小林幸子のコミケCDが数万円で転売されている真下で小林幸子のコンサートチケットが100円のまま買い手がついてないの凄まじいカルマを感じる
— 七億@大阪文フリD16 (@nanaoku_h) 2014, 8月 18
今年の夏コミケでは、小林幸子がブースを出したことが話題を呼んだ。
演歌界の大御所の小林幸子とオタクの祭典コミケ。何の関連性もない異色の取り合わせである。だが、その異色さだけで3時間経たないうちにCDが完売してしまった。
だが、このコミケCDは数万円で転売されている一方で、コンサートチケットは100円のまま買い手がついていないという。
「小林幸子」と言うコンテンツそのものではなく「コミケに参加した小林幸子」がオタクの間でやたらめったら注目を集め、消費されたのである。
小林幸子といえば、昭和を代表する国民的演歌歌手である一方、近年は大衆の演歌離れにより人気が低迷傾向にある。一昨年には衣装代のコストカットを発端にした事務所の内紛があり、2年間連続で紅白出場を逃してしまっていた。
日本の大みそかの象徴であり、彼女の最大の武器ともいえる「幸子の衣装」が、こともあろうに衣装をめぐる騒動がきっかけで披露できなかったのだ。
演歌に疎い50代以下の日本人からすればこの2年で彼女の存在はすっかり忘れ去られてしまった。そんな中突如としてコミケに参戦したことは、話題作り以外の何ものでもないだろう。
NO WASHING, NO MAIMAI. pic.twitter.com/TxHCYA0idp
— SHARP シャープ株式会社 (@SHARP_JP) 2014, 8月 31
#洗濯祭 パインアメもらえるよ( v^-゜)♪ すぅー pic.twitter.com/gjyr0crnuj
— シャープ製品/ネットサービス【公式】 (@SHARP_ProductS) 2014, 8月 30
8月の最後の週末にあったセガの音楽イベント「洗濯祭」には文字通りシャープのドラム式洗濯機が参戦した。
音楽イベントと洗濯機というとメチャクチャな取り合わせのようだが、これは音ゲーの「maimai」の筐体がドラム式洗濯機にそっくりだというネットのうわさに悪乗りしたシャープが、自社の家電製品のPRを行ったもの。一部の来場者は興奮のあまりに中に頭を突っ込んで記念撮影をしたそうだ。
この10年ほど、シャープに限らず日本の家電業界はどこも厳しい情勢が続いている。海外で新聞折り込みチラシを見ると、サムソンやフィリップスの製品ばかりで、日本製の洗濯機なんてどこにもありゃしない。シャープは先月ヨーロッパでの白物家電とテレビの製造販売から撤退することを決定している。
昭和の時代に演歌を聴いていたのは大衆だし、家電を買うのも大衆である。
つまり大衆から見離されて落ち目になるとオタクに媚びを売って話題作りに励む現象がここ数年多くみられるようになっているのだ。
今年のコミケには幸子のほか、企業ブースにホンダや雪印やらが参加したという。ホンダは若者のクルマ離れで苦戦しており、雪印は食の安全をめぐる不祥事で一度潰れたことがあるほか、消費者の牛乳の消費量も年々減っている。
ガルパンと艦これの聖地巡礼で味をしめている茨城県の大洗町のような、過疎化した地方都市がアニメオタクを釣る商法なんかもまさにこの一種だろう。
仕掛ける側からすればなんとかして話題作りをして売り上げに結び付けたいし、オタクからすれば、自分たちの世界で大衆の象徴的なアイコンが下手に出ながら自分たちに擦り寄ったことは面白いだ。しかし、一度それに見慣れてしまえば、それ以上に面白いものはなくなる。過去オタクたちに熱狂的な支持を集めながら忘れられたアニメ作品は数知れない。ましてやオタクに媚びた大衆コンテンツはアニメですらないから、一過性の話題は凄くても、飽きられたら悲惨である。
しかし、こういうものが横行する現状って果たしてまともだろうか。
オタク文化は本来、マニア文化(平仮名のおたく文化)の一つの位置づけである。写真マニアとか切手収集マニアとか鉄道マニアとか軍事マニアとかと同じカテゴライズなのである。一般大衆が流行りものをどんなに追いかけようとも、話題性に左右されずに自分たちの趣味をとことん突き詰めるのがマニア文化だ。
しかし、「今バズっている」というだけでアニメですらない、アニメと何も関連性もない大衆商売の蛇足にやいのやいのと群がる行為は、マニアのやることとしては邪道だ。アニメに対する深い造詣もなければ、演歌や洗濯機に対して興味を抱くきっかけにもならないような「オタクであっておたくではない人たち」はオタク文化にとって足枷になっている連中そのものであるのも事実だ。
そして媚びる側も誠実な商売ではないのだ。
幸子の騒動の際に泉谷しげるは「歌をちゃんと歌えよ」といったように、世間の支持を集めたいなら自分たちの売り物を磨いて誠実に商売をすべきだろう。
家電なら、アジアメーカーのコモディティ製品に淘汰されないような、ダイソンやアップルのようなオンリーワンの革新性のある製品開発をすべきだし、地方都市の観光誘致をしたいなら郷土の本来の資源をよりよく活用して広報に取り組むしかない。
近ごろは、こういう「大衆&オタク界の異業種コラボ」の話題がやたら多い。
肝心の大衆向け文化や製品をめぐるワクワクするような話題がまるで存在せず、オタクアニメも以前にくらべると製作本数や消費率が減っているものだと思う。
誇りを捨ててでも妥協したい汚い大人たちと、それに釣られるオタクの風上にも置けない薄っぺらい若者の、世代を超えた悪乗りでオタク文化は壊されてゆき、めぐりめぐって大衆文化そのものもダメになるのだろう。