国際報道2014

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[BS1]月曜〜金曜 午後10時00分〜10時50分

特集

2014年8月25日(月)

タイが中国に急接近 思惑は?

タイの軍事政権が中国との関係を急接に深めている。今月ミャンマーで開かれたASEAN外相会議で焦点となった「南シナ海の領有権」。NHKが入手した文書から、タイが中国に批判的な文言の削除を求めていたことがわかった。クーデターによって政権を握った軍政に対して、日本や欧米諸国は距離を置いている。 その一方で中国は北京を訪れたタイ政府高官を厚遇するなど関係強化の姿勢を鮮明にしている。中断されていたタイと中国を結ぶ高速鉄道計画も復活。さらに中 国が力を入れる「アジア・インフラ投資銀行」の設立計画についても、タイは支持を表明している。中国への急接近を図るタイ軍政の思惑を探る。
出演:飯島大輔(アジア総局記者)

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ほほえみの国・タイ。
伝統的な親日国に大きな変化が起きています。
今、急速に関係を深めているのが、中国。
5月にクーデターを起こしたタイの軍事政権は、いち早く政権に理解を示した中国との外交関係を強めています。

タイ外相代行
「中国との関係は良好だ。」

そして今日(25日)。
クーデターを率いたプラユット陸軍司令官が、軍関係者が過半数を占める議会によって暫定首相に選出されました。

タイ プラユット暫定首相
「この国のかかえる様々な問題を早急に解決する。」







軍事政権タイは今後どこへ向かうのか、行方を占います。

黒木
「かつて政治的にも経済的にも東南アジアの優等生と言われたタイ。
クーデターが起きてから3か月余りがたちました。」

有馬
「私も6月に現地を訪れたんですが、日本企業の活動に大きな影響はありませんで、表面的にはすでに普段どおりの暮らしが戻っているようにも見えました。
一方、軍事政権は、この数か月の間、中国とのパイプ強化に舵を切り、急速な動きを見せています。
タイはこれからどこへ向かうのか、現地からの報告です。」

中国に急接近 軍政タイ

先週、中国とASEANの連携を深めようというシンポジウムがバンコクで開かれました。
タイの主要な財閥の幹部など200人余りが顔をそろえ、演壇に上ったタイと中国の代表は、両国の急速な接近ぶりを印象づけました。

タイ シハサック外相代行
「タイは東南アジアの中心に位置し、経済も地域で2番目の規模を誇る。
中国とASEANを結ぶ架け橋となることができるでしょう。」



中国 在バンコク中国大使館 公使参事官
「タイはASEANの重要メンバーで、とりわけ立地も良い。
中国とASEANをつなぐ重要な拠点となるでしょう。」





シンポジウムでは、タイが中国にとって魅力的な投資先になるにはどうしたらよいかなど意見が交わされ、中国への期待の大きさを伺わせました。

参加したビジネスマン
「中国や中国企業は世界中とつながっている。
今日のセミナーは私たちタイの企業にとって非常に有意義でした。」

タイの国際政治の専門家は、両国が急速に接近するきっかけとなったのは5月のクーデターだという見方を示しています。

安全保障問題研究所 ティティナン・ポンスティラック所長
「軍事政権はクーデターを認め、支援してくれる存在を必要とした。
それが中国だ。」





クーデターを受け、欧米諸国は公式訪問や軍事交流を取りやめなどタイの軍事政権と距離を置く対応を取りました。

これに対して中国は、北京を訪れたタイの外相代行を外相より格上で副首相級の楊潔チ国務委員が迎える異例ともいえる歓迎ぶりを見せました。
欧米とは一線を画した対応に、軍事政権側も応えます。





先月(7月)、凍結されていた中国へとつながる高速鉄道の計画を推進することを決めました。
完成予定は2021年。
総工費2兆円余りを投入して、中国との人やモノの流れを加速させようというものです。
鉄道は大型船が入港できるタイ南部の港湾地帯にまで伸びる計画で、南シナ海などで有事が起きた際には、中国にとって重要な物流のバイパスとなります。
さらに今月(8月)、タイは、中国との外相会談で中国が設立を目指し、日本が警戒感を示している「アジアインフラ投資銀行」に支持を表明したうえで、創設のメンバー国となることを明らかにしました。

タイ シハサック外相代行
「中国との関係はとても良くなっています。
インフラや投資銀行に関する中国側の提案は大歓迎です。」

こうしたタイの姿勢は、アジアの安全保障を巡る議論にも影響を与えています。
今月、ミャンマーで行われたASEANの外相会議では、中国が海洋進出を進める南シナ海の領有権問題が最大の焦点となりました。

NHKが入手した、共同声明の草案です。
高官レベルの協議の段階では、沖縄県の尖閣諸島を含む東シナ海での緊張の高まりに懸念を示す項目や、南シナ海で「緊張を高める行為を停止する期間を設ける」という、フィリピン政府による提案の検討など、中国をけん制する内容が盛り込まれていました。



ところがこれらの文言は、タイなどが反対にまわり削除されました。
最終的に発表された共同宣言では、むしろ中国政府が最近、南シナ海問題で対話に前向きだと評価する内容が強調されていました。

安全保障問題研究所 ティティナン・ポンスティラック所長
「中国は今、タイにとって最良の友だ。
欧米の批判が強まれば、さらに中国シフトを強めるだろう。」


それぞれの思惑は?

有馬
「バンコクのアジア総局に飯島記者です。
タイと中国の急接近、それぞれどんな思惑があるんでしょうか?」

飯島記者
「軍事政権を認めてくれるいわば後ろ盾がほしいタイと、ASEAN諸国で多数派工作を進めたい中国の思惑が一致した形です。
タイの軍事政権と中国の関係は、軍事政権時代のミャンマーと中国との関係によく似ています。
中国は、ミャンマーが欧米の経済制裁を受けている間に、軍事政権との独占的な関係を築きました。
今回も中国は、タイの状況をうまく利用して接近し、ASEANでもタイを味方につけることで、南シナ海問題を巡って対立するフィリピンやベトナムの批判的な意見を、いわば封じ込めることに成功したと言えると思います。」


今後の見通し

黒木
「タイと言いますと、多くの日本企業も進出している親日国というイメージが強いんですけれども、中国へのタイの接近、このまま進むんでしょうか?」

飯島記者
「その懸念はあります。
取材したシンポジウムでも、中国からの投資は、やがて日本を上回るという見通しにたって、タイが中国にとってファーストチョイスになるにはどうしたら良いかと話し合っていました。
また特に気になるのが、タイが、中国が設立を目指している『アジアインフラ投資銀行』の創設メンバーになることを表明した点です。
この銀行の設立は、日本の影響力が強い『アジア開発銀行』に対抗する狙いがあると見られています。
そこに積極的に加わるということは、来年(2015年)にもスタートするASEANの経済共同体の設立も視野に、中国を後ろ盾に影響力を伸ばしたいというタイ側の思惑も透けて見えます。」


日本はどう対処?

有馬
「タイは日本にとっても東南アジア外交の要だと思うんですが、この中国とタイの急接近、どう日本は対処すればいいんでしょう?」

飯島記者
「タイが『中国への接近』というカードを欧米へのけん制として使っているという側面があることを踏まえる必要があると思います。
実はタイが最も懸念してるのは、中国、日本、そしてアメリカという主導権争いに巻き込まれることです。
先日のシンポジウムでも次のような発言がありました。」

タイ シハサック外相代行
「この地域は新たな勢力(中国)と既存の勢力(日・米)がせめぎあう場所であり、おのずと緊張も高まり衝突の可能性も現実味を帯びている。」





飯島記者
「タイはこうした地政学的な状況を見据えつつ、したたかにバランスを取ろうとしているわけです。
日本としては、引き続きタイの軍事政権に、民政への復帰を働きかけつつ、タイとのこれまでの良好な関係と、経済的な強い結びつきを生かして信頼できるパートナーは誰かということを示していくことが今後の課題となりそうです。」

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