地震科学探査機構(JESEA)による地震予測サービスについて

2013年12月06日 | 地震予知研究
「地震を予測し配信する」と謳ってサービスを展開している団体に、地震科学探査機構(JESEA)というところがあります。

このサービスでは、東大名誉教授の村井俊治氏らによる予測方法が用いられています。簡単に言うと、電子基準点のデータにより、任意の3地点で形作られる三角形の面積変動を監視するものです。地震発生の数週間前に、異常な面積変動がみられるのだと主張しています。

なお村井氏らは、観測データをもとに、「来年2014年3月までに南海トラフ巨大地震が発生する」との警告を、メディアに発しています(たとえばこちら)。

たしかに、電磁波の伝播異常によって地震を予測しようとする試みよりは有望だと思えますし、これで予測できる地震も少しはあるかも知れません。ですが、全ての地震を予測できるかのごとく豪語する彼らの宣伝は、明らかに誇張であり、あまり信頼できません。以下に説明します。


■ 特許明細書に虚偽の記載がある

彼らは、この地震予測方法の特許を取得しています(特許番号3763130)。ですが、この特許明細書に重大な瑕疵があります。実施例として彼らの地震予測実績が記載されているのですが、間違い、あるいは虚偽の記載があるのです。したがって、彼らの研究や実績の内容そのものが、信頼できません。

この明細書では、予測実績として2000年の観測結果が示されています。この観測では、以下に示すとおり9つの三角形が設定されています(同特許明細書の段落0040)。



そして、このうち3番の三角形に面積異常変動が観測され、その三角形のなかには鳥取県西部が存在し、1ヶ月後にそこで地震が発生した(2000年の鳥取県西部地震)というのです(同段落0042〜0043、赤線は本サイトによる付記)。



…ところが、お手元の日本地図を見て頂ければひとめで分かるのですが、3番の「出雲、松山、広島」で構成される三角形のなかに、鳥取県西部はないのです! 3番の三角形は、鳥取県から西に50km以上もズレており、鳥取県西部地震の震央である米子市付近をカスりもしていません(下図において、3番の三角形を赤線で示し、鳥取県西部地震の震央を×印で示しています)。



鳥取県西部地震の震源を含んでいるのは、むしろ1番の「出雲−海南−徳島」です。2番の「出雲−高松−松山」も、3番の三角形よりは、震央である鳥取県に近いです。ところが、彼らの特許明細書では、1番と2番は「問題なし」で、3番だけが「前兆警戒」となっています。

このように、「異常がみられた三角形のなかに鳥取県西部が存在する」というのは、明らかに虚偽の記載です。実際には、異常がみられた三角形のなかでは地震が発生せず、異常がなかった三角形のなかで地震が発生しているのです。つまり、彼らの手法で「鳥取県西部地震が予測できた」というのは、明らかなウソ、あるいは誇張、さもなくば思い違いだと言わざるを得ません。


■ 地震があったときしか記載がない
 
百歩譲って、仮に「地震の前に面積変動があった」ことが事実だとしても、「地震がないときには面積変動もない」のか否かについては、彼らは全く沈黙しています。つまり、上述の明細書だけでは、面積変動と地震との相関関係が、全く分からないのです。

端的にいえば、「面積変動は地震がないときにも起こっているのではないか」という疑いを拭えません。もっと踏み込んで言えば、「地震がなくても面積変動があるのに、それを隠蔽しているのではないか」という疑念があります

忙しい特許庁の審査官ですから、このような明細書でも特許登録にしてしまったのでしょう。ですが、もし私が審査官なら、統計学的に相関関係も因果関係も何ら立証していない、こんな不備だらけの明細書による特許出願は、確実に拒絶します。


■ 誤差の許容範囲が大きすぎる

彼らのホームページをみると、彼らの手法が地震を予知できる根拠として、マグニチュード6以上の地震162個に対して「全ての地震に前兆現象が見られました」、と記載されています。

ところが良く読むと、「数日前から2ヶ月前くらいの範囲で前兆現象(面積の異常変動)が認められました」と書いてあるのです。マグニチュード6以上の地震は、日本では平穏時で年間に20個ほど、つまり1ヶ月に約1.7回で、震災後はさらに顕著に増えています。こうした状況で、数日前でも2ヶ月前でも前兆として認定して良いのなら、ほとんどの異常変動を「地震前兆だ」とコジツケられてしまいます

さらに言えば、2013年11月の段階で、上記したように「来年2014年3月までに地震が起こる」と言っているということは、2ヶ月どころか、少なくとも4ヶ月は誤差をみているようです。相関関係を認定するには、誤差の幅が広すぎます。

しかも、上述した特許明細書での記載ぶりからみて、異常が認められた三角形が震央から遥かハズレていても、地震の前兆だと認定してしまっている疑いがあります。期間だけでなく、場所についても、かなりの誤差を許容して前兆認定を行っていると思われます。

そしてやっぱり、前兆現象があっても地震がなかったケースがどの程度あったのかについては、ホームページにおいても全く沈黙しています。つまり、地震とは関係なく面積変動があるという疑いを、払拭できないのです。

…これでは彼らの予測方法による的中率などを、統計学的に全く評価できません。こうした点を勘案すると、やはり彼らによる地震予測はあまり信頼すべきではなく、かなり誇張して喧伝されているとみるべきでしょう。


■ 

近年、GPSによる地殻変動の観測は、その精度を向上させてきています。ところが、思いのほか、地殻変動を観測しても、地震発生を予測できないということが分かっています。地殻変動に異常があっても地震が起きなかったり、異常がなくても地震が起きたりしているのです。こういった近年の観測結果は、地震学界では半ば常識なのですが、地震学ではなく測量学が専門である村井氏は、どうもあまり認識していないようです。

ですが、もちろん、「電磁波をみれば地震が予測できる」という文句よりは、少しは信憑性が高いですし、何らかの成果も期待できます。あまり誇張した不用意な宣伝をせず、真摯な研究の発展を期待します。
ジャンル:
科学
キーワード
鳥取県西部地震 南海トラフ 三角形の面積 電子基準点
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2 コメント

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とても共感しました (通りすがりです)
2014-04-23 20:06:39
こんにちは。最近、ふとしたことから地震予知に興味をもち、このページにたどりつきました。

こちらでは、「予知」に対して感じていた「胡散臭さ」が明快に説明されていて、さまざまな疑問が氷解しました。ありがとうございます。

私は文系の学部を出て文系の大学院を修了しましたので、自然科学のことはわかりませんが、科学(学問)というものは、まず、客観性をもたなければいけないと考えています。自然科学は、おそらく、観察と実験(検証)という方法によって、絶えず仮説を吟味してきたのではないでしょうか。

その点で、さまざまな「予知」は、おっしゃるように、検証が決定的に欠けています。批判(吟味)なき理論は空論にすぎません。さまざまな「予知」が、どのような仕方でもよいので公開され、第三者の検証をつうじて彫琢されないかぎり、予知に近いものさえできないのではないでしょうか。

地震についてはなにも知りませんが、予知にむけて、さまざまなアプローチが存在しうるとはおもいます。地面のしたで複雑なことが起きているとすれば、さまざまなアプローチが相互に連絡しあい、視野をどんどん拡げていくことが必要かもしれません。ある方法で前兆を捉えても、別の方法では異常がないこともあるでしょう。知られているかぎりの前兆が観測されたにもかかわらず、発震しないといったこともあるかもしれません。要は、当たるとか当たらないという表層的なことではなく、地球にかんする知見をよりふかめ、地球をさまざまに理解していくことが重要ではないかとおもうのです。そのようにしてはじめて、予知に近いものが可能になるのかもしれません。(すみません。門外漢の感想です)

さまざまなコメントを見ていると、いやがらせに類したものもありますね。批判された団体の仕業でしょうか。それならまだよいのですが、一般の人の書込みだったらとおもうと、暗澹とした気もちになります。なにかを信じたい人たちが悲鳴をあげているのでしょうか。世の中には真実を見せられることを極端に恐れる人がおどろくほどたくさんいることを、「予知」を見はじめてから知りました。

いずれにしても、これからも、有益なブログをつづけてくださると、とてもうれしくおもいます。あらためてお礼申しあげます。長文、失礼しました。
地震科学探査機構の地震予測? (藤散歩)
2014-05-29 04:58:16
友達から「測量学が専門の東大名誉教授がGPSデータから地震を予知している」と聞いて、その原理等を調べていてこのブログを発見しました。すっきり、しかも的確に指摘されていて、非常に参考になりました。これからも、地震予知に関して有益なブログを続けてくださると大変ありがたいと思います。(元地球科学者)

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