2014-08-31 在米日本人は慰安婦問題で被害を受けているか
朝日新聞が吉田証言を訂正して以降、慰安婦問題そのものまで無かった事にしようと日本極右が勢いづいていますが、外務省も以下の通り、彼らを調子付かせております。
■【特報】「慰安婦」で嫌がらせ? 右派勢力が懸念あおる(29日付東京新聞)
「歴史問題で暴言などの被害に遭われた方、ご連絡ください」。こんな呼び掛けが、ワシントンの日本大使館や一部在米総領事館のホームページ(HP)に掲載されている。外務省の念頭にあるのは、日本軍慰安婦問題だ。米国各地では、韓国系団体の働き掛けで、慰安婦の碑や像が次々と設置されている。日本の右派勢力は「韓国ロビーのせいで在米日本人へ暴力や暴言が増えている」といったストーリーを流布させているが、外務省では今のところ被害を把握していない。 (林啓太、三沢典丈)
「いわゆる歴史問題を背景とした,いやがらせ,暴言等の被害に遭われた方,具体的な被害情報をお持ちの方は,ご連絡・ご相談ください。当地関係機関への情報提供支援など対応いたします」*1
ワシントンの日本大使館がHP上で、在留邦人に情報提供を呼び掛ける文書である。ほぼ同じ内容が、サンフランシスコ、ロサンゼルス、シカゴの各総領事館のHPにも出ている。
歴史問題とは何なのか。外務省アジア大洋州局地域政策課の貝原健太郎事務官は「米国の一部の地域で、慰安婦の少女像や記念碑が設置されている動きへの対応だ」と説明する。
外務省によると、米国内で被害状況を集め始めたのは今年二月ごろ。HPにも順次、呼び掛け文書をアップした。「激しい嫌がらせを把握したら、外務省として、現地の警察当局や行政当局にしかるべき対応を求める」と貝原氏。ただし、悪質な実例は把握していないという。「現地から東京に報告するほどの実例はないのだろう。情報収集は、実害への対処というより、予防的な施策だ」
確かに米国では、韓国系の住民が慰安婦問題の啓発活動を強化している。
象徴的なのが、慰安婦の少女像や記念碑だ。米ロサンゼルス近郊グレンデール市に昨夏設置された少女像が有名だが、二〇一〇年以降、韓国系の民間団体による自治体や議会へのロビー活動の結果、記念碑は少なくとも六カ所にある。最近では五月三十日、ワシントン近くのバージニア州フェアファクス郡庁舎の敷地に記念碑が建った。
韓国系の政治力の源泉は、住民の急増だ。米国勢調査局によると、韓国系の住民は一〇年に約百七十万人で、日系人約百三十万人をしのぐ。
米メディアの慰安婦問題への関心は高い。五月三十日付ワシントンポスト(電子版)は、フェアファクスの記念碑設置を報じる記事で「中国や韓国、フィリピンなどの少女らが家から拉致されて日本軍の慰安所に送られた、おざましい物語だ」と評した。
とはいえ、邦人の日常生活に支障を来すほど状況は切迫しているのか。ニューヨーク在住ジャーナリストの北丸雄二氏は「ニューヨークは在留邦人が多い地域だが、嫌がらせを受けたという話は聞いたことがない」と首をかしげる。
「在留邦人の大半は、韓国系住民とうまくやっている。仮に邦人への嫌がらせがあるのだとすれば、やっているのは相当な変わり者。それを真に受けて、被害の情報提供を呼び掛けるようなことをしたら、日本政府が風変わりなことをやっていると思われる」
今回の外務省の動きの背後には、日本国内の右派勢力が見え隠れする。
「今回の外務省の取り組みは、慰安婦問題の真実を知ってもらうための第一歩として評価したい」と語るのは、「慰安婦像設置に抗議する全国地方議員の会」世話人代表の松浦芳子・杉並区議だ。
松浦氏は今年一月、同会メンバー十二人と一緒に、慰安婦像のあるグレンデール市を訪ね、担当者らに「強制連行の事実はない」などと抗議した。
この際、現地在住の日本人母親四人と面談。日本人の子と分かると、食べ物につばを吐きかけられたり、「日本人は(韓国人を)性奴隷にした卑劣な国だ」などの暴言を浴びせられたとの証言を得たという。帰国後、現地でのやりとりは外務省にも伝えた。
松浦氏は「暴力などの実害はないが、領事館が被害実態の聞き取り調査をすべきだ」と語気を強める。一方の外務省は「情報収集を現地に指示したのは、地方議員の会からの報告後だが、その前から懸念の声は届いていた」(前出の貝原氏)と、同会の直接的な関与を否定する。
右派勢力は、もちろん、地方議員の会だけではない。日本人や、米市民権をもつ日本生まれの住民らでつくる「歴史の真実を求める世界連合会(GAHT)は二月、グレンデール市を相手取り、慰安婦像の撤去を求める訴訟をカリフォルニア州の連邦地裁に起こした。同地裁は今月上旬、原告の訴えを棄却した。
とにかく右派勢力は、慰安婦の碑や像、それを後押しする韓国系のロビー活動を敵視する。しかし実は、慰安婦問題が全米に知れ渡ったのは、〇七年三月、第一次安倍内閣当時の安倍晋三首相が「日本軍による女性の組織的な強制連行の証拠はない」と発言したことに端を発している。
発言に先立つ同年一月、米下院には「日本軍が若い女性たちを性的奴隷に強制徴用した」と、日本政府に謝罪を求める決議が提出されていた。安倍首相の発言を米マスコミが激しく批判すると、六月に採択。その後、オランダ、カナダ、欧州連合(EU)議会でも立て続けに同様の決議がなされ、翌〇八年、国連でも慰安婦問題について「法的責任を認め、被害者の多数が受け入れられる形で謝罪すべきだ」との初勧告があった。
韓国系のロビー活動が盛んになるのは、こうした国際的な動きの後である。
慰安婦にされた女性の被害や兵士らの加害証言を伝える「女たちの戦争と平和資料館」(東京)の渡辺美奈事務局長は、在米公館による情報提供の呼び掛けを「深刻な被害がすでに起きているかのような印象を与える。寄せられた情報がどう利用されるかも分からず、危ない」と問題視する。
第二次大戦後、ドイツでは、ナチスの記憶を伝えていくことが戦後のドイツ人のアイデンティティーとなっている。渡辺氏は「日本では、戦争の加害の記録を伝えていくことにコンセンサスがない。慰安婦の碑や像は本来、日本政府が率先して国内に設置しなければならないはずだ」と強調する。
慰安婦問題に詳しい木村幹・神戸大教授(比較政治学)は、今回の外務省の動きを「右派の圧力に配慮したものでしょう」と指摘した上で、大局的な外交見地に立つことの重要性を説く。「今回の呼び掛けが、在外公館のHPとしてどれほど異様に移るかを考えた方がいい。大切なのは、国益とは何なのかを考えること。国益とは国民の利益であり、それを最大化するのが外交の目的。国にとって何が必要で、どういう外交戦略が必要なのかという発想が欠けている。
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例えば、ホロコースト記念館が日本国内に建設されても、ドイツ人は怒るまい。ホロコーストが「世界の記憶」であることを十二分に理解しているからだ。翻って慰安婦問題はどうか。二〇〇八年の対日審査で、委員の一人は「慰安婦は世界の記憶」と発言した。そういうことなのだ。(圭)
日本極右勢力のロビー活動に関しては小山エミ氏も週刊金曜日にルポを掲載してますが、彼らの傲慢さはむしろ日系米国人を敵にまわす有様です。
■週刊金曜日2014年6月13日号掲載『大日本帝国を擁護する動きに反発を強める日系米国人』(7月3日付「macska dot org」)より
…そもそも米国において日米開戦と共に日系人収容政策が取られた背景には、日系人は当時の大日本帝国及び日本軍の手先であり、米国籍であっても信用に足らない、という人種的偏見があった。戦後そうした偏見にはなんの根拠もなかったことが明らかになったが、それから何十年もたったいまも、米国への忠誠心を疑われることが日系人にとっては歴史的トラウマとなっている。あとからやってきた保守系日本人たちが、そうした事情を理解せずに、「日系人」代表のようなふりをして大日本帝国を擁護する運動をはじめたことに、日系人たちがことさら反発するのは当然だった。
(中略)
「慰安婦」碑設置に賛成の立場を取ったNCRRとJACL(注;それぞれ市民権と名誉回復を求める日系人の会及び日系米国人市民連合)サンフェルナンドバレー支部には、目良氏(注;目良浩一GAHT代表)を通して日本の国会議員から面会の要求があった。参加した議員は日本維新の会所属(注;当時。現在では3名とも「次世代の党」所属)の杉田水脈・西田護・中丸啓の各衆議院議員。しかし、「日系人の意見を聞きたい、理解したい」と言われて面会に応じた日系人団体の代表者たちに対し議員たちは、「慰安婦」たちは自発的な売春婦だった、などと説得しようとするばかり。
この面会について、杉田議員はのちのインタビュー記事で日系人の人たちを「日本にいる左翼と同じような方々」と呼び、「訳の分からない反論をした挙句(中略)結局物別れに終わってしまいました」と説明している。…
杉田議員のインタビュー記事は在特会を持ち上げる隔月誌「JAPANISM」*2に掲載されたものですが、歴史修正主義者の夜郎自大ぶりを象徴するものと言えます。
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