3月12日の1号機への海水注入について
読売の8月30日の報道によれば、吉田調書では「19時4分に海水注入した直後、首相官邸にいる(東電の)武黒フェローから電話があり、『官邸はまだ海水注入を了解していないので、四の五の言わずに止めろ』と指示があった。」と述べている。まさに海水注入中止の指示は東電から官邸に説明要員で来ていた原子力の専門家である武黒フェローの指示だったのだ。
つまり武黒フェローは自分の判断で注水を止めろと言ったのだ。すでに17時55分には経産大臣から海水注入の措置命令が出されており、18時からの経産大臣も入っての官邸での打ち合わせでは、私を含め誰からも海水注入に反対する意見は出ていない。すでに淡水注入は行っており、海水注入すれば廃炉になることは分かっていたが、その場では東電関係者からも反対の意見は出なかった。
18時からの官邸での打ち合わせで、武黒フェローから海水注入の準備に1時間半程度時間かかると言うので、海水注入を続けた場合に析出する塩の影響、メルトダウンが起きた後の再臨界の可能性などについて原子力安全委員長から意見を聞き、海水注入の準備ができるまでに対応策を検討するということで18時20分ごろ打ち合わせは解散した。
その後に武黒氏が吉田所長にどんな電話をしたかは当時私は全く知らされておらず、海水注入が19時4分に開始されたことも知らされていない。もちろんその後武黒氏にも誰にも海水注入を中止しろとは言っていない。
2011年5月21日の読売新聞は一面トップで「首相意向で海水注入中断」という大見出しに、さらに「震災翌日、55分間」と付け加えて報道をした。すでに経産大臣が海水注入の命令を出しており、その経産大臣も入った打ち合わせで私を含め誰も海水注入に反対していないのに、「首相の意向」とあたかも私が海水注入を中止させたかのような報道を読売新聞は行った。当時なぜこのような誤った記事が出るのか私には分からなかった。吉田調書で改めて東電の武黒氏の指示であったことが確認された。
しかも読売新聞自身が報道している吉田調書で明らかなように、吉田所長は「私自身は注水を中止することは毛頭考えていなかった」と開始した海水注入は中断せずに継続していたことを、その後明らかにしている。読売新聞の報道は中止していない注水を「注水中断」と誤報を流したのである。
読売新聞は2011年5月21日朝刊一面の「首相の意向」により「海水注入が中断」という報道が二重の意味で間違っていたことを認め、私に謝罪すべきである。