、2011年に正式な商業漫画化を実現している。著者のサイトに今も掲載されている第1話には、2000年に立てられた元ネタの2chスレッドなどを参考サイトとして引用している。
特にアニメ化以降は日丸屋の創作した「Axis powers ヘタリア」は独立したコンテンツとして2ch中心で語られる「ヘタリア」とは区別されている。
韓国(擬人化キャラクターの名前)が初めて登場した「歴史が半万年から9000年に引き上げられた件について」は、のっけから当時嫌韓スレで話題だった統一協会が日韓トンネルを試作した問題を擬人化した4コマで始まっている。韓国は「お前と俺を結ぶトンネル掘るんだぜ!費用はお前持ちだぜ!」と傲慢な主張をし、日本は「えっ・・・でも韓国産私の事嫌いといつも言ってますし」と苦い表情で反発している。 ほかのエピソードも「ウリナラマンセー」と韓国が絶叫して終わるオチてないオチ(いわゆる火病をカリカチュアライズしていると思われる)や、「韓国起源説」や、独立後に自国の国旗がないことを「それもこれも日本のせい」と僻みっぽく言うようなもの、おっぱいを領土問題にたとえたものがネタになっており、韓国人が風呂に入る時にタオルで性器を隠さないことをバカにした作者のコメントなどとともに掲載されている。これらは当時ネット右翼が嘲笑した「韓国の反日」をそのまんまマンガ化したものはきりがない。北朝鮮のミサイルをめぐる朝日新聞の書きぶりをなぜか韓国のいかがわしいマッサージで描くなど、わざと韓国と北朝鮮の区別がついていないうえに、韓国人=いかがわしいマッサージという偏見を増長させるようなエピソードもある。韓国が中国を「兄貴」と呼んで慕うのも、ネット右翼が「韓国は中国の属国だ」と決めつける風潮に基づいている。
当時ネットに音源がアップされ、面白フラッシュ倉庫などに転載された「ウリナラマンセーの歌」の歌詞が2000年代初期の嫌韓の「気分」をよく表していると思う。ヘタリア人気が嫌韓を煽った側面もあるだろうし、嫌韓系のネラーがヘタリアに回収されたところもあるだろう。
しかし、2000年代初中期の匿名ネット文化がオタク文化と嫌韓ネット右翼文化の影響を多分に受けているのは事実なのだ。
嫌韓的なネタがネット上で一部の人たちの間で語られるだけでなく、実際にデモが街中で行われるようになったのは2000年代中ごろである。在特会などの結成される以前にも右翼系デモとして行われた2ch発祥のオフ会も少なからずあった。
在特会の会長は2008年にヘイトスピーチの講習セミナーを実施している。このとき、秋葉原で演説するときの例として2001年の美少女漫画「ARIA」を引き合いに出し、「韓国人が差別だと言いだしたら、そのアニメ(の内容は)変わっちゃうんですよ」と話している。
在特会としてはじめて秋葉原でのデモが行われたのはその翌年の2009年のこと。この時参加者は1000人規模だったとされており、件のデモが大規模化されたきっかけでもある。
すでにシュプレヒコールでヘイトスピーチが蔓延していたほか、デモ隊員が沿道にいたカウンター(しばき隊ではなく単独の人物)を日の丸でリンチした挙句に路地裏まで追い掛け回す騒ぎが起きたのもこの秋葉原デモの特徴。それまでのデモは非暴力路線を貫いていたが、この時なんら警察に逮捕されなかったことが、デモ隊がヤジを飛ばす通行人や商店を襲撃するようになったきっかけでもある。
以降ヘイトスピーチデモは2ch発祥のオフ会との境目はあいまいでもあった。2008年のフリーチベット運動(北京五輪の聖火リレーに抗議するデモ)や毎日新聞変態問題(毎日新聞英字版の悪ふざけに抗議するデモ)や、2011年のフジテレビ抗議活動(韓流番組と"偏向報道"に抗議するデモ)は、2ch発祥のデモと在特会をはじめとする行動保守(ヘイトスピーチを行うグループ群)のデモの両方が存在しており必ずしも特定団体の会員でなくてもヘイトスピーチデモに参加した場合も多く、2ch的なオタク文化がヘイトスピーチデモの動員力拡大や過激化に貢献した背景がある。
重ねて言うが、オタクのすべてがネット右翼ではない。
しかし、そのネット右翼ではないオタクの何割かは、ヘイトスピーチの問題意識が非常にあいまいなのだ。まるで体罰教師やDVを行う父親が「これは暴力ではなく教育だ」と思いこんでいるのと同じような感覚で、無意識的に嫌韓文化に染まっている。
彼らがヘイトスピーチに反対姿勢を見せたがるのは、体罰常習犯の教師が「生徒を大ケガさせたり殺すほどの体罰はアカンよな」と他人事で言うようなものである。ありえないことだが、もし世の中の教師がみな体罰で生徒を殺しても何ら逮捕されずマスメディアも報道しないような世の中なら、躊躇なしに暴力を起こすのがこの手の部類だ。
ヤンキー高校だって全校生徒のすべてがヤンキーではないが、そこに所属する真面目そうな生徒はヤンキー式の思考や言葉遣いの影響を無意識のうちに受けており、染まっているものだ。それと同じもので、世間からするとといかにヘイトスピーチが根本的に特殊なものにしか見えなくても、オタクにとってすれば「ありふれた普通の言論」なのだ。
ヤンキー高校生ならまだ、狭い校舎の中と「世間」の隔たりを意識することができるし、3年経てば卒業することになるからましだ。だが、匿名ネットは全体像が可視化できず、考えようによっては無限の広がりであるかのように錯覚できてしまう。おまけに片山さつきのようにヘイトに加担する国会議員が居たり、同じ自民党右派議員に漫画オタクを自他ともに認めることでオタクに大人気の麻生元首相が居たり、NHKの経営委員や大学教授にも極端な右派がいたり、産経新聞や週刊誌や書籍や「そこまで言って委員会」が愛国ポルノ企画に走ったりしたものなら、まるで世間のすべてが極右に染まっているように錯覚できてしまい、何らうしろめたさを感じることもなく「韓国人を叩き出せ」と絶叫きてしまうわけである。
そういう意味で、オタク文化とヘイトの関係性は改めて点検する価値があると思う。
子ども向けのアニメを描くような主要な漫画家がかつて二ホンちゃんの創作に携わっていないかを検証する必要もあるだろうし、韓国を含むアジア人観光客もやってくる秋葉原のオタクショップ店員なんかも人権啓発のための教育をやる必要がある。アニメになったヘタリアの原作ページに未だに偏った韓国エピソードが弁明文もなしにそのまま掲載され続けているのもなんだかおかしい話だ。ニコニコ動画はオタク文化の一次・二次創作を豊かにしたインフラである一方で、政治カテゴリー上でヘイトスピーチデモの宣伝場としていた前科もある。
このあたりの分別をしっかりとすることが、オタク文化を日の丸を背負ったクールジャパンの看板コンテンツにする上では必要不可欠なことだろう。