独占禁止法は「市場経済の憲法」とも呼ばれる。健全な競争を保つために基本となるルールである。

 巨大市場である中国にも独禁法があり、運用が本格化している。国内外の企業が次々に摘発されている。

 急速な成長を遂げた一方、今も市場の問題が多い国である。独禁法の精神に従い、公正な競争を促すなら方向性は正しい。習近平(シーチンピン)政権は筋を通して経済改革をいっそう進めるべきだ。

 中国政府の国家発展改革委員会が、日本の自動車部品メーカー8社と、ベアリングメーカー4社への処分を発表し、合計約200億円の罰金を科した。各社が受注価格の取り決めをしていたとしている。

 以前から自動車業界全般への調査に乗り出しており、独アウディなどについて近く結論を出すという。当局の動きを受け、欧米各社はすでに完成車と補修部品の値下げに応じた。

 これまで、液晶パネル、粉ミルクなど幅広い外国企業が標的になったが、「外資たたき」だけともいえない。外国企業に値下げを迫ることは同業の国内企業に圧力となるうえ、中国の大手通信会社や有名酒造会社などにもメスが入った。

 08年の法施行後、中国当局は欧米のノウハウを学んできた。

 背景には消費者の感情もある。外国企業製品は国内で「不当に高い」とみられている。海外を知る人が増えるにつれ、実感は増しているようだ。

 個別の価格水準には各社それぞれ言い分があろう。ただ、改革開放政策の波に乗って中国市場に参入した外国企業が、これまで厚い利益を手にしてきたのも事実だ。

 中国国内の有力な国有企業と組んで販路を確保したり、地方政府との密接な関係を使って優遇を受けたりしてきた。

 そんな時代が終わり、正常な市場に脱皮する過程だとすれば、むしろ歓迎すべきだ。

 ただし、そのために必要な様々な改革については、中国の側により重い責任があることを自覚してもらいたい。

 エネルギーや金融部門での巨大国有企業の存在に象徴されるように、中国には市場競争に反する制度が根強く残っている。自動車産業も同様で、現地生産には厳しい参入規制がある。

 「公平な競争」「経済の運営効率」「消費者の利益と社会公共の利益」を独禁法はうたっている。習政権は、聖域を設けずに市場開放を進めるべきだ。それが中国の健全な発展につながり、世界経済にも役立つ。