イタリアのレンツィ首相とフランスのオランド大統領が構造改革の実現に向け奮闘している。
レンツィ氏は2月、首相として初めての議会への演説で、同国は「堅苦しい官僚制度や規則、規制、規範に縛られた、行き詰まったさび付いた国だ」と的確に言い表した。オランド大統領は今週、左派のモントブール産業再生相を解任し、自身の元経済担当顧問のエマニュエル・マクロン氏を後任に据えた。同氏は規制撤廃推進派として知られている。
■規制の合理化、EU諸国の後押しに
やや長い目で見れば、規制の合理化は多くの欧州連合(EU)諸国の経済成長を後押しすることは間違いない。世界銀行のビジネス環境ランキングにおいて、フランスは189カ国のうち残念ながら38位である。イタリアはEUではギリシャの次に低い65位で、カザフスタンやベラルーシよりも低い。
たとえばイタリアの司法制度は利己的で堅苦しい官僚制度で行き詰まっている。世界銀行は商業上の紛争を解決するのにイタリアは約1200日かかるとしている。豊かな国の平均は529日だ。フランスは同国の悪名高い公証人制度のせいもあり、不動産登記に50日かかるほか、8つの異なる手続きも必要だ。同国も豊かな国の平均の約2倍である。
レンツィ氏とオランド氏はこうした問題を認識しているが、彼らの改革実施の試みは特定の利益関係者や無気力のためあまり前進していない。
同じく構造改革が必要なギリシャやスペインと違い、ユーロ圏の国家債務危機の時、フランスとイタリアは国際通貨基金(IMF)に頼らなかった。だがそれはIMFが改革派の政治家に対し、大義名分を与えるという伝統的な役割を果たせなかったともいえる(改革を推進する力の欠如は同じ理由で多くの新興国において明らかだ)。
巧みな構造改革の事例は、効率という抽象的観念にだけでなく、現行システムで虐げられている人々の心にも訴えるだろう。
たとえばフランスとイタリアそしてスペインも二重構造の労働市場で知られる。中心は労働法に守られた比較的高賃金の正規労働者で、すそ野には臨時雇いなど不安定で低賃金の雇用がある。課題はすべての労働市場の保護や労働者の権利を破壊することではない。特権的エリートのためだけでなく、できるだけ多くの安定した高賃金の雇用を創出する方向に向かうことだ。
同様にイタリアの司法制度やフランスの公証人制度による息苦しさは被害者なき犯罪ではない。事業が複雑な企業が改革の最も効果的な支援者であるべきだ。
欧州中央銀行の金融緩和策や、フランス内閣の騒動の直接の原因となったEUの自滅的な財政規則の緩和にしか、近いうちに経済が成長する明快な答えはない。だが多くのEU経済の問題は、能力をはるかに下回る水準で運営されていることだけでなく、能力があるべき水準よりはるかに低いことだ。
レンツィ氏とオランド氏は手にできるすべての幸運と支援が必要だ。産業や職業を改革するために既得権に打ち勝つことは、政治家ができる最も難しいことの一つだ。両氏はそれをなし遂げるため、巧みな国内政治運営と外部からの支援の両方が必要だろう。
(2014年9月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)(c) The Financial Times Limited 2014. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
人気記事をまとめてチェック >>設定はこちら
世界を目指す、全てのビジネスパーソンに。 ビジネス英語をレベルごとに学べるオンライン学習プログラム。日経新聞と英FT紙の最新の記事を教材に活用、時事英語もバランス良く学べます。
オランド、レンツィ、EU、社説、IMF、イタリア、モントブール産業
イタリアのレンツィ首相とフランスのオランド大統領が構造改革の進展で奮闘しているかもしれないが、両氏は少なくともその必要性は認識している。…続き (9/1)
フランスがミストラル級強襲揚陸艦2隻を12億ユーロでロシアに売却する契約はこの夏大きな注目を浴びたが、ノルウェー企業がロシア国営石油ロスネフチと海上石油掘削装置(リグ)を提供するさらに大規模な契約を交わしたことは、欧州連合(EU)による経済制裁の限界を示している。…続き (9/1)
スペイン北部・カタルーニャ自治州の独立運動を率いる幹部は、もしスペインがカタルーニャの分離独立の是非を問う住民投票を認めなければ、スペインは外国人投資家からの反発と公的債務に対する新たな市場圧力に見舞われると警告した。…続き (9/1)
各種サービスの説明をご覧ください。